新規事業開発・新商品開発に役立つ消費者行動論

イノベーションのアプローチとしてビジネスデザインを採用するのであれば顧客理解は避けては通れないプロセスです。このページでは顧客理解に役立つ様々な消費者行動の知識をSEEDATA宮井が解説していきます。



(1) 消費者の商品・サービス購入類型

■バラエティシーカー型

バラエティシーカー型は、その名のとおり、さまざまな商品をちょくちょく買い替え、ひとつの商品を長く使わないという行動です。

この行動は、お菓子、飲み物、車、服などどんなジャンルにも当てはまり、情報化社会になり、広い意味でのバラエティシーカーは広がってきているといえるでしょう。

また、消費者調査をする際に一番最初にトライアルする人がバラエティシーカー型だった場合、リピートする可能性は低いため、このタイプはあまり狙う対象ではないといわれています。

新規事業や新商品・新サービスを開発する際には、バラエティシーカー型のような人が一定数存在するということを念頭に、トライアルが伸びたからといってその人たちがリピートしてくれるわけではないということをよく理解しておきましょう。



■習慣型

習慣型は同じものを買い続ける行動です。イナーシャ(=慣性の法則)とも呼ばれるこの消費行動の特徴は、その商品自体にあまり興味がなく、好きなわけではないが買い続けているというものです。たとえばティッシュペーパー、キッチンペーパーなどの低価格で関与の低い商品に対してよく見られます。

イナーシャ自体は買い続けてくれる消費者なので、変に刺激してほかの商品へ流れてしまわなければよいのですが、「買い続けているからといって好きなわけではない」ということも頭に入れておきましょう。



■認知的不協和低減型

普通商品を購入する場合、ある程度比較検討してから購入しますが、とりあえず購入してからその商品の良かった理由を探すタイプの人が存在します。認知的不協和という心理学の理論では「本当に買ってよかったのか?」という不協和を減少させるためによい口コミをあとで見たり、いい情報だけ見つけてきたりという行動をとることを指します。人間は誰しも、多かれ少なかれこの不協和軽減的な行動をするということを理解しておきましょう。

まったく比較検討しないで購入するという人はあまりいませんが、購入したことに後悔はしたくないのでよい情報だけ集めるというのが認知的不協和の特性なので、新規事業をやる人もマーケティングやる人も頭に入れておくべきです。



(2)購買意思決定を左右する5つのリスク

消費者の購買意思決定には、「買おう」と思うことにプラスに働く要素とマイナスに働く要素があります。

このときに重要なキーワードが、「属性の束」「便益の束」という概念です。

例をあげると財布には、長財布、皮製、ポケットが2つ以上ある、小銭が入る、お札が入る、カードがいくつか入る……などいくつかの属性があります。消費者はつまりモノやサービスを属性の束としてとらえています。これらの属性に対して消費者は無意識のうちに加点、もしくは減点していますし、それぞれの属性が自分にとって何が嬉しいか?つまり便益があるかを判断しています。各々の属性の束が、各々便益の束を生み出し、その結果消費者がその商品を購入する確率が、変化するという考え方です。

これをさらにPOSデータやアンケートデータなどと組み合わせて、その人が購入する確率を計算するという手法は昔から行われているわけですが、商品を売る際、購買意思決定において便益の評価に影響を与える5つのリスクが存在するといわれています。

たとえば新商品・新サービス開発のPOCを行う際、商品・サービス自体はまだこの世にないため、まずはプロトタイプを作り、実際に消費者にこれを使いたいと思ってもらえるか、買ってもらえるかどうか、受容性テストをする必要があります。テストを行う際には、消費者が購入するかどうかの意思決定において、どういった要素がマイナス点として先行するのかということを頭に入れておかなければいけません。



