【ビジネスのためのサービスデザイン⑧】サービスをヒットさせるためのデリバーフェーズとは?

当連載で以前ご紹介したサービスデザインのダブルダイアモンドというプロセスですが、現在サービスデザイン界隈で注目を集めているのが、ダブルダイアモンドの一番最後のデリバーというフェーズです。

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サービスにおいてもっとも重要なデリバーとは

デリバーとはまさにサービスを生活者に届ける部分です。ところがこのデリバーの部分が実はもっとも難しく、サービスデザインのフェーズ全体の4%しかメソッドがないといわれており、サービスデザインにおける今後の課題となっています。

新規性があって、かつ有用性の高いサービスをどのように発想するか、企画するかはジャーニーマップやブループリントなどさまざまな手法が登場していますが、数多くの商品やサービス、情報が混在している現代において、適切な消費者に適切なものを適切な手段で届けるということの難易度は、格段に高くなっています。複雑な世の中だからこそ、届け方や広め方、普及の仕方に工夫が必要なのです。

だからこそインプリメンテーション(実装)が重要だと我々は考えて言います。当ブログの新規事業に関する記事でもたびたび解説している通り、商品は企画さえ面白ければ、あとはコンビニやスーパーの棚におけば勝手に売れる時代でしたが、今は商品開発の場合も、店頭の棚割まで考慮しなければならなかったり、サービス開発の場合は新たに販売チャネルや流通網を作る必要があったりと、SD/Vのような実装支援が求められているということです。企画が9割、実行1割の商品開発と比べて、サービス開発や新規事業開発の場合、企画したものを届けるためには、普及の仕組を新たに作らなければいけないということです。


ここで画像クリッピングサービスのPinterest(ピンタレスト)を例にサービスデザインのデリバー、インプリメンテーションの優れた事例をご紹介します。

Pinterestはネット上で見つけた画像を保存し、共有できるというごくシンプルなサービスです。iPhoneの壁紙やアイデアの着想となる、きれい、かわいいと思った画像を保存するなど、使い方はユーザーに託されている自由度の高いサービスです。画像のクリッピングサービスというコンセプト自体はそこまで新しくもなく、開発自体も簡単ですぐ作れるものであり、競争優位があるというわけではありません。

その場合、このサービスで一番重要なポイントは、いち早くセンスの良いイケている人たちをユーザーとして獲得して、彼らがイケている画像をクリッピングし、それを多くの人が見に来るということです。つまり、サービスを届けるときに最初に考えるべきことは、どれだけ画像をクリッピングしてくれるイケている人たちを囲い込めるかということなのです。

そこでPinterestがとった行動は、アップルストアにあるMacの画面をすべてピンタレストのトップページに変えるという方法でした。そしてアップルストアに訪れる流行に敏感な人たちにまずPinterestというサービスを認知してもらい、使ってもらうことに成功したのです。

Pinterestはネット上にちりばめられている画像がコンセプトごとに統一されていたり、キャッチコピーの参考になる広告集などが話題となり、一般の人たちにも普及していきました。このようにまず最初のサービスのアンバサダーとなる、良質な顧客100人を確実に絡め取ることが重要なのです。


この事例からもサービスをデリバーする際は、サービスの特徴やコアな価値、ターゲットの属性に合わせて、どの場所に届けていくかが重要といえるでしょう。

それが結果的にサービスのブランドイメージにもつながるため、消費者が本当に欲しいと思う適切なタイミング、「want to have」ではなく「must have」なタイミングで届けることが重要になってきます。


たとえば、サービスではなく商品の例になりますが、タイはナイトマーケットが盛んな国です。クラブやバーに入るときにはドレスコードがあり、実際に我々が視察に行った際も半ズボンやサンダルでのラウンジ入店は禁止されていました。

しかし、ラウンジの前にはラウンジ用の靴を売っている人がいて、入店したい人は直前にそこで靴を購入して履き替えることができたのです。この「絶対に靴が必要な状況で靴を売る」というシュチェーションこそが「must have」です。

この考え方がサービスではとくに必要で、「このタイミングでこのサービスを使いたい」というときに消費者に届けなければ意味がありません。macbookを購入し「高画質できれいな画像を待ち受けにしたい」と消費者が思うタイミングでPinterestに出会えるように、

「must have」なシュチェーションでデリバーできるかどうかがサービスデザインでは重要であり、SEEDATAではこのタイミングをどうやって見つけるかもPoCのひとつに含まれています。

これまではそもそもの商品のコンセプトがいかにおもしろいかというところにクリエイティビティが求められていましたが、今はどうやってデリバーしていくか、届け方、広め方、普及の仕方、流行らせ方にクリエイティビティ、アイデアが求められるようになっています。

