新規事業を成功させる起業家脳の作り方~新規事業立ち上げに必要な考え方のセオリー

SEEDATAではこれまで、多くの新規事業を進めている企業からさまざまなご相談を受けて参りましたが、近年さらに、新規事業、新価値を創造したいという企業が増え、その際の新規事業部の進め方や制度の設計方法について質問される機会が増えてきました。

そこで当ブログでは、連続して成功している起業家たち(シリアルアントレプレナー)はどのようなものの考え方をしているのか、多くの起業家を見てきたSEEDATA代表の宮井氏が見つけた彼らの共通点から、イントラプレナー(社内起業家)や起業家に必要な、起業家脳の作り方について連載してきました。

当記事は、「新規事業を成功させる起業家脳の作り方」の連載を再編集し、成功している起業家と起業内での新規事業担当者の考え方の違いを事例を交えつつ項目ごとにまとめました。



新規事業を成功させる起業家脳の作り方①許容可能な損失の原則


成功している起業家は新規事業で「いくらまで売り上げるか」ではなく「いくらまで損ができるか」を考えている



2回以上起業して成功している人たちのことを、シリアルアントレプレナーと言います。シリアルに(連続して)起業しているということですね。


アメリカではエフェクチュアルアントレプレナーシップというシリアルアントレプレナーの研究が進んでいて、以前私は『エフェクチュエーション』という起業家を研究した本の翻訳をサポートしました。そこで、日本人でも連続起業している人は同じような考え方をしているのかをインタビューしてまとめたのが、私が執筆した『2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』という本になります。当連載ではこの本の中で解説している、起業家に共通する8つのセオリー特徴についてご紹介していきます。


まず、起業家の特徴として、みなさん行動力と度胸があるようにみえていると思いますが、実は"起業家はとても臆病"という共通点があったんです。


一見実行力があるように見える裏では、「自分はどこまで損ができるか」を常に考えるリスク思考の持ち主なんです。

一般的に、新規事業を考える際は「どれくらい売り上げるか」を考えてしまうものですが、

本当に生き残る起業家たちは、「自分はどれくらい損ができるか」を考えています。起業では、当然失敗することも多いので、致命傷を負わないレベルで撤退することが、新規事業を進めるうえではすごく重要になります。


「エフェクチェーション」では、「許容可能な損失の原則」というものが紹介されており、私がインタビューした日本人の連続起業家にも同じ考え方を発見することができました。

彼らは、いくら売り上げがでるかという話はほとんどせず、「今回はいくら失敗しても3000万だから、そのリスクがとれるならやってしまおう」というような考え方をするのです。

むしろ臆病だから、「失敗したらこれくらいだろう」というところまで考えて、「これくらいなら致命傷は負わないから」と考えて踏み出すというわけです。

一般的には、いくら売り上げるかばかりを考えてしまいがちですが、いくらまでの損失なら許容かを新規事業の計画に入れることができるか、ここまで損をしたら撤退という損切りのラインを決められることが、新規事業を考えるうえでは大事です。

これは起業家の話なので、社内で起業するイントラプレナーには関係ないと思うかもしれませんが、イントラプレナーもアントレプレナーも、不確実なものにチャレンジすることと、その状況にさらされるということは同じです。


不確実な状況にチャレンジするときには「許容可能な損失の原則」に則り、いったいどこまで損失を許容するのかを決めておく必要があり、それを役員の方にも伝えておく必要があります。正確には「これくらいまでは損をする可能性もありますが、うまくいけばここまで売り上げる可能性があります」と伝えましょう。

許容可能な損失を事前に共有しておくことで、突然上層部から「ダメだったからやめよう」と言われることはなくなるはずです。


新規事業の損失許容額は1500~3000万円くらいに設定する



では、ひとつの新規事業を進める際に、許容可能な損失はいくらに設定すべきなのかという点ですが、基本的に大手企業で1年程度は本格的に事業としてチャレンジしようと考えるのであれば、損失可能額は1500~3000万円くらいの間に設定しておくことをオススメします。

それより少額だと、企業としてはこじんまりしすぎてしまうし、逆にそれより大きいと、まだ作らなくていいものを作っていたり、人員が多すぎたり、なにかがムダになっている可能性があります。

もちろん、目指したい規模により異なる場合もありますが、3000万円より大きく設定する場合は、いったん本当に必要かを考えて損失許容額を決めましょう。


これは新規事業を進める際に限らず、新商品・新サービス開発の場合も同じです。

たとえビジネスモデルが固まっていても、これまで市場で受け入れられたことがない商品を出すのであれば、「いくら売り上げよう」と考えるより、「この商品を世の中に出すことによって得られるインパクトと天秤にかけた場合、いくらくらいまで損できるのか、どのくらいの期間まで待てるのか」をしっかり議論したほうが、新商品、新サービス開発の場合もうまくいきます。


新規事業を成功させる起業家脳の作り方②「自分は運がいい」と信じていること


新規事業における「運」とは「タイミングを掴むための努力の結果」


連続して成功している起業家に共通することのひとつとして「自分は運がいいと信じている」というセオリーが存在します。

以前執筆した『2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』起業家の方たちにインタビューを続けていく中で、こちらが聞いていなくても「自分は運がいいんですよ」と切り出す人が多かったため、途中から「あなたはご自身を運がいいと思いますか?」と聞くようにしたところ、なんと21人中14人が言いよどむことなく「運がいい」と即答しました。残り7人については自ら「自分は運がいいんです」と切り出してきたのです。


当ブログ読者のみなさんが周りを見まわしてみても、そんな風に答えられる人ばかりいないはずです。これは新規事業にも活用できる起業家のものの考え方の特徴だなと気が付きました。