■金銭リスク先行型

消費者の中にはどんなによい商品・サービスでも、価格が高ければ購入しないという人が存在します。

新商品・新サービス開発の場合は、競合がいるため価格決定は簡単ですが、まったく競合のいない新規事業を行う際の価格決定は難しくなります。消費者の中には「どんなによい商品・サービスでも高すぎれば購入しない」という上限と、「こんなに安いと不安になる」という下限の金額が存在し、その間の金額を適切に見極めなければいけません。実際、単に安ければよいかというと、消費者心理学の分野では「価格が高い=機能もよいのではないか」と感じてもらうことにつながるからです。


POCからPOBに移る際には価格を提示しますが、その際にペルソナが金銭的リスク先行型の意思決定モデルを持ちうると想定する場合、価格をいくつか掲示するなどの対応が必要です。

人生においてとても重要なモノの購入の場合など、価格は必ずしもファーストプライオリティではないこともありますが、まずは自分たちの行おうとしている商品・サービスが、金銭リスク先行型の消費者のジャッジを受けるか否かは考えるべきでしょう。



■機能的リスク先行型

機能はおもに商品開発の場合に重要です。

機能には必ずそこから得られる便益があり、これを機能価値と呼びます。この機能価値の束が、品質という形で消費者に評価されるのです。

この、消費者が感じる、そのモノやサービスの品質のことを知覚品質といいます。知覚品質には魅力品質と当たり前品質の2種類があり、POCやデザインをする際にはこの2つの知覚品質を意識すべきです。


たとえば、スマートフォンを例にとると、最近の通話音声の明瞭さはかなりよくなっていて、これ以上明瞭さに関する性能を上げたとしても消費者の知覚する品質は上がりません。しかし、明瞭さは失われたらものすごいクレームになりますよね。なくなったらなったら困るもの、これが当たり前品質です。

逆に、性能が上がれば上がるほど知覚する品質も比例して上がっていくのが魅力品質です。現代はこの魅力品質の発見が難しいといわれています。

魅力品質を発見するまでは性能を磨く必要はなく、「これが魅力品質だ」と分かった段階で性能を上げていけばよいのです。

たとえば、マッチングアプリの精度は上がれば上がるほど魅力品質になるので、どんどん投資していくべきです。また、掃除ロボットなども、掃除できる範囲、超えられる段差の高さ、充電時間など、性能が上がれば上がるほど知覚品質が向上します。AIやロボットの分野は、まだまだ磨いていくべき魅力品質が多いといえるでしょう。



■身体的リスク

消費者には「自分の体におよぼすリスクは何だろう」と考える知覚パターンがあり、具体的には「体に悪影響があるのではないか」「使用しているうちに何かの病気や疾患になるのではないか」などと考えます。

これは食品、化粧品、薬、口に入れるものなどは当然ですが、たとえば自動車やバイク、工具や機械の場合にもいえる安全性です。安全性は当たり前品質なので、安全性がすごく高くてもそれほどうれしくはありませんが、当たり前品質なので落とすことは許されません。

もしサービスやプロダクトが身体的リスクに左右されそうなモノの場合は、よく考えてMVPの設計をしたほうがよいでしょう。



■心理的リスク

心理的リスクは色々とありますが、「使いこなせないのではないか」「自分に不釣り合いではないか」「馬鹿にされるのではないか」など情緒の面が多いのが特徴です。

これを感じると二の足を踏んでしまい、とくに値段が高いものの場合顕著になるため、そういうものが感じられそうな商品の場合は気を付けましょう。



■社会的リスク

よく、人間の脳には社会脳があるといわれていて、簡単にいうと「社会や世間からどう思われるのか」という風に感じることです。たとえばタトゥー、ファッション、ブランドがとがっているもの、または成人向け雑誌などがこれに当てはまります。

専門的には準拠集団という言葉があり、自分の買っているモノやサービスのよしあしなどを、この集団からどう思われるかを基準に考える、この集団の人たちがいいと言うなら自分もいいと思うなど、自らの思考や行動に影響を与えるのが準拠集団です。