近年ではInstagramでインフルエンサーを活用して広めるという方法が大流行しましたが、今ではステルスマーケティングといわれ、信用性が揺らぎ、今後の新たなサービスの届け方のアイデアが求められているのです。


世界的な潮流としてサービスデザインの国際会議でもこのデリバーフェーズは議論されていますが、同時にインナーマーケティングという社内や組織風土、文化の変革も議論されています。

何故ならサービスを実現するためには新たなチャネルや流通網を作る必要があり、商品開発と比べコストがかかります。通常よりコストがかかるということは、社内で上申し、説得して、承認を得ることが必要になるということです。消費者に対して価値を届けるということは、同時に社内でも「こういうサービスをやる価値がある」という説得が必要になり、組織自体を変えていかなければいけません。

商品開発の場合も、サービスデザインの文脈で考えるとモノの売り方は変わってきます。これまでは単純に商品だけを作っていればよかったのが、たとえばメーカーがD2C(ダイレクトトゥーコンシューマー)で直接店舗を持って売ったり、ネスレの例のように、エスプレッソマシンを売って、コーヒーポーションはスーパーやコンビニなどで購入してもらうという売り方も登場しています。

このように新たな販売チャネルを構築していく必要があり、組織内でもそれを伝えていく、

組織のトランスフォーメーションが求められているといえるでしょう。


確実にデリバーをするための明確なメソッドは今はまだ存在していませんが、デリバーメソッドにおいて必要なものは、MVPをどこから作るかということです。MVPは大きなビジョンから引き算をして事業アイデアを作っていくことなので、その引き算のためのメソッドと、小さく作ったMVPをいつどこの場所でデリバーするか、という最初のタッチポイントを見つけることが重要です。


たとえば、ネスカフェアンバサダーを例にとると、今まではスーパーなどで販売していたコーヒーに、オフィスという新たな販売チャネルを作りました。「オフィスでコーヒーを売ることが重要なのではないか」ということでPoC、PoBを回していったのです。

しかし、サービスを広めていくための販促費にはコストもかかり、いきなり組織を動かすことは難しいため、我々SD/Vが出島で小さくPoC、PoBを回して、ひとつの成功体験を作ります。そこにいくらのコストを投入すれば事業として広がっていくという数的ロジックを作る実装支援行っています。例えばネスカフェアンバサダーの場合は、最初に1つの企業で1人のアンバサダーを認定し、そこからコーヒーが本当に買われるかどうかを検証していき、それが検証できたタイミングで、アンバサダーを何人に増やすと、売り上げ何倍になるという数の論理を入れていき、スケーラビリティ可能性を示した上で、投資するに値するかを判断していただくという流れです。


今、商品開発をメインで行っているメーカーに求められているのは、デリバーの仕方を変えていくことで企業のブランドイメージも変えていくということです。

たとえば、最近の事例では、次世代型の試着専門店舗のGUスタイルスタジオが話題となりました。実際の商品を手に取って、見て、試着し、気に入ればオンライン上で購入できるため、消費者はこれまでのオンラインショッピングのように、実際の商品が届いて「イメージと違った」ということがなくなります。

これを一過性のイベントと考えるか、サービスデザインの一環として販売チャネルを拡大し、新たなデリバーの手段を作ったと考えるかによって大きく意味合いが変わってきます。


これまでのGUといえば日本が誇るファストファッションで、価格の安さが最大の強みでした。しかし、ただ安いだけでは買い叩かれてしまいますし、サスティナブルな時代においてファストファッションは向かい風を受けています。

これをサービスデザインの文脈で考えると、次世代型の店舗を作ったことでGUのブランドイメージは日本の最先端ファッションへと変化したといえるでしょう。もはや売っているのは服だけではなく、「試着体験を売る」というサービスをデザインをしているからです。


モノの価値だけでなく、届け方の価値、売り方や買い方の価値も考えて、新しい発想を出していくところがサービスデザインの醍醐味です。SD/Vでは、PoC、PoBを行いながら、デリバーの仕方をどんどんメソッド化し、磨いている最中です。

メソッド化においては、Pinterestの例のように「適切な人に適切な形で届けること」が重要です。「誰に届けるべきなのか」から逆算していくと、「いつ、どこで」という広め方の最初の一歩をどうするかというシュチェーションも決めることができます。

いきなりテレビCMで何億円も投資するのではなく、ローリスクローリターンだが、将来的にハイリータンが見込めるチャネルで改善をはかりながらアジャイルに作っていくことが重要になります。


【この記事の監修者】

佐野拓海。SEEDATAアナリスト。

株式会社SEEDATA(博報堂DYグループ)設立とともにプランナー兼アナリストとして参画。

主に生活者リサーチ、商品開発、新規事業開発、サービスデザインなどの業務に従事。


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