この「運」という言葉は一見非科学的ですが、運というのは「タイミングを掴むための努力の結果」という風に私なりに分析しています。

というのも、成功している起業家たちはみな、すごくタイミングを重視しているのです。

同じことをやる、言う、撤退するにしても、すべてどのタイミングでやるかで結果は変わってきます。つまり、どんなに正しいことを考えていても、タイミング次第でいいことになったり、悪いことになるということを肌感覚で知っているのです。


彼らはみな、自分たちにとって最適なタイミングに乗れるようにしっかり準備していたり、今はタイミングとしてよいかどうかを分析していたりします。

努力すべきことを努力して準備しているので、一般の人が考える「運がいい」とは若干ニュアンスが違ってきますが、このことから分かるのは、イントラプレナー(社内起業家)だとしても、普段の仕事の何倍もタイミングを重要視したほうがいいということです。


たとえば、ニュースを配信する事業を立ち上げたいという場合なら、スマートニュース産業が盛り上がってた少し前のタイミングに打ち出していけば、仲間も資金も集めやすいく、社内の協力も得やすかったでしょうが、それを今やろうとしても、別のことのほうに注目が集まっているし、タイミングとしても遅いと思われてしまうでしょう。

つまり、同じ優れた内容だとしても、時流に乗せていけるかどうかが大きなポイントになり、そのためにも未来の市場や未来の生活者を常に見据える必要があります。日頃からその準備しておくことで、タイミングを逃さず打ち出すことができる、その努力をほとんどの起業家たちはしているのです。


部署として新規事業を立ち上げる時にもこの考え方は重要になってきます。もちろん、時流に乗せるというのは今顕在化しているものではなく、これから来そうなときにやることが大事なので、2年後3年後の未来を意識しなければいけません。



成功する起業家たちはピンチをポジティブに受け入れ、クリエイティビティを発揮する


起業家の方たちがみな「自分は運がいいと思っている」と聞いた時、もうひとつ思い浮かんだのは、ハピネスアドバンテージの法則です。

誤解をおそれずに単純化していうと、「成功した人が幸せになれるのではなく、最初から幸せなマインドの人が成功する」という逆の因果もあるのではないかということです。


幸せの定義というのは人間関係、健康状態、資産などから定義されたもので、最初から「自分は幸せだ」と思っている人が成功しているという仮説で、それにすごく近いように感じました。

では、起業家にとってのハピネスアドバンテージとは何なのかを、インタビュー中の会話の中から、私なりに分析してみた結果、彼らは、一見普通の人からみたらトラブルとしか思えないようなつらいことが起こった時、「そのトラブルにこそチャンスがある」と考える、発想のフレームワークを持っていたのです。


危機であると思えば危機でしかありませんが、「自分は運がいいんだからこの中にチャンスがある」と思えたり、「これは意味があることなんだ」と目の前のトラブルに対峙したりすることで、結果、ピンチを起死回生のチャンスに繋げているのではないかと感じました。


たとえば、社員が一気に5人辞めてしまった場合、普通ならその場をどうやり過ごすか、被害を最小限に食い止めるくらいしか考えられませんが、新規事業に成功する起業家脳の人であれば「人件費が浮いた分新しい事業にチャレンジしよう」「事業を飛躍させられるような新しい人材に入れ替えるチャンスかもしれない」と、自分自身や会社を一段上げるために起こったことなのではないかと考えます。


このように自分なりにポジティブに転換することで、実際に前向きなアクションにつなげたり、クリエイティビティを発揮したりすることができるのではないでしょうか。

これが私の考える「成功している起業家は自分は運がいいと信じている人が多い」という理由です。


これはある種の創造性を発揮するためのマインドセットでもあり、自分は運がいいと信じている人は、クリエイティブに目の前のトラブルにチャレンジしているのだと思います。

たとえば、私が以前、トライブリサーチを始めた頃、既存のビジネスをやっている社内の人間から「マーケティングリサーチなんて受注してからやるものだろ」と批判されました。その時「この意見はきっと得意先にも言われることだから、きちんと納得させられる答えを考えておこう。むしろ言ってもらえてよかった」と思うことができたのです。


これは、一般的なポジティブシンキングとは少し違い、どう違うかが実はすごく重要になってきます。

ケガしたときにたとえると、「ケガをしたけど命は助かった、良かった」と現状をポジティブに受け入れているように見えるポジティブシンキングですが、狭義のポジティブシンキングは、「良くないことが起きたけど、もっと良くないことがあったかもしれない」という意味も混ざっています。

一方、「ケガをした、ここになにかチャンスがあるはず」「脚をケガしたから腕を鍛えることができる」と考えるのが起業家です。災いをどうチャンスとして捉え、行動につなげられるかが、起業家にとってのハピネスアドバンテージなのです。

私の場合、「批判されたけどお取り潰しにならなくてよかった」では単なるポジティブシンキングで、ハピネスアドバンテージではありません。

「これはクライアント向けの説明を考えるチャンスだ」と考え、ピンチをチャンスに変えるためのアクションに繋げることこそが、起業家にとってのハピネスアドバンテージといえるでしょう。


新規事業部のマネージャーになる人は、常にこの「ハピネスアドバンテージ」の考え方を意識し、なにかトラブルがあれば「ピンチをチャンスに変えていこう」とするのが正しいコーチングであり、その空気を一緒に作っていくのが新規事業部のマネージャーのあるべき姿といえます。

新規事業とはそもそも未開の領域をいくわけですから、体験したことのないアクシデントはつきものです。そのアクシデントをどう捉えるか、チームとしてもこの考え方を共有することは失敗しない新規事業部として重要な成功例を生み出すでしょう。


新規事業を成功させる起業家脳の作り方③競合より協業の考え方


成功している起業家たちが"競合より協業"を選ぶ理由とは?