たとえば「バイト先の人がいいと言えば学校では浮いていてもいい」などは典型的な準拠集団の例です。社会全体からというより、実質は準拠集団にどうみられるのかという部分が大きいでしょう。

社会的リスクが気になるようなもの、たとえばDNA検査やAGAの薬などはECなどでこっそり売るのに適しています。



(3)購買意思決定を左右する5つのベネフィット

消費者が感じるベネフィットの種類や便益の種類にはさまざま種類があります。起業家が自分の商品のベネフィットを整理するときのフレームワークとして活用しましょう。



■金銭的ベネフィット

これは簡単な話でお得感というベネフィットです。自分のプロダクトやサービスを提供するときに消費者が金銭的に、金銭的なお得感を感じられることを設計するとよいでしょう。

たとえば、以前SEEDATAがオンラインフリマなどの調査で洞察していた「売る前提で購入する」ということが、最近メディアなどでも普通に書かれ始めました。

このセリングファーストの考え方は、まさに金銭的ベネフィットがドライブしたサービスの普及のパターンで、「メルカリならいくらで売れるから傷つきにくいお掃除ロボットを買おう。それなら高くうれるから最初の購入価格は高くてもOK」というような考え方も金銭的ベネフィットですし、「これはほかの相場に比べて安い」「コスパがいい」というベネフィットを感じさせることができれば、それも金銭的ベネフィットになります。

いい商品ならたくさんお金を出してもらえるかというと、そう簡単にはいきません。金銭的ベネフィットというのは重要です。



■機能的ベネフィット

簡単にいうと自分の解決しなければいけないジョブであり、どのジョブを解決してくれるのかということを意識している場合です。ジョブというのは無意識にまだ解決されていないものも含まれるので、この場合はニーズに近いといえるでしょう。

消費者が「これを解決したい」ということが分かっていて、この商品やサービスを使えば、こういう困りごとや足りないことを「解決してくれるだろう」「役立つだろう」「効果があるだろう」という風に考えるものが機能的ベネフィットです。

消費者は購入する場合、必ず目の前のサービスやプロダクトに対して機能的なベネフィットを感じています。商品開発をする場合はそれをまだ消費者自身が分かっていないところまで踏み込んでいくとジョブという考え方が必要になりますが、ベネフィットデザインするという意味では、まず意識しているベネフィットは何になるだろうということを考える必要があります。



■身体的ベネフィット期待型 

感情的なものにも近いのですが、この切り口だと五感で感じられるものを指します。たとえば「触り心地がよさそう」「気持ちよさそう」「おいしそう」など、必ずしも機能に落とせない場合があります。気持ちの場合もあるし、気持ちではない場合もあるので、機能を身体的ベネフィットという整理の仕方をする人もいるかもしれません。

総合的に「なんとなく気持ちいい」というような、情緒ともいえるし身体的ともいえるものなので、体験系やサービスなどを開発する場合は意識しましょう。



■心理的ベネフィット期待型

「達成感を感じられる」「安心感を感じられる」などという気持ちや心理の問題です。

たとえば、保険のサービスであれば安心感が必要ですし、ハーレーなら高揚感、ワクワク感、ハイブランドなら優越感を感じられそうというのも心理的ベネフィットといえるでしょう。



■社会的ベネフィット

人の社会からどう見られているかという意識は、準拠集団という概念を用いて説明できると、社会的リスクで説明しましたが、裏を返せば当然そういうベネフィットも存在します。

自分たちが作っているプロダクトはどういう社会的ベネフィットがあるのか、これを持っていると「知的でスマートな人に見られる」「褒められそう」「先進的だと思われそう」などの準拠集団に対してどういった記号で見られるかもベネフィットになります


