新規事業を成功させる起業家脳の作り方④市場調査を信じない

SEEDATAではこれまでも、新規事業を進めている企業からご相談を受けて参りましたが、近年さらに、新規事業、新価値を創造したいという企業が増え、その際の新規事業部の進め方や制度の設計方法について質問され、コンサルティングする機会が増えてきました。

当連載では、連続して成功している起業家たち(シリアルアントレプレナー)はどのようなものの考え方をしているのか、多くの起業家を見てきたSEEDATA代表の宮井氏が見つけた彼らの共通点から、イントラプレナーや起業家に必要な、起業家脳の作り方についてお届けしていきます。

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起業家は確信型のリサーチをし、大企業のマネージャーは確証型のリサーチを行う

今回は成功している起業家たちに共通する7つのセオリーのうち「市場調査を信じない」という点についてです。

『2回以上起業して成功している人たちのセオリー』ではさらっと紹介しているのですが、「成功している起業家たちは市場調査を信じない」というのを「マーケティング調査なんていらいない」と理解している人がいるようなので、あらためて解説したいと思います。

今回も、企業のマネージャーと、起業家やイントラプレナーとを比較してみていきましょう。

まず、起業家も市場調査をするにはするのですが、なにが違うかというと、私たちは「確信」と「確証」というフレームワークを持っていて、ざっくりいうと、起業家は確信型のリサーチをし、大企業のマネージャーは確証型のリサーチを行うんです。

確信型のリサーチというのは、たとえば同書に登場した起業家の場合、「できる限り顔の見える人のところに足を運んで実際にサービスを使ってもらって反応を見ます」または、「実際に売ってみて買ってくれるかをテストします」などと答えていることからもわかるように、量が多いかどうかという点にはこだわらず、より深く、よりインパクトが大きい行動が得られるかどうかの調査を行っています。

これは数人か、自分だけがわかればよいことなので、確信を深めるという意味でやっている場合が多く、周りの人からみると売れるかどうかわからないのですが、本人はここで確信を得られているからこそ、その後も突き進めるのです。

一方で大企業のマネージャーの人たちは、「この商品のコンセプトを1000人に聞いたら60%の人が買いたいと言いました」というアンケートリサーチを行います。この結果は、上司や会議で報告するとか、周りの人を説得するのには役立つんですが、実際に目の前で人が行動するシーンを見たわけではないので、マネージャー本人も確信を得られていないんです。

これでは、アンケートではこうだったけど、ふたを開けてみたら買ってもらえなかったというパターンに陥りがちです。

ここが大起業のマネージャーと起業家の面白い違いで、マネージャーがこれまでやってきたことというのは既にビジネスモデルが確定している中でのことなので、1000人にアンケートを聞いた答えでも、ある程度成果を得られていたんです。

一方、起業家のやろうとしていることは、既存にはないまったく新しいことなので、消費者すら知らない可能性がある。つまり、アンケートをしても実際のイメージと違うことがあるんです。

新規事業もこれと同様の観点で、いきなり1000人にアンケート調査をしてもあまり意味がないと思っておいたほうがいいでしょう。

ただし、イントラプレナーの場合はこの両方をやらなければいけません。自分たちの確信を得るためにちゃんと顔の見える人に聞く一方で、組織で説得していくためにアンケートをとらなければいけないので、そういった意味ではイントラプレナーがいちばん大変かもしれません。

もちろん起業家も、投資を受けるなどの場合は量的な調査が必要な場合はあります。誰かを説得するというのは確証作業なので、確証作業に関してはサンプルサイズが大きい調査も必要になります。

私が「市場調査を信じない」と書いた真意は「1000人の人に聞いたら60%の人が買いたいと言っていました」という、その平均値を信じないという意味です。

本当に初期の起案の段階ではこのように考えて、実際に走り始めたら数字も大事になってきますが、その数字というのは、アンケート調査の数字ではありません。

たとえばホームページを作ったら何人の人が見てくれて(PV数)、申込してくれた人(CV数)がどれくらいで、広告にいくらかけたらどれくらいの効果が得られたかなどの自社のビジネスモデルの構造を端的に表す事実を映し出す数字(Magic Number)が大事なんです。