アントレプレナーにもイントラプレナーにも活用できる連続起業家の考え方の中で、競合より協業という考え方があります。


サラス・サラスバシーの「エフエクチュエーション」の研究も、いわゆる大手企業のイントラプレナーとアントレプレナーを比較しているものですが、この「競合より協業」という考え方も、大手企業の新規事業部のマネージャーの方と、起業家の考え方の違いを示す特徴的な部分といえるでしょう。

わかりやすく事例を用いてお話すると、大手企業出身者にビジコンで事業計画を書いてもらったり、大手企業の中の社内コンテストの審査員の会話を見ていたりすると、必ず「競合にどうやって勝つのか?」という話が出てきます。


実は競合にどう勝つのかというのは、市場が確定している場合の話になります。マーケテイング用語にプロダクトライフサイクルという言葉があるのですが、これはどんな製品やサービスにも人生があるとして、最初に生まれたとき、黎明期、成長期、成熟期、衰退期にたとえています。

そして競合が必要となるのはおもに成熟期。成長期も必要となる場合はありますが、黎明期と衰退期には競合に勝つという考え方はそこまで重要ではありません。

しかし、ほとんどの大手企業や老舗企業の方が生きてきた世界は、よくて成長期の後半、ほとんどは成熟期なので、徹底的に競合に対してどう勝つかを教えられてきたはずです。


ほとんどのMBAの授業でも、


・競争戦略やポジショニングをどうするか

・どう競合に勝つか

・どう差別化するか

ということを徹底的に教え込まれるため、結果、競合にどこでどう勝つのか、または競合がいるからやめよう、もしくはこのビジネスは競合がまったくいない、という話をしてしまうのです。


新規事業における成功例を生み出すという観点からみると、実はこれはどれも間違っていて、まず、企画書に「このビジネスに競合はいない」と書くのはいちばんダメなパターンで、私がビジネスコンテンストの審査員のときにはまず通しません。


なぜなら、自分が生活者として当たり前のことを考えて欲しいのですが、これまでにない新しい商品やサービスが出た時、それを選択するためには今まで何かほかに使っていたお金や時間を振り分けることになるので、必ずお金や時間上の競合はいるはずです。

また、競合がいるということは、そのマーケットに需要があるということでもあるので、むしろ少しは競合がいたほうがいいに決まっています。

ジャンルとしては新しくて競合がいないように見えても、お金や時間の競合はどこかにいるはずなので、それが見えていない時点で、まさに裸の王様のようなビジネスアイデアになっている可能性があります。


また、競合にどう勝つかを精緻にだしてくるパターンで、たとえば、「新しい結婚サービスをやります」というときに、「某大手を倒す」ということを書いくる人がいるんですが、いきなり蟻が恐竜を倒すといっても意味がないし、企画書上どんなに優れていても実際には難しいので評価しません。

競合を倒すのではなく、競合とどう組むのか、どう競合の力を使いながら自分たちのポジションを確立するかを企画書に盛り込むかを、私は重視しています。これが競合ではなく協業という概念です。

競合は必ずいて、お財布と時間を争っている競合には勝たなければ、同じジャンルにもっと強い人がいた場合は組むということをちゃんと考えている人はサバイブして生き残ることができます。


大きな恐竜に乗っている小鳥のようなイメージといえばわかりやすいのではないでしょうか。いきなり大企業と戦っても潰されるだけなので、大きなところが決して狙わない分野や、大きなところが未開拓の分野から入って組むことで生き残っていく。そこで大きくなっていけば、違う構造でひっくり返すことも狙っていけるのです。


起業の成功事例:出資を受けるのは最強のデイフェンスになる


では、実際に「競合より協業」をベンチャー企業がどういう風にやっているかという事例をご紹介しましょう。サラスバシの「エフエクチュエーション」では、実際に課題を出し、その解答から考え方をみていきます。


たとえば「自分がある教育用のゲーム会社の社長になったらどこが競合になるでしょう。また、競合にたいしてどういう風にアクションしていきますか」という課題があります。

これに対し、大手企業のマネージャーたちは「こういう大手企業の競合がいて、こういう差別化をしていく」と真正面から勝負していく人たちが多いのに対し、起業家たちは「大手の競合とどう組むか、その会社がやっていない小さなマーケットから手をつけて、向こうから出資を受ける」という話を最初にしていきます。


実は出資を受けるというのは最強のディフェンスになります。

大企業が小さな会社から自社がまだやってない分野に関して出資を持ちかけられた場合、自分たちで新規にやるのは面倒なので、とりあえず一回組んでみようとなりやすく、最終的に袂をわかつことになったとしても、少なくとも相手はその分野に入るのは遅れるため、時間稼ぎにもなります。


大手と組む話をしてる間にこちらがその分野で強くなってしまえば、相手はこちらと組まざるを得ないし、もし組まなくてもその分野において相手より強いポジションを築いているので、どちらにしても生き残ることができる。これが競合と組むことの真の意味なのです。

実際にベンチャーが大手と組むというアプローチをするのには枚挙にいとまがなく、出資してもらう、データを売る、営業協力するなど、方法はさまざまです。


ここで、成功事例をひとつご紹介します。現在ではすごく有名になっているレンタルビデオの会社ですが、かつては富山だけでチェーン展開していました。

ある時、大手が富山に参入してくるという情報を知り、普通の企業なら自社強みを生かして戦おうとするところですが、その富山のチェーンの社長は戦おうとはせず、すぐに大手のマネージャーに会いに行き、「傘下に入るからやらせてほしい」と積極的に軍門に下ったんです。

大手企業からすると、新しく店舗を作ることは時間も手間もかかるため、お互いの利害が一致して組むこととなり、結果、そのレンタルビデオの会社は生き残っていったのです。


ボクシングでいうとクリンチのようなテクニックですが、こうして時間稼ぎや自分のスペースを確保することが基本的なベンチャーの戦略になります。


もうひとつ、現在は有名なある高額な商材に関する口コミサイトをやっている会社の事例をご紹介します。

そのジャンルは大手がたくさんいるため、大手も口コミビジネスをやり始めたらつぶされてしまうと考えたその会社の社長は、自ら「口コミをしませんか」と出資の打診をして、最終的には自分の会社の口コミのデータを、大手の名前で売ることに成功しました。