以上の5つが、消費者の感じるベネフィットの類型でありフレームワークです。

ただ、これに基づいて整理したとしても、たしかに消費者はそう感じたとしても、自分のブランドのベネフィットをどう設計すればいいのかという問題が出てきます。

そのときにまず最初に設計すべきは機能的ベネフィットです。

ベネフィットをデザインする際は、消費者が知覚していないものも含めて、おもにどのジョブを解決するのかを整理したものが機能的価値です。

そのときに気をつけないければならないのが、「Nice to have」「Must have」かです。

とくにモノを作る場合は「Must have」になっていない機能価値はわざわざ買う必要はないと思われてしまいます。

逆に、サービスの場合は意外と「あったらいいな」の「Nice to have」でもいい場合があり、「あったらいいな」をみんなが使っている結果、それを使わなければならない、「Must have」に変化することがあります。

まずはじめに考えなければいけないのは機能価値、ファンクショナルベネフィットがいちばん重要です。



■事実特徴

機能価値の次に大事なのが事実特徴で「この機能的価値を実現できるスペックは何か?」ということです。

たとえば「きれいに野鳥の写真を撮って、友だちと共有してコミュニケーションしなければいけない」というジョブがシニアにあったとします。これをサービスとして提供する場合、解像度なのか、望遠レンズなのか、どんな技術があるからほかのサービスや代替品に比べて、その機能的な価値を優位に実現できるのかというのが事実特徴です。

このとき、事実特徴が機能価値を優位に実現できる状態になっていることを「reason to believe」があるというように表現します。

「この機能的価値を実現できるのは、確かにこの特徴、スペックがあるからだ」という、信じる根拠にそのスペックがなっているかどうかをチェックします。

まとめると、「reason to believe」になっているかをチェックする、機能的な価値を考えてからスペックを考える、もしくはスペックを考えたら機能的価値、どのジョブを解決するのか考えるというのが、商品開発、サービス開発を行うベンチャー企業が行わなければならないいちばん重要なポイントです。



■情緒的価値

事実特徴を考えたあとに、「それが実現すると使っている人がどんな気分になれるのか」というのが情緒的価値です。これはほぼ心理的ベネフィット、もしくは身体的ベネフィットの一部と考えてください。

これは、「気が付いていないけどこんな気持ちになる」ではダメで、「優越感が得られる」「先進的なイメージが得られる」など消費者がすでに感じられそうな顕在的なものから選ばなければいけません。



■生活価値

ここまでは一回きりの使用してもらえる価値ですが、使い続けてもらうためには生活価値が必要です。

これはB2CでもB2Bでも大事で、たとえばB2Cであれば、「これを使うことによってどういうライフスタイルを送れるのか」とライフスタイルまで考えると、次はこんな商品が必要だとか、こんなサービスが必要だとひとつのブランドとして広がりが出てきます。

つまり、単品として使ってもらい続けるためにも生活価値は必要ですが、ほかのブランドとして商品やサービスを追加していかなければいけない、それを叶えるときにも生活価値は重要です。

B2Bであっても、ユーザーのワークスタイルや、ビジネススタイルをどう変えていくのかということなので、これも生活価値です。ユーザーにはみんな生活があるように、企業にもワークライフがあるわけなので、その仕事の現場のスタイルをどう変えていくのか、どう役立ち続けていくのかということを最低限考えていく必要があります。



■社会的価値

商品やサービスが広がっていった結果、社会に対しての存在意義は何なのかというのが社会的な価値で、これがブランドや起業家が社会に対して語るビジョンの部分です。

社会価値は急いで考える必要はありません。最初から壮大なビジョンを語ってもそれを支える商品がないことがあり、商品数やブランド数、機能を増やしていくうちに「自分たちの社会的な意義はこれだ!」と急に気が付く場合も多いものです。

