新規事業を成功させる起業家脳の作り方⑥何をより誰と

SEEDATAではこれまでも、新規事業を進めている企業からご相談を受けて参りましたが、近年さらに、新規事業、新価値を創造したいという企業が増え、その際の新規事業部の進め方や制度の設計方法について質問され、コンサルティングする機会が増えてきました。

当連載では、連続して成功している起業家たち(シリアルアントレプレナー)はどのようなものの考え方をしているのか、多くの起業家を見てきたSEEDATA代表の宮井氏が見つけた彼らの共通点から、イントラプレナーや起業家に必要な、起業家脳の作り方についてお届けしていきます。

何をより誰と、個々の持ち味を生かすことが成功につながる

今回ご紹介する「何をより誰と」は意外と社内のイントラプレナーも使ってる人は使っていて、これまで紹介したセオリーのように成功している起業家と真逆という法則ではありません。

前回の記事はコチラ↓

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これはほぼ、サラス・サラスバシーが「エフェクチュエーション」で書いたクレイジーキルトの原則と同じです。

普通縫物をする際は「この布とこの布が必要」とレシピにあわせて作るものですが、クレイジーキルトはその辺にある布を張り合わせて作るもので、ありものの食材でおいしい食事を作る「まかない」に近い考え方を、組織にも応用しようというものです。

一般的には、まず「こういう事業をやろう」と「何を」からスタートする場合が多く、そうなるとマーケティングの専門家、営業の専門家が必要となり、ポジションに人をはめていくことになります。大きな会社ならそれで役割分担していけばいいのですが、新規事業を始めたばかりのときは人手もそんなにないので、ビジネスに人を合わせていたら足りなくなるし、1人2役3役とこなしていかないければいけないので、決め方として効率が悪いという事情もあります。

一方、成功している起業家たちは、とりあえず三人集まったらその三人で何ができるかをまず考えるんです。もちろんビジョンはちゃんとあって、そのビジョンをどのように実現するかを、三人の強みを合わせてやれるやり方でやる、だから「何をどうやるか」は集まったメンバー次第で、社長が決めるわけでも社員ひとりに頼るわけでもない。だからこそ「誰とやるか」はすごく重要になってくるんです。

このクレイジーキルトの原則は、マーケティングの諸概念とエフェクチュエーションを接続的に研究している神戸大学の栗木先生の解説によると、以下のように説明されています。

「可能な相手から交渉をはじめ参加をうながし、その結果としてできあがったネットワークの中でなにができるかを考えることを優先する行動原則」

出典:栗木契. (2015). 無限後退問題とエフェクチュエーション. 国民経済雑誌211(4), 33-46.

また、クレイジーキルトの原則と似ているのが「レモネードの原則」です。これについては、

「予期せぬ出会いを大切にし、偶然を避けるのではなく利用し尽くすことを優先する」

という解説がされていますが、昔から、キャリア理論ではプランドハプタンス(計画的偶発性)という理論が提唱されており、偶然起こったことをうまく取り込み、自分の強みやチャンスに変えるという意味があります。

これは、成功している起業家の共通点として以前ご紹介した「自分は運がいいと信じている」にも通じるものがあります。

2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』にも書きましたが、ほとんどの成功している起業家は「このビジネスモデルがよかった」とは言わず、「この人とやったからよかった」「このチームだからよかった」と言っているんです。この本で登場した起業家たちの話から、仮に「何を」のほうをビジネスモデルだとすると、「誰と」を重視しているということがよくわかりました。

そもそもビジネスモデルというのはジャーナリストたちがあとで分析していうことであり、ほとんどの成功している起業家はそこにいるメンバーの力が最大限発揮できる方法で、クレイジーキルトを作っているんです。

また、多くのベンチャー投資家たちも、投資する社長自身のことももちろん見ますが、そのパートナー、誰とやっているかということを当たり前のように見ています。起業家たちは一緒にやる相手の大切さを直感的に感じて、パートナー選びに重きを置いている部分があります。

さらに、ここに後ほどのコラムで取り上げる「弱みに徹する」というセオリーが加わると最高で、その人の持ち味をいかせるということなので、よりクレイジーキルトが作りやすくなります。

たとえば「あなたは営業の担当」として入ってしまうと、実はマーケティングの才能があったり、広報もできたりするかもしれないのに活かすことができないのです。1人が2役3役も自然とできるところも、クレイジーキルトの優れている点といえるでしょう。

SEEDATAもこのクレイジーキルトの原則と同じような考え方で経営をしています。一番最初は商品開発が好きなメンバーが入ったので商品開発や未来洞察を中心に立ち上げ、次に事業計画や新規事業が好きな人が入ってきたので事業を広げていきました。

経営の大きなビジョンは当然出しますが、それを各自がどう実現するかは、それぞれの持ち味に合わせています。なのでSEEDATA自体がクレイジーキルト状態ともいえます。個人的な感覚としては、少なくとも20人くらいまではこれでいけるかなと考えています。