完全な協業にして、むしろ営業先に変えてしまうというのも技のひとつでてす。


これらの成功事例からも分かるように、基本的に成功している起業家というのは、大きな競合と戦うという考え方はしていません。社内起業を行う人はこの点を抑えておきましょう。

もちろん、起案するときは大手の競合と、お金と時間の競合、どう戦うかをきちんと書いておき、実際やるときはその企画書を無視して「こんな風にアライアンスができました」と協業にもっていけばよいのです。そのニッチな分野でナンバーワンになり、体力がついてきたら競争するのもよいでしよう。


体力のない黎明期はそのような戦略をとり、成長期には積極的に競争をあおるという作戦をとる起業家もいます。

マーケティングの世界ではよくいわれることなのですが、そのカテゴリ自体が伸びているときは、全員伸びているので競合を倒す必要はないんです。たとえば、これまで印刷は印刷所に行って行うものでしたが、オンラインで行うという世の中が来たとき、マーケット全体が伸びているときは、自社も伸びますが、どんなに競争しても相手も同じくらい伸びてきます。お互いに違いを打ち出したり、競争により市場の新しいニーズが開発されたりすることで市場自体が拡大していくのです。それが成熟期になると文字通りパイの取り合いになりますが、起業の場合はまず黎明期、成長期のことだけ考えればよいでしょう。


私の知り合いが行ったもうひとつのおもしろい事例としては、成長期の際に同じジャンルの中であえてふたつのブランドを作りました。

仮に化粧品としておきますが、名前を変えて半分はAという小売チェーンに出し、もう半分はBという小売チェーンに出し、自社の商品で積極的に競争してもらったんです。消費者からみると一見まったく違う商品で、同じメーカーが作っているということもわからない。そうやって競い合うことで、結果マーケット自体も成長することができました。成長期の競争の在り方を自分でプロデュースしたという例ですね。


その会社としてはふたつのブランドを持っていても困ることはないし、成熟期、衰退期になったらどちらかやめればいいいだけです。

大手企業の方はこれをパイを食い合うカニバリゼーションと考えてすごく嫌うのですが、実は成長期には大事な考え方で、マーケット自体が大きくなっているときにはカニバリにはなりません。しかし、ほとんど成熟期の中でやってきた方にはこれがわからない。起業家たちはこれを実際の経験的に知っているから成功しているといえるでしよう。



新規事業を成功させる起業家脳の作り方④市場調査を信じない

成功している起業家たちが"市場調査を信じない"理由とは?


今回は成功している起業家たちに共通する7つのセオリーのうち「市場調査を信じない」という点についてです。


『2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』ではさらっとしか紹介していないのですが、「成功している起業家たちは市場調査を信じない」というのを「マーケティング調査なんていらいない」と解釈している人がいるようなので、あらためて解説したいと思います。

今回も、企業のマネージャーと、起業家やイントラプレナーとを比較してみていきましょう。


まず、起業家も市場調査をするにはするのですが、何が違うかというと、私たちは「確信」と「確証」というフレームワークを持っていて、ざっくりいうと、起業家は確信型のリサーチをし、大企業のマネージャーは確証型のリサーチを行います。

確信型のリサーチというのは、たとえば同書に登場した起業家の場合、「できる限り顔の見える人のところに足を運んで、実際にサービスを使ってもらって反応を見ます」または、「実際に売ってみて買ってくれるかをテストします」などと答えていることからもわかるように、量が多いかどうかという点にはこだわらず、より深く、よりインパクトが大きい行動が得られるかどうかの調査を行っています。


これは数人か、自分だけが分かればよいことなので、確信を深めるという意味でやっている場合が多く、周りの人からみると売れるかどうか分からないのですが、本人はここで確信を得られているからこそ、その後も突き進んでいけるのです。


一方で大企業のマネージャーの人たちは、「この商品のコンセプトを1000人に聞いたら60%の人が買いたいと言いました」というアンケートリサーチを行います。この結果は、上司に会議で報告するとか、周りの人を説得するのには役立ちますが、実際に目の前で人が行動するシーンを見たわけではないので、マネージャー本人も確信を得られていません。

これでは、アンケートではこうだったけど、ふたを開けてみたら買ってもらえなかったというパターンに陥りがちです。


ここが大起業のマネージャーと起業家の面白い違いで、マネージャーがこれまでやってきたことは既にビジネスモデルが確定している中でのことなので、1000人にアンケートを聞いた答えでも、ある程度成果を得られていたんです。

一方、起業家のやろうとしていることは、既存にはないまったく新しいことなので、消費者すら知らない可能性があるため、アンケートをしても実際のイメージと違うことがあるのです。


新規事業もこれと同様の観点で、いきなり1000人にアンケート調査をしてもあまり意味がないと思っておいたほうがいいでしょう。

ただし、イントラプレナーの場合はこの両方をやらなければいけません。自分たちの確信を得るためにちゃんと顔の見える人に聞く一方で、組織で説得していくためにアンケートをとらなければいけないので、そういった意味ではイントラプレナーがいちばん大変かもしれません。

もちろん起業家も、投資を受ける場合などは量的な調査が必要になり、誰かを説得するというのは確証作業なので、確証作業に関してはサンプルサイズが大きい調査も必要になります。


私が「市場調査を信じない」と書いた真意は「1000人の人に聞いたら60%の人が買いたいと言っていました」という、その平均値を信じないという意味です。

本当に初期の起案の段階ではこのように考えて、実際に走り始めたら数字も大事になってきますが、その数字というのは、アンケート調査の数字ではありません。


たとえばホームページを作ったら何人の人が見てくれて(PV数)、申込してくれた人(CV数)がどれくらいで、広告にいくらかけたらどれくらいの効果が得られたかなどの自社のビジネスモデルの構造を端的に表す事実を映し出す数字(Magic Number)が大事なんです。