まずは機能を考え、その機能を支えるためのスペックを考え、ユーザーがどんな気持ちになり、どういう生活スタイルになるのかを最低限考えましょう。



(4)消費者ニーズについて

まず、ニーズ、ウォンツ、デマンドという概念の違いについておさらいしましょう。

フィリップ・コトラーは消費者行動における人の状態を、ざっくりとニーズ、ウォンツ、デマンドの3つの基本的な欲求に分類できると提唱しました。

また、ニーズと欲求では欲求のほうが大概念で、その中でニーズ、ウォンツ、デマンドという風に分かれています。


例を示すと、

ニーズ→喉が渇くなど人間の基本的な欲求

例:「喉の渇きを癒したい」


ウォンツ→A社の清涼飲料水など特定の対象に向けられた欲求

例:「A社のサイダーが飲みたい」


デマンド→特定の商品に向けられた購入能力に見合った欲求

例:「今お金があるのでA社のサイダーが買える」


たとえば、「スポーツカーが欲しい」というニーズがあったとして、「Fというスポーツカーが欲しい」というのがウォンツです。しかし「今はお金がないから買えない」という場合は購入能力が足りていないのでデマンドはありません。

つまり、ニーズ、ウォンツ、デマンドの3つが揃って初めて購買行動が成立するのです。従って、マーケティング活動のスコープはデマンドまでを含むことになります。SEEDATAではPOCで、ニーズから導き出されたジョブ(※SEEDATAではニーズではなくてジョブを独自にカスタマイズした鍵概念としてプランニングに活用しています)に対して、このモックアップで満たせているかどうか、ウォンツを生み出せそうかを調べています。一方POBでは、お金を払ってもらえるか、購入能力に見合った形で買ってもらえるか、デマンドが成立するかを確認しています。

つまり、ニーズの源泉はトライブレポートやfuture waveで発見し、ニーズをウォンツにできるかをPOCで調査し、ウォンツがきちんと購入能力に見合ってデマンドにできるかをPOBで確認しているのです。


この3つの欲求が揃って初めて消費者の欲求を満たしたことになるため、コトラーのマーケティング理論でも、SEEDATAの行っているプロセスの有用性は説明できるといえるでしょう。


ほとんどの起業家がつまづくのはウォンツからデマンドの部分で、自社の商品やサービスをデマンドにできておらず、お金をもらうことができないのです。

これは、たとえば「これに300円の価値はない」「これに3万円は出せない」など、購入能力に見合った特定の商品に向けられたウォンツになっていないことが原因です。


さらに、ニーズに関しては、有名な理論としてマズローの欲求5段階説(7段階説)があります。よく紹介されているものはピラミッド型になっていますが、マズロー本人はピラミッド型だとはいっていません。

マズローはニューヨーク出身で、1960~1970年代にかけて自己実現を研究した心理学者です。


欲求5段階説には以下の5つのニーズがあります。

生理的ニーズ→「喉の渇きを癒したい」「空腹を満たしたい」というニーズ

安全のニーズ→「事故にあいたくない」「心が平穏でいたい」というニーズ

愛情ニーズ→「親からかわいがられたい」というニーズ

尊敬ニーズ→「人から尊敬されたい」というニーズ

自己実現ニーズ→「自分を自分たらしめる理想の状態を実現したい」というニーズ


さらに、7段階説になると、

知識理解ニーズ→「知識や理解をもっと高めたい」というニーズ

美ニーズ→「自分の求める美しさでありたい」というニーズ


が存在します。

よく、「最初に生理的ニーズが満たされれば、次に安全のニーズが求められていく」といわれていますが、必ずしも階段状に伸びていくわけではありません。

ただ、自分の商品やサービスが、どこのニーズの部分がもとになっているか、そこからどういうウォンツが出てきているかをきちんと考える必要があります。

(参考文献:田中洋(2015)『消費者行動論』中央経済社.)



