
エフェクチュエーションを活用した新規事業の考え方と成功事例
SEEDATAでは創業以来、組織的に起業家らしい行動をとるにはどうすべきかを追及し、そのためのヒントのひとつとして「エフェクチュエーション」を研究してきました。
エフェクチュエーションは、連続して成功している起業家たちに共通する意思決定プロセスや思考を体系化した理論です。
エフェクチュエーションについてはこちらの記事をご覧ください。

しかし、「エフェクチュエーションの理論は起業家の理論で、大企業内や組織内では活かせない」という意見があります。そこで今回は、大企業内の新規事業で実際にどのようにエフェクチュエーションを活用すべきかをご紹介します。
エフェクチュエーションの5つの原則
まず、エフェクチュエーションとは以下の5つの原則に沿っています。
- 手中の鳥の原則
- 許容可能な損失の原則
- クレイジーキルトの原則
- レモネードの原則
- 飛行機のパイロットの原則
私自身、SEEDATAの運営もこの5つの原則に則って運営し、スタートアップ支援をおこなう際も、この5つの原則に沿って行動できているかどうかを注視しています。
実際に新規事業組織の伴走をしていく際に、この理論をかざすわけではありませんが、5つの原則がしっかり埋め込まれたSEEDATAのビジネスデザイナーが伴走します。
理論的にフレームワークとしてエフェクチュエーションをおこなうわけではなく、エフェクチュエーションを体現した形でプロジェクトをおこなっているという点が重要です。
最近「出島」で新規事業をおこなうことを提案する企業が増えていますが、SEEDATAの新規事業支援では、以前から出島型を採用しています。しかし、われわれはあくまでも、起業家のような行動=エフェクチュアルな行動をとれるための環境作りとして出島型を採用しているのであり、ほかの企業が提案する出島とは理論的な深さや背景が違うことを理解していただければ幸いです。
組織でエフェクチュエーションを活用する場合に、まっ先に手をつけるべき原則が、「手中の鳥の原則」です。
手中の鳥の原則は、
「what can We do?(私たちは何ができるのか)」という問いから始まります。
新規事業や飛び地をおこなう際に、すべての能力を外から持ってくるのは大変です。そこで、
・我々は何もので
・我々は何を知っていて
・我々は誰を知っているのか
つまり、まずは自分たちが持っている既存の資源(能力、専門性、人脈など)に基づいて動き出そうという考え(原則)です。
どんな事業領域だとしても、同じ部署、友人など、自身(チーム)の判断で明日にでもにアクセス可能なネットワークは社内外に転がっています。
SEEDATAで新規事業をおこなう場合、まずこの手中の鳥の原則を踏まえ、自分たちの持つリソースをはっきりすることを伴走のプロセスにしています。
このネットワークの棚卸基準は、SEEDATAの小尻が開発した独自のフレームワークです。
これらを意識しながら、まずは手中の鳥の原則を取り入れていきましょう。
エフェクチュエーションの原則と立ちはだかる壁の関係
次に、「組織内に立ちはだかる壁があり、エフェクチュエーションの原則が活用できない」という意見があります。
そこでまず、エフェクチュエーションの原則と立ちはだかる壁の関係について説明します。
これまで当ブログでは、幾度も「何故大企業で新規事業がうまくいかないのか」を解説してきましたが、実はそれらはすべて「5つのエフェクチュエーションの原則が発揮できない環境が原因である」と考えることができます。

たとえば、大企業では手中の鳥の原則が発揮しやすかったとしても、「こんな品質では世に出せない」と品質議論が邪魔をします。
また、クレイジーキルトの法則は、まず行動して、そこで出会った人たちをキルトのようにつなぎあわせていくものですが、これも同様に「〇〇(社名)の名前で出すことはできない」と言われたり、石橋を叩きすぎて壊してしまう状態にあり、理論的には手中の鳥とクレイジーキルトの原則が発揮できない状態です。
次に言われるのが「多額のお金をかけているから失敗できない、失敗したら次がない」というものです。
起業家は許容できる損失額、つまり、いくら儲かるかではなく、いくらまで損ができるかを考え行動に移すことで、クレイジーキルトの原則も活かすことができますが、大企業では失敗を恐れるあまり、許容可能な損失の原則が発揮できない状態にあります。
レモネードの原則は、たとえば、コロナで出社できなくなったらすぐにリモートワークに切り替えてオフィス代を節約するなど、ピンチを強みに変えるものですが、失敗ができない、行動させてもらえない状況は、クレイジーキルトの原則もレモネードの原則も発揮することができません。