そのときに気を付けるべきことは、その数字というのはあくまで「枠内」の数字であり、その時点で見えているビジネスモデルやターゲット顧客の範囲でしかないのに、その中で最適化しようとしてしまうことです。

たとえば、今まで1か月に100人アクセスして10人申し込みが来ていたものを、申し込みを15人に増やすことを目標に改善することは可能なのですが、本当は1000人にアクセスしてもらう別の道があるかもしれない。この状況を局所最適といいます。


本当はまったく違う「枠外」があるかもしれないという観点から、SEEDATAでスタートアップを支援するときは、未来データから「今はこういうタイプにいっているけれど、トレンドからみると違うところに魚群がいるのではないか」という「枠外」の話をするようにしています。

ここはバランスの問題ですが、局所最適に陥ることは避けつつ、数字を見ながら改善していくということが大事です。


たとえば本の中にもあげていますが、あるwebサービスを作っている社長は「具体的に相手の顔が見えないものは作らない」と言っています。

これはいわゆるペルソナという意味ではなく、「〇〇さん」という実際に周りにいる人を想像して、その人だったらどうするかを考えるということが初期のうちは重要になってきます。

まず、顔の見える人から具体化していき、ひとりそういう人がいれば、ほかにも同じような人はいるはずです。ただ、その後局所最適に陥らないように注意することが必要です。「もっと大きな魚群を表す“顔の見える人”がいるかもしれない」ということを、常に頭の片隅に置きながらいくべきです。


ここまでの考え方だけでも、根本的にフレームワークに違いがあることがわかります。

大企業のマネージャーは、あり得る状況を漏れなくダブりなく整理しようとします。それがなぜ可能だったかというと、今までやってきたことは既存ビジネスなので整理する範囲がだいぶ明確だったからです。

起業の場合、どこまでが整理するべき範囲か曖昧なので、まずは初期値を決めてやってみるしかありません。一回ずつデータを更新してチャレンジしてみる、いってみれば探索型で、探索しながら最適解を探っていくという、今っぽいやり方です。範囲がどこまでかわからない世界での勝負なので、なにかしら初期値は必要で、初期値を持ちながら目の前のデータを使って更新していくという頭の構造に変えてやっていく必要があります。


ただし、このときのリスクは局所解が見つかってしまうということで、これが起業家的アプローチの弱点ともいえます。こういった考え方はオペレーションズリサーチの分野でいわれている局所的最適解と大域的最適解のアナロジーで理解できるかもしれません。興味がある方は検索してみてください。


SEEDATAでは、「もしかしたらこれは局所的最適解ではないか」という洞察を提供することができます。「今現在局所的最適解に陥っている可能性があり、大域的な最適解がほかにあるかもしれない」と指し示すことが、成長期のベンチャーへの役割だと考えています。

局所的最適解というのは、100人がアクセスしてくれる世界に対しては最適化されている状態なので、一見うまくいっているように見えますが、実は1000人の山が別にあるかもしれないという状態です。1000人の山が見える可能性があるなら、そっちに向かって行った方がいいと初期値を置き直す必要があります。


実際に起業家のやっていることはオペレーションズリサーチにおける最適化と発想は同じで、起業家にとっての初期値は「顔の浮かぶユーザー」ということになるのだと思います。こういった話を頭にいれておくだけでも、日々なにかを発見しようというマインドで過ごせるはずです。

起業はいってみれば市場創造という最適化問題を解くようなものなので、いずれにしても最初になにかしらの解をみつけなければ話にならないのですが、最初に見つかるものは局所的な最適解かもしれないと思っておく必要はあるでしょう。



新規事業を成功させる起業家脳の作り方⑤事業計画にこだわらない

事業計画にもっとも必要なキーパスシナリオとは?


『2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』では一括りに事業計画と書いていますが、事業計画といってもさまざまです。まずは、そもそも一般的に事業計画書にはどんな項目が必要なのかを説明します。

今回はざっくり項目の説明にとどめますが、SEEDATAでは新規事業の立ち上げに特化し、熟慮して設計された事業計画書のフォーマットがありますので、興味のある方はお問い合わせください。


事業計画書はおもに以下の8つの要素で構成されています。


1.エグゼクティブサマリー

まず、起業家でもイントラプレナーでも、事業計画に必要な項目はエグゼクティブサマリーです。これは偉い人のためにサマリーするわけではなく、自分の本当に言いたいエッセンスを1分くらいで話すために作るものと考えてください。


よく事業開発やベンチャーではエレベーターピッチという表現をしますが、これはエレベーター等の中で意思決定権限のある人や投資家などと出会ったときに、乗ってから降りるまでの30秒くらいの間に話をして興味を持ってもらうために、簡潔に話せるようにしておかなければチャンスを掴めないという意味も含まれています。

自分のやりたい事業について、簡潔に説明できることは製品やサービスの内容と同じくらい重要です。


2.ビジョン

もう一つ、事業計画に大事なのは「なぜこの事業をやりたいのか」というビジョンです。意義、意味ともいえますが、何故この事業に取り組むべきなのか、社会にとって何故これが必要なのか、何故自分がこれをやらなければいけいなのかという意義をまとめたものが重要です。これは顧客からの共感だけではなく従業員からの共感を得るためにも必須です。


3.想定ユーザーイメージ

想定ユーザー、ステークホルダーの具体的なイメージは「どんな人の、どんな課題に、どんなソリューションを提供し、どんな価値が生まれるか」ということを説明するのに役立ちます。