(4)欲望(デザイア)について

欲求の中のより強いものを欲望(デザイア)といいます。強いニーズ、強いウォンツのことだと考えてください。

ラッセル・ベルクの定義によると、欲望は「消費者が描く夢想と社会的な状況的コンテキストの間に生まれる情熱」という風に表現されます。自分たちの行っているサービスのニーズやウォンツが、これはもう欲望だといえるレベルになっているかどうかは、しっかり考えましょう。

情熱という言葉がしめすように、たとえばクリスマスの贈り物を待つ子どもは「待ちきれない」という欲望を持っているといえます。

また、欲望に関して、希望(hope)という類語を使っている学者もいて、「目標にあった結果が可能と評価されるときに関知される生の感情」と定義しています。つまり、目標と、目標に合致して「出来そう」というところに生まれるものが希望なのです。

たとえば、ダイエットに関連する商品を作った際、消費者が「これを使えば理想的な自分の望む体型が実現できそう」という風に思ったときに感じる嬉しさが希望です。

自分の商品が希望を生み出しているかというのも、フレームワークのひとつとしてチェックしてみるとよいでしょう。


希望はさらに以下の3つに分類することができます。

・希望を抱く→「この商品やサービスを使えば望む体形になれそう」と思ったときの嬉しさ

・希望する→「ダイエットして自分の理想の体型に近づきたい」という思い

・願いをかける→「実現不可能」と考えている


「願いをかける」は、たとえば、ステージの進んだがんになり、なんとかこの商品やサービスを使って克服していこうとするなど願いをかけるという状況です。目標が達成できそうというときに感じる嬉しさとはまったく違いますが、これも希望の一環ではあります。


つまり、消費やサービスにまつわる感情の中には、強いニーズやウォンツの種類として欲望や希望などが存在するのです。

ニーズ、ウォンツ、デマンドをもう少し深堀って考えたいというときには、これらを頭にいれておくと、解像度高く消費者のことを理解できるかもしれません。



(5)動機について

動機は英語でモチベーションと呼ばれていますが、消費者行動では動機を調査することをモチベーションリサーチと呼んでいるほど重要な概念で、SEEDATAの未来洞察にも関わる概念です。モチベーションリサーチの詳細については後述します。


起業家も新規事業を行う人も、B2C、B2Bどちらの場合でも、動機という用語が心理学的にどう考えられているかは理解しておいたほうがよいでしょう。

実務家の間では、たとえば何故この商品を購入したのかも動機ですし、なぜ自分の商品を買わなかったのかも動機です。

動機とニーズを同じ意味で考えていたり、ベネフィットや価値という言葉と同じになっている人もいるため、あらためて動機について解説しておきます。

心理学的な定義として、ニーズというのはそれだけでは行動は起きませんが、行動をきちんと導いている部分まで考えて捉えているのが動機という概念です。


さらに、動機には「誘因」という概念も深く関わっています。

根本的に動機があり、そこにニーズが生まれて、誘因が加わって行動が起きるイメージです。

つまり、動機というのは「生命を維持したい」というレベルの話で、そこに「喉が乾いた」というニーズがあり、「自動販売機があった」という誘因が加わります。

さらにウォンツは「〇〇茶を飲もう」など具体的な商品に向けられ、「今財布に500円あるから買える」というデマンドがあり、ようやく購入にいたるのです。


なにか行動することの原因は動機ですが、その動機は消費者行動的にはニーズ+誘因という風に分かれていて、そこからウォンツとデマンドが生まれていると考えます。

シンプルに考えると、そもそも消費者がモノを買うときには何か動機があり、そこからニーズや誘因が合わさり、ウォンツとデマンドが生まれて特定のものを買うという流れになります。