そのときに気を付けるべきことは、その数字というのは「枠内」の数字で、その時点で見えているビジネスモデルやターゲット顧客の範囲でしかないのに、その中で最適化しようとしてしまうことです。

たとえば、今まで1か月に100人アクセスして10人申し込みが来ていたものを、申し込みを15人にしようとしたとき、実際に改善すれば可能なのですが、本当は1000人にアクセスしてもらう別の道があるかもしれない。この状況を局所最適と言います。

本当はまったく違う「枠外」があるかもしれないので、SEEDATAでスタートアップを支援するときは、未来データから「今はこういうタイプにいっているけれど、トレンドからみると違うところに魚群がいるのではないか」という「枠外」の話をするようにしています。

ここはバランスの問題ですが、局所最適に陥ることは避けつつ、数字を見ながら改善していくということが大事です。

たとえば本の中にもあげていますが、あるwebサービスを作っている社長は「具体的に相手の顔が見えないものは作らない」と言っています。

これはいわゆるペルソナという意味ではなく、「〇〇さん」という実際に周りにいる人を想像して、その人だったらどうするかを考えるということが初期のうちは重要になってきます。

まず、顔の見える人から具体化していき、ひとりそういう人がいれば、ほかにも同じような人はいますからね。ただ、その後局所最適に陥らないように注意することが必要です。「もっと大きな魚群を表す“顔の見える人”がいるかもしれない」と、つねに頭の片隅に置きながらいくべきです。

ここまでの考え方だけでも、根本的にフレームワークに違いがあることがわかります。

大企業のマネージャーは、あり得る状況を漏れなくダブりなく整理したいんです。それがなぜ可能だったかというと、今までやってきたことは既存ビジネスなので整理する範囲がだいぶ明確だったからです。

起業の場合、どこまでが整理するべき範囲かあいまいなので、まずは初期値を決めてやってみるしかありません。一回ずつデータを更新してチャレンジしてみる、いってみれば探索型で、探索しながら最適解を探っていくという、今っぽいやり方です。範囲がどこまでかわからない世界での勝負なので、なにかしら初期値は必要で、初期値を持ちながら目の前のデータを使って更新していくという頭の構造に変えてやっていく必要があります。

ただし、このときのリスクは局所解が見つかってしまうということで、これが起業家的アプローチの弱点ともいえます。こういった考え方はオペレーションズリサーチの分野で言われている局所的最適解と大域的最適解のアナロジーで理解できるかもしれません。興味がある方は検索してみてください。

SEEDATAでは、「もしかしたらこれは局所的最適解ではないか」という洞察を提供することができます。「今現在局所的最適解に陥っている可能性があり、大域的な最適解がほかにあるかもしれない」と指し示すことが、成長期のベンチャーへの役割だと考えています。

局所的最適解というのは、100人がアクセスしてくれる世界に対しては最適化されている状態なので、一見うまくいっているように見えますが、実は1000人の山が別にあるかもしれないという状態です。1000人の山が見える可能性があるなら、そっちに向かって行った方がいいと初期値を置きなおす必要があります。

実際に起業家のやっていることはオペレーションズリサーチにおける最適化と発想は同じで、起業家にとっての初期値は「顔の浮かぶユーザー」ということになるのだと思います。こういった話を頭にいれておくだけでも、日々なにかを発見しようというマインドで過ごせるはずです。

起業は言ってみれば市場創造という最適化問題を解くようなものなので、いずれにしても最初になにかしらの解をみつけなければ話にならないのですが、最初に見つかるものは局所的な最適解かもしれないと思っておく必要はありますね。

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宮井 弘之
Written by
宮井 弘之(Miyai Hiroyuki)
SEEDATA 代表