売上の規模や売上種別を決めるのは皆さんではなく顧客なのです。お客さんの種類や規模が変化すれば、商品が増えるかもしれない。そうすると原価や経費は増え続けるのか、ここまでは増えるが、それ以上は増えないのか等議論する際の拠所となります。

ここで重要なのはユーザーといっても様々な階層になります。たとえば、B2B2Cの企業であれば、ユーザーとしてエンドユーザーを明確にできても、その間にある実際の顧客企業のイメージが掴めなければ、エンドユーザーまで届きません。自分が考えているビジネスに関係するステークホルダーも含めて整理する必要があります。


4.サービスデザイン

ユーザー像、売上や原価などについて考えるのはある意味当然で、それをプロセスや流れにしてまとめる必要があります。

たとえばマッチングサービスをするのであれば、そのサービスはどういう順番でとか、どういうきっかけでとか、どういう画面になっていて、何をしてくれて、その後ろではどんなシステムが動いているのか等、場面ごとにまとめたパートをサービスデザインとしてまとめます。

ハードウエアや消費財のビジネスであってもその前後や背後に付加されるサービスなしには成り立たない時代ですので、あえてサービスデザインとまとめているため、アカデミックな意味での「サービスデザイン」に比べるとやや広義だとお考えください。


5.キーパスシナリオ

サービスデザインを成立させるための初めの一歩は何を作るかという部分がMVPとなるわけですが、そのMVPのシナリオをまとめたものを私たちはキーパスシナリオと呼びます。これを端的に説明すると「自分たちの事業の価値を一番短いシナリオで表現したもの」です。一般的な事業計画書では抜けていることが多いのですが、キーパスシナリオは最重要パートです。



6.競合サービス

前回競合の話をしましたが、時間とお金という意味での競合でもいいし、国内外の競合、その人たちに対して自分たちはどのような良さがあるか、組むのであればどのように組んでいくのかなど、差別化や協業の方針が最低限必要になります。


7.想定プレイヤー

新規ビジネスは、自分たちだけでは進められないことが多いので、一緒に組むプレイヤーも整理しておく必要があります。


8.ビジネスモデルと儲けの仕組み

まずこの提案を、人とモノとお金の動きを中心にまとめたビジネスモデル図が必要になります。通常、ビジネスモデル図はほぼどの事業計画書にも入っていると思いますが、それだけでは不十分です。もし、コンサルタントにお願いをして、ビジネスモデル図だけが出てきた場合、そのコンサルタントは実際に新規事業をやった経験の無い方の可能性が高いため、気をつけてください。

ビジネスモデル図だけで表現できないものを私達は「儲けの仕組み」と呼んでいます。たとえば、「データの販売をして儲けます」というのはビジネスモデル図でよく見る例ですが、それだけでは絵に書いた餅です。本当に知りたいのは、「データの販売をして儲けることを“可能”もしくは“有利”にする仕組みです。

「○○なからくりでデータが勝手に増えるから、データが無料で手に入るような仕組みになり儲かる」とか「データが絶対に売れる商流を○○なからくりで作れるから、すぐ売れるような状態になっている」など、このビジネスモデルが何故成立するのか、何故うまくやれるのかをからくりとして示すのが儲けの仕組みです。


このほかにも、自社の入る市場はどういう規模なのか、仕入れにどれくらいかかるのか、ほかのプレイヤーの売り上げはどうなっているか、法律上実はこんな問題を抱えているといったリスクについての環境分析と、こういうトレンドがあるから今この市場は追い風なんだという、マクロ環境に類するものなどを入れる立て付けになっていますが、このあたりは誰が作っても入ってくるものなので割愛します。

それらを提案書にまとめて投資家や社内で提出する必要があります。


成功している起業家たちは事業計画よりも実現したい価値を優先している


ここまで事業計画に必要な要素についての説明をしましたが、では、タイトルの「事業計画を信じない」とは、どういう意味なのでしょうか。

これも大企業のイントラプレナーと起業家を比べたときに一番違う点になります。


売上や原価などは、初期設定はするものの、実際やってみると違うことが多く、ビジネスモデルも変わることが多いのですが、大企業のイントラプレナーの人たちは「決めたからには守らなければいけないない」と固執してドツボにハマってしまうケースがあります。


一方、成功している起業家たちはビジネスモデルやサービスデザインをサクッと変えます。この例は枚挙に暇がなくて、端から見ると簡単に変えているように見えるのですが、彼らにはひとつだけ信じ続けて変えていないものがあります。それがキーパスシナリオの奥にある、もともとこのサービスや商品で実現したかった価値や意義です。


意義や価値は変えず、そのやり方であるサービスデザイン・表層的なキーパスシナリオやビジネスモデルはさくさく変えることをピポットと呼び、これはバスケットボールで片脚を軸足にして動くことをピポットと呼ぶことからきています。事業計画の中で、サービスデザインやビジネスモデルや売上規模も大事ですが、これらは変えてしまっても、狙いたい価値が同じならよいのです。

狙いたい価値はぶらさず、やり方を柔軟に変えていくので、端からは事業計画を信じていないように見えるというのが成功している起業家たちの共通点になります。


それと真逆なのが事業計画で失敗するケースで、売上の規模やビジネスモデルを守るために、そもそもの狙いたい価値が変わっているんです。

サービスデザインやビジネスモデルを守るために、狙いたい価値が変わってしまえば、それはもう違う事業です。迷走した結果、実際に世の中に価値を生み出していなかったり、「そもそもこういうものが必要だったのか?」と自問自答することになり、これは新規事業で失敗する典型パータンといえるでしょう。


ここで重要なのは、事業計画書の中には、とりあえず入れなければいけないものと、信じて守らなければいけないものがあるということ。それが起業家と企業内の新規事業では逆になってしまっているのです。