また、飛行機のパイロットの原則は、起業家はつねに計器を確認しながら飛行機を操縦するパイロットのように、現場で少しずつ検証し、KPIをみながらリーンに直していこうと考えるものですが、現場に行ける人がいない、または行動させてくれない状況では、検証結果が手に入りません。つまり計器にデータが入ってこず、飛行機のパイロットの原則を発揮することができないのです。
新規事業でこれらの壁が立ちはだかりうまくいかない際は、エフェクチュエーションの観点から、どの原則が自分たちの組織は発揮できていないのか考えましょう。
その場合、エフェクチュエーションの活用の可能性はありますが、工夫しなければ起業家のように自由に動くことはできません。
つまり、エフェクチュエーションの5つの原則を発揮しやすくなる手段(工夫)として、SEEDATAは出島型を提唱していることをご理解いただければ幸いです。
5つの原則を活かすことができる出島型の具体例
では、出島型の事業開発スキームでどのように5つの原則に対応しているのかを具体例を示しながら説明します。
①うちの名前では出せないという場合
→SEEDATAが販売責任を負い、別途、開発会社(OEM工場)が製造責任を負うことで、手中の鳥の原則、クレイジーキルトの原則を発揮する
SEEDATAでは、致命傷を負わない範囲での責任を切り離すことで、自分たちの持つ手段を使うことができ、行動の結果出会った人たちと事業を作ることができます。
出島でおこなう際にSEEDATAの名前を使用する場合があるのは、この2つの原則を発揮するためだとご理解ください。
②多額のお金をかけていて失敗できない場合
→初期投資をできるだけ抑え、人力で出来る作業は手作業で実装し、検証を実施することで、許容可能な損失の原則、レモネードの原則を発揮する
SEEDATAでは最初からシステムを作りこまず、「オズの魔法使い法」といわれるサービスデザインにおける人力でのプロトタイピングの手法を採用しています。
手作業でおこなうことで費用を抑えれば、予算がおりやすいため、許容可能な損失の原則を働かせることができるのです。
また、システムを作りこまないことでやり直しもしやすく、むしろ失敗を活かす、レモネードの原則を働かせることができます。
シードアクセラレーターと呼ばれるスタートアップを支援する、世界ナンバーワン組織のYコンビネーターも「最初はスケールしないことをやろう」と提唱していますが、まさにいきなりスケールするシステムを作りこむのではなく、スケールしないことをするのは、エフェクチュエーションの考え方と一致しています。
➂現場に行ける人材がいない場合
→現場に人材を派遣することで、自動化せずとも検証を回せる状態を作り、飛行機のパイロットの原則を発揮する
SEEDATAは伴走支援を強味としていますが、多くの伴走型を唄うコンサルティング会社のように単にクライアントのオフィスに常駐するということではありません。クライアントが現場に行けないのであれば、代わりにSEEDATAのアナリストが現場に行き、パイロットのように計器で高度や風の向きをとるという意味での伴走です。
システムで自動化するのは先の話で、まずは人力のプロトタイプを作りながら回していくことで飛行機のパイロットの原則を発揮することができます。
以上のように、大企業における新規事業で立ちはだかる壁を超えるための手段として出島を提案しているのであり、出島は手段でしかありません。
逆に、これらの壁がないのであれば、出島を作る必要はないのです。
出島活用の事例
SEEDATAでは大手商社の新規事業として、日用品のシェアリングサービス事業を支援しました。商社にとっては飛び地に近いB2Cの形になります。
まず、SEEDATAがメーカーに発注してプロトタイプを作り、保険に入ってトラックでコンテナボックスを運ぶことで、一気に手中の鳥の原則とクレイジーキルトが発揮することができます。さらに、手中の鳥の原則を活用し、LINEで顧客対応のチャットも作りました。
このように、まず、外部のわれわれが責任を請け負い、ありものを組み合わせていくことで物事を前に動かすことができ、また、手作業でプロトタイプを回していくことで初期費用も安くなるため、許容可能な損失の原則も働きます。
また、通常のイベント運営会社であれば現地スタッフはアルバイトを雇うところですが、日々どんなユーザーが来て、どんなチャンスがあるのかを現地で見てデータをとるために、アナリストが運営をおこない、飛行機のパイロットの原則を活用しました。
これにより、予測不能な出来事にも対応しやすく、事業を磨いていくことができるのです。
SEEDATAにはすでにこのような成功事例がいくつもあります。
「新規事業がうまくいかない」とお悩みの方は、まずはエフェクチュエーションの5つの原則が活かせる環境にあるかを確認し、活かせない環境を打破したい場合は、ぜひSEEDATAにご相談ください。