【ビジネスのためのサービスデザイン⑤】サービスブループリント

これまでの記事ではビジネスにおけるサービスデザインのマインドセット、プロセス、ツールについてご紹介してきました。

前回はサービスデザイナーが武器として使うツールのひとつである、カスタマージャーニーマップについて解説しましたが、今回もツールのひとつであるサービスブループリントをご紹介します。

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成功しているサービスはバックステージの仕組み作りが考えられている

ブループリントとは、日本語だと青写真、図面などと訳されますが、ずばりサービスの設計図を意味します。ユーザーから見えている部分だけでなく、ユーザーからは見えていない部分、つまり従業員の動きなどを含めて記述したものがサービスブループリントになります。

前回のジャーニーマップは基本的にはユーザーの動きを描いていましたが、今回は従業員、スタッフ側の動きも含めて記したものになります。

ユーザー側の動きをフロントステージと呼ぶのに対し、従業員側の動きをバックステージと呼びますが、今回はサービスの裏側、バックステージの仕組み作りについて重点的にお話お話しします。


サービスブループリントにおける優れたバックステージの例としてよく語られるのは、スターバックスやディズニーランドです。

この2つに共通することは店員、スタッフがここで働いていることに誇りを持ち、笑顔でいきいきと働いているという点です。この二つが実現されている背景には、サービスブループリントにおけるバックステージの部分に何かしらの仕掛けがあるといえるでしょう。

スターバックスの場合、学生のアルバイトランキングで常に上位に入るほど人気があり、働いていること自体がステイタスになっています。

その理由として、スターバックスのアルバイトは、研修をしっかりと受けプロフェッショナルとして扱われるため、就職活動時に履歴書にも書けるほどの経験として認知されていることがあげられます。

研修は2カ月間あり、単純な現場の仕事を覚えるだけではなく、新卒研修さながらにスターバックスの歴史から、理念やミッションまでを一社員として学ぶことになります。

また、誇りを持って働いてもらうための仕組みとして、ひとりがひとつの仕事上の役割を担当するというオペレーションをあえてとっています。それぞれがプロフェッショナルとしてひとつの役割を果たすことが、責任を持つことにつながっているといえるでしょう。

たとえば、レジであれば単に注文をとって会計をするだけでなく、オススメの飲み物を紹介したり、カスタマイズの相談に乗ったりする必要があります。また、飲み物を作る人は当然、温度管理やミルクの泡立て具合など、細かいお客さんの要望に応えなければいけません。

スタッフはそれぞれの役割でベストを尽くし、役割の中でお客さんに喜んでもらうためにはどうすべきかを考えます。

このように、スターバックスというブランドを体現するひとりとして自ら考えて働くことで、スタッフに誇りを持たせることに成功しているといえるでしょう。


さらに、今回サービスブループリントの事例としてご紹介したいのは、前回お話した俺のイタリアン、俺のフレンチなどで有名な俺のシリーズです。

俺のシリーズは、味はもちろん、リーズナブルな価格に加え、店内でジャズバンドの生演奏があるなど、ユーザーにとっての価値は大変分かりやすいものになっています。

しかし、これほどの価値をユーザーに提供するためには、バックステージにいくつもの仕掛けがあるのです。


そもそも、俺のフレンチは「高級料理であるフレンチをもっと広めたい。もっとカジュアルに食べられるフレンチを作りたい」という社長の強い思いから始まりました。安く提供するためには、お店の回転率をあげる方法を考える必要があり、そこで注目したのが、回転率の高い立ち食いソバ店です。立ち食いフレンチにすることで、蕎麦のように回転率を上げることができるのではないかというのが、着想のポイントでした。

ただ、回転率を上げるのは売上を上げるための施策であり、これだけではまだ破壊的な価格提供は実現しません。

では、コストをどのようにして下げたのかというと、一流シェフではなく、あえて二番手や三番手のシェフを雇ったのです。それも高い給料で引き抜いたりせず、転職前のレストランと同等の給料で引き抜くことに成功しているといいます。

何故そのようなことができたのか、それは「一流の食材を使用して料理ができる」というシェフにとっての価値が実現しているからです。シェフにとってもっとも嬉しいことは、高い給料以上に、一級の食材を使って料理ができる環境なのです。俺のシリーズでは、コストを下げた分、一流の食材に投資し、一級の食材を使うことで三ツ星シェフのレベルにも引けをとらないくらい、素晴らしい料理を作ることに成功しているのです。

実際にSEEDATAで以前行った食リッチというトライブの調査でも、腕があり、レパートリーのあるシェフほど「一級食材を使いたい」というインサイトを持っていましたが、普通の飲食店では一級食材の調達は困難で、作りたいレシピに適した食材がないということが往々にしてあるということが分かりました。