これまで多くの新規事業を見てきて、イントレプレナーでも起業家のやり方を採用したほうがいいと断言できますが、企業内新規事業では、やはりどうしてもビジネスモデルや売り上げを守らなければいけないような圧力が働いてしまうので、新規事業立ち上げて成功させたい企業の役員の方は、このことを頭に入れておくべきなのです。


「守るべきものが企業内の新規事業と成功している起業家では違う」、このことを伝えるために「事業計画にはこだわらない」というセオリーを入れました。書籍では紙面の都合上だいぶ割愛しましたが、新規事業を成功させるための重要な考え方のひとつなので、詳しく説明させていただきました。


この「守るべきもの」を企業の役員は理解して部下のマネジメントをしなければ、必ず失敗すると断言できます。ビジネスモデルは提供価値に従うものであって、ビジネスモデルに提供価値を従えてはいけません。

最終的にその価値が実現できれば、結果としてお金はついてくるという割り切りを上層部がしなければ、現場は実行しきれないし、そこが有り体に言えば「懐の深さ」であり、どこに懐を持つかというと、「ビジネスモデルと売り上げ計画は変わる可能性がある」と思って承認するという部分です。


逆に撤退すべきなのは「狙いたい価値が実現できない」と判断したとき。この場合、ビジネスモデルを変えようと、サービスデザインを変えようとダメなので、やり直しが必要です。

つまり、提供したいと思っていた価値を変えるくらいならやめる、提供したい価値を実現できるほかの方法があるのであればサービスデザインであろうとビジネスモデルであろうと変えて挑戦するということが、新規事業部をマネジメントしていったり、イノベーションを起こしていったりするうえで、重要なポイントです。


SEEDATAでは、収支計画は実際にやってみなければわからないものなので一応書いておく程度にとどめ、それよりもMVPをはっきりさせることに重きを置いています。

実際には事業計画書の中のキーパスシナリオが本当に成立するかを確かめる実験計画がいちばん大切なので、私たちは「実験をして、本当に価値が実現できる方法があるかどうかを見つけること」をフィージビリティスタディと定義しています。何のフィージビリティかというと、「このMVPなら提供したかった価値が実現できるかどうか」ということの可能性です。実験計画にも2通りありますが、これはまた別の機会にご紹介します。


それを確かめるのがフィージビリティスタディであって、最初に描いた大きい絵を確かめるためにマクロの市場規模などを見て「でかい市場があるからいけそうだ」というのはフィージビリティスタディではありません。成功している海外の企業の商売をビジネスモデル図に表したところで、儲けの仕組みが異なれば、絵に書いた餅です。具体的にMVPが実現できなければ、はじめの一歩は踏み出せないのです。


SEEDATAで取引をさせていただいている先進的なクライアントの多くは、すでにそこに気が付いていて、実際にMVPを回す専門会社の立ち上げを検討している企業もあります。

ビジネスモデルやサービスデザインをころころと変えるのは、既存企業の枠組みの中では難しいので、本部で簡易事業計画書を作り、子会社を作ってそこでキーパスシナリオと実証実験をして、うまくいったらまた本体に戻すというような考え方がこの5年で主流になってくると予想しています。

子会社なら切り離されているので、予算の範囲内で自由にできるし、実証実験をすることで成功する可能性も増えてきます。これは、ベンチャーファンドと共同でファンドやインキュベーション会社を作ることとは違いますので、勘違いのないようにお願いします。

まだ、デザイナーやクリエイター、エンジニアなどを「出島」で集めることも違います。あくまで、「先行きの見えない新しい商売の実務」をするスタッフで構成されている別会社を作るという意味です。


最後に、忘れてはいけないのは、「一番最初に作った事業計画が完全に正しく実行できることはありえない」ということです。それはSEEDATAで行っても、大手広告代理店でも、商社でも、有名なコンサルティング会社に作ってもらったものでも同様だと断言できます。なので、最初の事業計画を守ろうとすると失敗するのは当たり前で、そんなものに何億円もお金をかけるのは愚の骨頂といえますし、それなら実証実験費用にお金をかけるべきなのです。ここは以前も話しましたが、予算のとり方を工夫してください。


新規事業がうまくいかないと悩んでいる企業の多くは、マクロな数字と海外事例だけを見て具体的に詰められていない、ビジネスモデル図はあるが儲けの仕組みが不明、キーパスシナリオもなく意義も曖昧な事業計画を作って、それにとらわれている場合が多いことを理解しておく必要があります。




新規事業を成功させる起業家脳の作り方⑥何をより誰と



何をより誰と、個々の持ち味を生かすことが成功につながる


今回ご紹介する「何をより誰と」は、意外と社内のイントラプレナーでも使ってる人は使っていて、これまで紹介したセオリーのように成功している起業家と真逆という法則ではありません。


これは、サラス・サラスバシーが「エフェクチュエーション」で書いたクレイジーキルトの原則とほぼ同じです。

普通縫物をする際は「この布とこの布が必要」とレシピに合わせて作るものですが、クレイジーキルトはその辺にある布を張り合わせて作るもので、このありものの食材でおいしい食事を作る「まかない」に近い考え方を、組織にも応用しようというものです。


一般的には、まず「こういう事業をやろう」と「何を」からスタートする場合が多く、そうなるとマーケティングの専門家、営業の専門家が必要となり、ポジションに人をはめていくことになります。大きな会社ならそれで役割分担していけばいいのですが、新規事業を始めたばかりのときは人手もあまりいないので、ビジネスに人を合わせていたら足りなくなるし、1人2役3役とこなしていかないければならず、決め方として効率が悪いという事情もあります。


一方、成功している起業家たちは、とりあえず三人集まったらその三人で何ができるかをまず考えます。もちろんビジョンはちゃんとあり、そのビジョンをどのように実現するかを、三人の強みを合わせてやれる方法でやるので、「何をどうやるか」は集まったメンバー次第で、社長が決めるわけでも社員ひとりに頼るわけでもない。だからこそ「誰とやるか」がすごく重要になってくるのです。


このクレイジーキルトの原則は、マーケティングの諸概念とエフェクチュエーションを接続的に研究している神戸大学の栗木先生の解説によると、以下のように説明されています。


「可能な相手から交渉をはじめ参加をうながし、その結果としてできあがったネットワークの中でなにができるかを考えることを優先する行動原則」

出典:栗木契. (2015). 無限後退問題とエフェクチュエーション. 国民経済雑誌, 211(4), 33-46.