行先の決まったバスにみんなが乗るのではなく、乗せた人たちの行きたい方向に行くイメージで組織運用しています。

SEEDATAではざっくりとした役割は決めていますが、細かく階層化は一切していないし、

それぞれが自分のやりたいことをはっきりさせたり、どこが好きかを発見することに時間をかけていています。今後もそうやって経営していきたいし、成功しているベンチャーや起業家も、ほとんどがクレイジーキルトの原則を知らず知らずに活用している場合が多いのではないでしょうか。

これは大企業内イノベーターも同じです。たとえば部長クラスになると、会社から方針が降ってくるのですが、意外と細部までは決められておらず、中身は自由なことが多い。そういうときに、うまくやっている管理職の人はクレイジーキルトの法則を使って、どうやるかはメンバーの持ち味で決めているんです。

逆に、これを部長がギチギチに決めて管理型に入ると、下につく人間はモチベーションも上がらないし、決められた枠の中で走らないといけいなくなるので、持ち味も発揮しづらくなります。スポーツチームなどもそうですが、うまくやっている組織では昔からある法則かなと思います。

起業家にとっては当たり前の話ですが、大手企業の内部でやるときも、上に立つ役員の人たちはあまり決め込まない方がいいでしょう。

ヘルスケア、健康など、新規事業の大きな枠組みは決めても、どのようにやっていくかはメンバーが考えたほうがいいし、これはオープンイノベーションで交渉していくときも同じです。どうやるかは組んだ相手の持ち味をいかすというスタンスでなければ、単なるお互いのソリューションの営業合戦になってしまいます。

ただし、オープンイノベーションをするときに大事なのは担当者レベルのクレイジーキルトです。よくありがちな間違いは、「個人の持ち味」ではなく「その会社の持ち味」にフォーカスしてしまうこと。大きく見たときに会社全体の持ち味があったとしても、個人の持ち味はあくまで人によって違うので、今回ここに集まっている人たちの持ち味でやらないと、プロジェクトとしてはうまくいきません。これはベンチャーと大企業の提携の場合も同じです。

ベンチャーの場合は人数が少ないので、会社のやれることと個人のやれることは一致することが多いのですが、大企業の場合、部署によって雰囲気も全く違うので、「この会社はこう」という観点でベンチャーの人が見てしまうと、目の前にいる人はそんな力はもっていなかったりすることもあります。

目の前にいる人の持ち味でキルトを作っていくことを心がける、これはコラボレーションの基本といえるでしょう。

SEEDATAは後輩だった藤井君と私の2人で始めたのですが、彼に声をかけた理由は、彼が商品開発に興味があったことも知っていたからです。「いちばん商品開発に興味がある人は今自分の周りで誰だろう」と考えたときに彼しか考えられなかった。

あと、彼の良いところは「こういう方向で」と言えば自分で考えて進めることができるところ。彼は私の広げた風呂敷を畳む意識でいるので、いい意味で私よりも現実的です。うまくいくパートナーはタイプが違うということは基本ですね。

これは研究結果ではなく単なる私の経験則ですが、同じようなタイプだとうまくいかないことが多いような気がします。クレイジーキルトで考えたら同じ柄が並んでいてもつまらない。

私の場合は少なくとも、同じようなものを見て同じような経験をしている同期などより、年齢はすごく上か下、あとは明確な上下関係や技術の得意分野の差があるかなどを重視します。

ただ、形にする技術者やエンジニアがメンバーにいるときは、タイプが違うからといってあまり自由にやってもらうと、顧客ニーズを確かめないでプロダクトの作りこみに走る場合が意外と多いので注意が必要です。

タイプの違うコンビで組んで成功している例はたくさんあって、たとえばライフネット生命の出口元会長と岩瀬社長も年の差ですね。とくにBtoBをやりたいときは年の差は有効かもしれません。あとは営業とエンジニア、マネージャーとアーティストなどもそうです。

これは人生の中でも意識しておいたほうがいい点で、家族運用も、この家族のメンバーでできることをやっていこうというのが大事ですね。クレイジーキルトの原則は人生を豊かにする考え方のヒントといえます。

SEEDATAも20人まではクレイジーキルト型でいこうと考えていて、それを越えたらまた部署ごとにその中でキルトを作っていけばいいと思っています。

昨今、中間管理職は必要ないという風潮がありますが、ただ管理するだけの中間管理職ではなく、組織の中でクレイジーキルトが作れる中間管理職は必要になってくるでしょう。部署に降ってきた目標を各自が勝手に協力し合ってキルトになるということはないので、誰かがキルト化してあげないといけない、そういう人は必要でしょうね

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SEEDATAでは、独自に定義した先進的な消費者群(=トライブ)のリサーチを通じて、企業のイノベーション支援を行っています。

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宮井 弘之
Written by
宮井 弘之(Miyai Hiroyuki)
SEEDATA 代表