(6)モチベーションリサーチについて

起業家が新規事業を行う場合、世の中にどんな動機があるかを知っておく程度で、動機の分析技術に長けている必要はありません。

動機を調べる必要があるのは、商品開発や、たとえば、B2Cのマーケティングをどっぷりやっているような、企画をより精緻にやっていかなければいけない人たちです。


モチベーションリサーチは1950~1960年代にかけて流行した調査方法のひとつです。

今の言葉でいうと深層心理を導き出すようなイメージだと考えてください。

モチベーションリサーチの父とも呼ばれるディヒターは、もともと精神分析、臨床心理学の研究を行っていました。消費に積極的な人を集めて、インディケーターグループという1対1で深層心理を引き出す面接を行い、その人たちが商品を購入する表面的な動機の背後にある隠された消費動機を調査することを目的としています。


たとえば、大工道具の場合「家の中でモノを切ったり組み立てられるようになりたい」という動機が思い浮かびますが、背後にある動機としては「こういうものを使うことで、力強さなど、男性性を満足させる」という動機があるのではないか、という解釈をします。こういった裏に隠された動機を洞察や解釈していくのがモチベーションリサーチです。


モチベーションリサーチは以前から広告業界では好まれ活用されてきました。広告を作る際『「男らしさ」「力づよさ」などを感じる広告にしましょう』というのは分かりやすいためです。

しかし、解釈洞察が入るため、社会科学的なPDCAが回しやすい方法に代替されていき、洞察熱は下がっていましたが、近年また流行ってきています。

モチベーションリサーチでは、解釈することにより背後にあるものを見ていますが、SEEDATAでは解釈することで未来をみています。みえないものをみようという機運が高まったときにはこういった方法が効果的です。


まず、動機は一次動機と二次動機に分類されます。


・一次動機

マズローでいうところの生命維持のために必要不可欠な欲求で食欲、性欲、睡眠欲など


・二次動機

なにか達成したい、誰かと仲良くなりたい、権力を持ちたい、誰かに依存したい、承認してほしい、支配したい、自分を顕示したい……など、後天的に学習されたもの


重要なのは二次動機で、二次動機はさらに、個人的な動機と社会的な動機に分類されます。


個人的な動機は自分で何か達成したい、たとえばダイエットで体重が減ってきて楽しいなどです。

社会的な動機は、それによって人から認められたいというようなものが混ざってきます。


現在のアメリカの消費者行動の最新のテキストでは、個人としての消費者と、社会の中での消費者という考え方があり、「自分としてどうありたいか」、そして「社会からはどう見られなければいけないのか」のはざまで消費者は揺れ動いているという風に考えます。


モダンなビジネスを作っていく際に重要になってくるのはこの二次的な動機です。

ただし、単に動機を知っているからといってもサービスデザインはできません。ニーズや、ニーズから行動に移す誘因をしっかりデザインしていく必要があります。

個人的な動機でもっともよく語られるものは独自性です。「自分は他人と異なっていると思いたい」というのは現代の強い動機であり、「自分をより高く評価したい」などは、どんなサービスをやるうえでも重要になってくるでしょう。

ほかにも、近年それなりに生活に余裕がある人にみられるのが、権力を持ちたいというより「自分の成果を評価されたい」「他者と仲良くはなりたいがほどほどに繋がりたい」などの動機です。

消費者はこれらを意識していませんが、現実的にはそういう動機があると定義されているため、自分たちの競合の商品やサービスが、どういう動機で購入されているのか、自分の商品やサービスと違う動機なのかということをしっかり考えましょう。


ただし、新しいビジネスや新商品を提案する際、「消費者の承認欲求に対して提案します」と動機の部分をニーズに置き換えてしまうのは間違っています。何故なら行動はニーズと誘因によって生まれるものであり、これではニーズを分析したことにはなりません。

新規事業立ち上げのワークショップなどでも散見されますが、動機まで戻ってしまうとうまくいかないため、消費者のニーズと動機を混同しないように気をつけましょう。


動機、ニーズ、誘因は新規事業のアイデアを考えるフレームワークとしてもオススメですし、ビジネスデザインや、新規事業のアイデアを企画する際にぜひ活用してください。



【この記事の監修者】

宮井弘之。SEEDATA代表。


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