ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、"意味のイノベーション"とは?①


今回から4回連続で、SEEDATAアナリストの佐野さんにご登場いただき、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』で語られている、従来の問題解決型のイノベーションではない、"意味のイノベーション"についてお話していただきます。

私たちは「イノベーション=問題解決」と考えがちですが、現代に本当に必要なものは「意味のイノベーション」だとベルガンティは主張しています。果たして、この「意味のイノベーション」とはどのような役割を持ち、どのように生み出されていくのでしょうか。


「そもそも問題解決はなぜ必要なのか?」という現在の商品開発へのアンチテーゼ

-『突破するデザイン』は佐野さんが昨年一番影響を受けた本だそうですが、そもそもこの『突破するデザイン』とはどのような本なのか教えてください。


佐野「この本は新規事業開発や新商品開発の際に参考となる本として紹介されていますが、個人的には教養書だと思っています。ベルガンティは『デザイン・ドリブン・イノベーション』という本を2009年に出版しています。こちらはかなり理論よりの内容です。それに対して、2017年に出版された『突破するデザイン』は理論だけではなく実践する上での方法論も含めて述べられています。さらにビジネスだけではなく、ライフの文脈でも述べられていることが特徴です。

日本語の帯には『愛される新商品・新サービス開発には突破したデザインが必ずあった』と新商品・新サービスを開発するための本という文脈でアピールしていますが、おそらくベルガンティはこれだけを言いたいわけではないと思うんです。

今、世の中の人々には新たに欲しい商品がない、ニーズはなくなってきているのではないかといわれている、そんな中で自分が何が欲しいかということは、自分がどう生きたいのかにかなり近くなっていて、自分の人生をどう歩んでいけばいいのかという、かなり哲学的なところから考えているのがベルガンティの特徴です。かつて自分探しの旅は学生で完結していましたが、人生100年時代の変化の激しい現代においては、常に自分は誰であるか、自分は何を求めて生きているのかを探し続けなければいけないのです」



佐野「昨今、『イノベーション』が盛んに叫ばれている中でも『問題解決』という言葉をみなさん耳にすると思います。でも、『そもそも課題解決って何故必要なの?』という、根本的なところから問うているのがベルガンティなんです。とくに前書きがすごく重要で、そもそも僕らは課題解決のために生まれてきたんだろうかと。ベルガンティには三人の子供がいるのですが、次のように書いています。




"彼らが生まれた時、「歩く問題とニーズ」をこの世に送り出したつもりはない。彼らに「申し訳ないが、この世に生まれた以上、君は解決すべき問題を持っている」とは言いたくない。私は彼らの誕生を頃から祝福した。そして彼らに人生という贈り物をあげたいと思っている。"(『突破するデザイン』より)

 

この辺りが、イタリア人ならではパッションの強さを象徴していてるなあと思います。子供に対する愛とか、商品に対する愛とか、イタリア人って、人、モノ、コトに対して深く愛をもっているんですよね。モノを大切にする文化などはかなり日本人にも近いように感じて、この本は日本人にも受けるのではないかと思いましたね。




"人生にはもっと大切なものがあると私は信じている。もしあなたが人々に愛されるモノゴトを創造したいのであれば、問題解決からは離れた方がよい。愛について考えるのだ。一方でもしあなたが問題解決をしたいのであれば、愛について考えることは避けた方がよい。愛は、人生に意味をもたらす感情の1つであると同時に、多大な苦労を伴うものである。"(『突破するデザイン』より)

 

人生にはもっと大切なものがある、問題解決ではなく愛を与えるべきだという、かなり抽象度の高い話から始まるんです。イノベーションの本なのに「愛について考えろ」と(笑)。愛を生み出すこと、伝えることってめちゃくちゃ難しい、だけどやる意味はあるよと彼は言っているんですよね」

 

-イノベーションと愛がどのように結びつくのかちょっと想像がつかないですね。

 

佐野「でも、実際愛される商品というのはあるわけで、じゃあ愛される商品製品、サービスってどういうものだろう?と考え続けることが重要なんです。

普通はこういうとき「なぜiPhoneは愛されるのか」という話など例にすると思うんですが、ベルガンティは子どもの話を例にしていて、それが実にわかりやすい。たとえば赤ちゃんにおもちゃを与えるとき、「この問題を解決したいからこのおもちゃを与えよう」という人はいないですよね。「この服を着てほしい」「この本を読んでほしい」というひとつひとつには、こうあってほしいという親のビジョンがあるんです。




"父親は子どもたちが望むものをただ与えるのではなく、より意味のあるものを与えようとする、父親はビジョンを追求しているのです。"(「突破するデザイン」より)