また、クレイジーキルトの原則と似ているのが「レモネードの原則」です。これについては、

「予期せぬ出会いを大切にし、偶然を避けるのではなく利用し尽くすことを優先する」

という解説がされていますが、昔から、キャリア理論ではプランドハプタンス(計画的偶発性)という理論が提唱されており、偶然起こったことをうまく取り込み、自分の強みやチャンスに変えるという意味があります。


これは、成功している起業家の共通点として以前ご紹介した「自分は運がいいと信じている」にも通じるものがあります。


『2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』にも書きましたが、ほとんどの成功している起業家は「このビジネスモデルがよかった」とは言わず、「この人とやったからよかった」「このチームだからよかった」と言っています。本書で登場した起業家たちの話から、仮に「何を」のほうをビジネスモデルだとすると、「誰と」を重視しているということがよく分かりました。


そもそもビジネスモデルというものは、ジャーナリストたちが「こういうビジネスモデルだった」と後々分析したものであり、ほとんどの成功している起業家はそこにいるメンバーの力が最大限発揮できる方法で、クレイジーキルトを作っているのです。

また、多くのベンチャー投資家たちも、自分が投資をする社長自身のことももちろん見ますが、パートナーや、誰とやっているかということを当たり前のように見ています。起業家たちは一緒にやる相手の大切さを直感的に感じて、パートナー選びに重きを置いている部分があります。


さらに、ここに後ほどのコラムで取り上げる「弱みに徹する」というセオリーが加わると最高で、その人の持ち味を活かせるということなので、よりクレイジーキルトが作りやすくなります。

たとえば「営業の担当」として入ってしまうと、実はその人物にマーケティングの才能や広報の才能があったとしても、活かすことができないのです。1人が2役3役と自然とできるところも、クレイジーキルトの優れている点といえるでしょう。


SEEDATAもこのクレイジーキルトの原則と同じような考え方で経営をしています。一番最初は商品開発が好きなメンバーが入ったので、商品開発や未来洞察を中心に立ち上げ、次に事業計画や新規事業が好きな人が入ってきたので事業を広げていきました。

経営の大きなビジョンは当然出しますが、それを各自がどう実現するかは、それぞれの持ち味に合わせています。現在、SEEDATA自体がクレイジーキルト状態で、個人的な感覚としては、少なくとも20人くらいまではこれでいけると考えています。

行先の決まったバスにみんなが乗るのではなく、乗せた人たちの行きたい方向に行くイメージで組織運用しています。

SEEDATAではざっくりとした役割は決めていますが、細かく階層化は一切せず、それぞれが自分のやりたいことをはっきりさせたり、どこが好きかを発見することに時間をかけていています。今後もそうやって経営していくつもりですし、成功しているベンチャーや起業家も、ほとんどがクレイジーキルトの原則を知らず知らずに活用している場合が多いのではないでしょうか。


これは大企業内イノベーターも同じです。たとえば部長クラスになると、会社から方針が降ってくるのですが、意外と細部までは決められておらず、中身は自由なことが多いので、うまくやっている管理職の人はクレイジーキルトの法則を使い、どうやるかはメンバーの持ち味で決めているのです。

逆に、これを部長がギチギチに決めて管理型に入ると、下につく人間はモチベーションも上がらず、決められた枠の中で走らなければいけなくなるので、持ち味も発揮しづらくなります。スポーツチームなどもそうですが、うまくいっている組織では昔からある法則ともいえるでしょう。

起業家にとっては当たり前の話ですが、大手企業の内部で行うときも、上に立つ役員の人たちはあまり細かく決めこまない方がいいでしょう。


ヘルスケア、健康など、新規事業の大きな枠組みは決めても、どのようにやっていくかはメンバーが考えたほうがいいし、これはオープンイノベーションで交渉していくときも同じです。どうやるかは組んだ相手の持ち味を活かすというスタンスでなければ、単なるお互いのソリューションの営業合戦になってしまいます。

ただし、オープンイノベーションを行うときに大事なのは担当者レベルのクレイジーキルトです。よくありがちな間違いは、「個人の持ち味」ではなく「その会社の持ち味」にフォーカスしてしまい、大きく見た場合に会社全体の持ち味があったとしても、個人の持ち味はあくまで人によって違うので、今回ここに集まっている人たちの持ち味でやらなければ、プロジェクトとしてはうまくいきません。これはベンチャーと大企業の提携の場合も同じです。


ベンチャーの場合は人数が少ないので、会社のやれることと個人のやれることは一致することが多いのですが、大企業の場合、部署によって雰囲気も全く違うので、「この会社はこういう強みがある」という観点でベンチャーの人が見てしまっても、目の前にいる個人はそんな力は持っていないという場合もあります。

目の前にいる人の持ち味でキルトを作っていくことを心がける、これはコラボレーションの基本といえるでしょう。


SEEDATAの場合も、博報堂で後輩だった藤井君と私の2人で始めたのですが、彼に声をかけた理由は、彼が商品開発に興味があったことを知っていたからです。「いちばん商品開発に興味がある人は今自分の周りで誰だろう」と考えたときに彼しか考えられませんでした。

また、彼の良いところは「こういう方向で」と言えば自分で考えて進めることができるところで、彼は私の広げた風呂敷を畳む意識でいるので、いい意味で私よりも現実的です。うまくいくパート