俺のシリーズが実現しているシェフにとっての価値はそれだけではありません。

まず、店頭にシェフの顏写真を並べ、お客さんに「このお店の主人公はシェフである」と感じてもらえるような演出をしています。自分が作っているものに自信がなければ顔を出すことはできません。シェフの誇りを全面に押し出してくれることもシェフにとっての価値につながっているのです。

さらに、銀座店などは厨房の様子をモニターに映して、店内でお客様が調理をしているシェフの手元を見ることができます。

単純にユーザーがエンターテインメントとして楽しむことができるだけでなく、透明性という意味で信頼にもつながっています。それだけでなく、シェフにとってもお客様にみてもらうことで、自信と誇りを感じることができる演出です。

また、これは私の解釈で公式の見解ではありませんが、回転率を多くし、お客様が増えることで、より多くの料理を作ることができるという点も、シェフにとっての価値になっているかもしれません。

このように、ユーザーだけでなくシェフの気持ちに沿ったレストラン設計がされているからこそ、よい食材があり、よいシェフが居て、よい料理が作れて、ユーザーがたくさん訪れて、売り上げが上がるというポジティブな連鎖ができているのです。まさに、シェフのインサイトにもとづいて作られたバックステージ、ブループリントが機能している例といえるでしょう。


もちろんバックステージにいるのはシェフだけではありません。ホールスタッフにとっては、一流のシェフと一流の食材にはさまれていること、多くのお客さんとインタラクションをとりながら接客し、自分がオススメしたメニューを喜んで食べてもらえることなど、さまざまな価値設計がされているはずです。


以上のことから、スターバックスと俺のシリーズの例をまとめると、サービスは前提としてユーザードリブンでユーザーのために作っていくものですが、サービスブループリントを描きながら、シェフやスタッフドリブンで作っていくことも重要なのです。

スターバックスや俺のシリーズでスタッフがここで働くことに誇りを持てる環境を作っているように、ブループリントを設計する際は、スタッフにとっての誇りは何なのかを考え抜くことが重要です。



サービスブループリントの書き方のポイント

ここまでサービスブループリントの重要性について解説しましたが、サービスブループリントは明確に体形化されているわけではありません。

まず、ユーザーはどんな行動をしているのか、そこに対してスタッフはどんな行動をしているのかを書いていきます。たとえばスターバックスなら、

・コーヒーを注文する

・注文を受ける

・お金を支払う

・お金を受け取る

・レジをうつ

・コーヒーをオーダーする

・コーヒーを作る

・コーヒーを渡す

・コーヒーを受け取る……

など、ユーザーとスタッフの行動をそれぞれ分けて書き出します。

そのうえで、この行動におけるスタッフにとっての価値は何なのかを明確にします。

よくありがちなのは、ただフローを可視化して終わってしまい、どこがスタッフにとって誇りとなるのか、価値が生まれているのかが考えられていないパターンです。


もうひとつ重要なのは、行動を書き出し、自動化できる行動を見つけることです。今後はチャットボットやロボットの活用が進み、バックステージの行動をオートメーション化することで、本当にスタッフにとって価値のある行動だけに注力できるようになっていくはずです。

たとえば、決済は無人レジで行うなど、機械が代替できる行動はどこなのかをチェックするうえでもブループリントは活用できます。

今後は、ユーザー側、スタッフ側にとって価値のない行動、楽しいと感じられない行動は機械が代替していき、本当にスタッフが誇りに感じられる行動だけに注力できるようになっていくでしょう。

俺のシリーズで考えると、ホールスタッフはメニューの説明などお客さんとのインタラクションに注力し、皿洗いなどは自動化するなど、一番モチベーションがあがる瞬間、誇りに思える瞬間により注力することが、スタッフにとっての価値を高めていくことにつながるのです。


現在のチェーンの飲食店では、個を出すというよりマニュアル通りに言われたことを淡々とこなすことでオートメーション化させ、サービスの均質化を図ろうとしています。ある種、人がロボットのような存在になっているともいえます。

また、若年層からすると、デパートなどの接客ですら硬すぎて押し付けがましく、親しみづらいと感じられています。アルバイト不足が叫ばれる昨今ですが、ユーザーにとってはロボットのような画一的な接客よりも、スタッフが誇りを持ち、個を感じられるほうがよいという考えはますます広がっていくでしょう。

スターバックスや俺のシリーズなどは「”私”はこれがオススメです」と個の意見を言える環境であることが、ひとりひとりの人間としての誇りとなり、その結果、サービスの質の向上に寄与しているといえるでしょう。


製品を売るだけでは売り上げが頭打ちしている、新市場を創造したいという企業のご担当者さまはinfo@seedata.jpまで、件名に『サービスデザインについて』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。



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【この記事の監修者】

佐野拓海。SEEDATAアナリスト。

株式会社SEEDATA(博報堂DYグループ)設立とともにプランナー兼アナリストとして参画。

主に生活者リサーチ、商品開発、新規事業開発、サービスデザインなどの業務に従事。


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