ここが本質的な部分であり、子どもたちをユーザーに置き換えて考えるとよくわかります。いろんなユーザーがいて、彼らの望むものを与えるというのが今までの世の中です。ただ、ユーザーの望むものもだんだんなくなってきて、「どんなものが欲しいですか?」と聞いても出てこない世の中になってきた結果、どうやって新商品、新サービスを作ればいいのかというと、「より意味のある商品をあたえるべきだ」とベルガンティは言います。子どもに意味のあるものを与えるように、商品開発でもこれをやっていくべきだと、それがこの本の第一の主張です」

 

-たしかに子どもを例にするとわかりやすいですね。大人が選んで買い与える場合はある程度の一貫性や、大人の想いが強く反映されているように思います。


佐野「目先の利益のために、目の前のお客さんに無理やりインタビューをして、無理やりニーズを引き出して、商品を作っているのが現代なのですが、そうすると愛される商品にはならない。たとえば「このペンのここを直してほしい」という改善は可能ですが、「こんなペン見たことがない」とお客さんの感動を生み出すことはできないんです。

実はこの本自体が今の商品開発に対するアンチテーゼになっていて、「今の問題解決って本当にやる意味あるの?」というところからきているんですよね」


-では、ベルガンティは今の「問題解決」の、どういった部分を批判しているのでしょうか。


佐野「ベルガンティは問題解決型のデザイン思考を真っ向から批判しているのではなく、デザイン思考ではできないことがあると言っています。

従来のデザイン思考は、まずユーザーに聞いたり、エスノグラフィーをしたりして、ユーザーがどんな課題をもっているかを探索して、それを解決するためにデザイナーが質より量でとにかくたくさんのアイデアを出していきますよね。ユーザーから聞いた声を使って、アイディアを発想していく、それが今のデザイン思考です。

これを「外から内のアイデア作り」と呼んでいて、ソリューション=解決策を考えるのがデザイン思考の役割です。でも、これだとユーザー起点なので、ユーザーの言ったことはできるけれど、ユーザーの期待を上回るもの=ユーザーが感動するもの、ユーザーが愛するものは生み出しにくいんです。

じゃあ本当に意味のあるものを人々に与えるためにはどうするかというと、デザイナー自身が「こういうものを与えたい」という内から始めることが重要なんですよね」


-それはデザイナー自身がほしいものということでしょうか?


佐野「それもイコールですね。今の商品開発って、自分が欲しいものというより、ユーザーが欲しいものを考えているんですね。それが過度なマーケティングとなり、自分は欲しくないのに作って売っているデザイナーってたくさんいるんです。でもそれって本当にいいの?と。

まずは本当に自分が欲しいもの、「自分が欲しいから、みんなにも伝えたい、届けたい」という内から始めることが大切なのではないかという問題提起をしているんです。これをデザイン思考と対比して、ベルガンティは「意味のイノベーション」と呼んでいます」


-必要は発明の母と言いますもんね。意味のイノベーションについて、もう少し詳しく教えてください。


佐野「具体例を話すと、ロウソクの古い意味は灯りをともすものとして使われていたのが、今は人をもてなすもの、心を落ち着かせるものという"新しい意味"が付与されていますモノゴトは時代とともに意味が変化していて、たとえばその結果、毎年あるメーカーのロウソクの売り上げは伸びているんです。こういった新しい意味を提案できる人こそ、真のデザイナーであるとベルガンティは言っています。

人々の価値観や技術、制度などが変わり、社会全体も変わっていくので、その社会変化に応じて意味も変化していくはずなんですよね。そのときに新しい意味を提案できるのはユーザーではなく、デザイナー自身の哲学なんです」


-すごくわかりやすいたとえです!でも、なぜ意味のイノベーションは内から外へ、でなければいけないのでしょう?デザイン思考のようにユーザーの声から新しい意味をつくることはできないのでしょうか。


佐野「一般的な生活者に聞くと「ここが使いにくい」「ここをもっとこうして欲しい」という現状への不満は出てくるので、課題解決型にはもっていきやすいのですが、新しい意味を提案するための素材は通常のユーザーリサーチでは出てこないんです。

SEEDATAも生活者にヒアリングやエスノグラフィーをしていますが、我々は新しい意味をつくるために、新しい意味まで考えている人=哲学を持った人=トライブにインタビューをしているんです。

トライブというのは簡単にいうと一風変わった人たちで、はたから見たら「変人」と言われてる人たちかもしれない。しかし、その人たちを「先進的な生活者」と呼んでいる理由としては、その人たちが、新しい意味を見つけている可能性があるからです。

SEEDATAではそこからインスピレーションを受けて、今後こういう商品、サービスができて、こういう新しい意味が付与されるべきなのではないかということを考えているんです」


-なるほど。先進的な生活者については、トライブの定義について合わせて読んでいただくとよくわかりますね。(第2回に続きます)


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【この記事の監修者】

佐野拓海。SEEDATAアナリスト。

株式会社SEEDATA(博報堂DYグループ)設立とともにプランナー兼アナリストとして参画。

主に生活者リサーチ、商品開発、新規事業開発、サービスデザインなどの業務に従事。


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