新規事業を成功させる起業家脳の作り方➈無のセオリーと有のセオリー

SEEDATAではこれまでも、新規事業を進めている企業からご相談を受けて参りましたが、近年さらに、新規事業、新価値を創造したいという企業が増え、その際の新規事業部の進め方や制度の設計方法について質問され、コンサルティングする機会が増えてきました。

当連載では、連続して成功している起業家たち(シリアルアントレプレナー)はどのようなものの考え方をしているのか、多くの起業家を見てきたSEEDATA代表の宮井氏が見つけた彼らの共通点から、イントラプレナーや起業家に必要な、起業家脳の作り方についてお届けしていきます。

最終回の今回は、これまでご紹介した8つのセオリーの構造と、この考え方を活用することの意味について解説いたします。

新規事業開発は先の予測ができないからこそ、このセオリーが有効になる

これまでお伝えしてきた、連続して成功している起業家たちに共通する8つセオリー。もしかするとこれ以外にもあるかもしれませんが、ひとまずこれらはすべて、私自身が見てきた起業家や社内イノベーター、イントラプレナーなどに当てはまっているので、有効な考え方といえるでしょう。

これらの8つのセオリーの構造を私見でまとめたものが以下の図になります。

しかし、これはあくまで起業家たちの特徴であり、なぜ企業のビジネスマンがこのようなセオリーを理解する必要があるのでしょうか。

この考え方を持つと何が嬉しいのか、これらの考え方が持っている「機能」を腹に落として理解することの意味をまとめたものがこの表です。

まず、おさらいすると、無のセオリーは

となります。

これらは一般的に企業で働いている人の中にはむしろあるセオリーですが、起業家にはないものといえるでしょう。

たとえば、企業で働く人たちは市場調査を信じているし、事業計画を守るし、キャリアを積み重ねる、それが起業家たちにはないというのが無のセオリーになります。

続いて、有のセオリーは

となります。

これも企業で働いているとあまりいわれないことですが、連続起業家の中にはあるという意味で有のセオリーです。

では、起業家たちは何故このように「有」と「無」が真逆になるような考え方を背負っていかなければいけないのでしょうか。

それは、企業で働いている場合と新規事業では「先のことの予測できなさの度合い」が大きく違うからです。

たとえば、以前からある飲料を販売している組織の場合、だいたいの来年度の売り上げは予測できるため、その場合は市場調査を信じて、計画どおりやればよいでしょう。

一方、新規事業は本当に先がどうなるか予測できないため、前提条件として「先のことが予測できないときには、先のことがある程度予測できる場合とはまったく逆の考え方をしなければいけない」ということを意識すべきなのです。この点については以前紹介した神戸大学の栗木先生の論考において、ナイトの不確実性の概念を用いて丁寧に解説が行われております。

つまり、これまで企業の新商品開発者が直面してくるのは、第1、第2程度の不確実性でありますが、企業の新規事業担当者や起業家は第3の不確実性に直面すると考えたほうがよいでしょう。

この8つのセオリーを一言で表すと「自由になるためのロジック」です。

何故なら、先のことが概ね予測できている場合、「こうなるだろう」「ここまでが限度だろう」などというさまざまな思いこみが生まれがちです。しかし、この思い込みというものは先のことが分からない世界では大変危険で、ジャングルでいつ猛獣に襲われるかもわからないのに思い込みで行動して死んでしまうようなものです。

つまり、思い込みから自由になるための意思決定の原則こそが、連続起業家が持つ8つのセオリーの本質といえるでしょう。

この考え方を取り入れることのメリットは、先のことが予測できない状況で、この原則を持っていると思い込みから自由になり、アクションの自在性が確保できるということです。

行動というのはものの考え方に影響されるので、「これはダメ」「あれはダメ」と思っていると、予期せぬことが起こったときにとる打ち手が狭まってしまいます。何が起こるかわからないからこそ、臨機応変に打ち手を出せるようにしていく、そのためのものの考え方がこの8つのセオリーには凝縮されています。

この原則に沿って意思決定をしていけば、先のことが予測できない世界で生き残っていくことができるでしょう。

もちろんこの考え方は起業家だけにいえるものではありません。今の世の中は不確実で、企業の中でも新規事業開発や新商品開発、新サービス開発などの新しいビジネスはなかなかうまくいかないと言われていています。不確実で先のことが予測できない状況に対し、先のことが見える場合のロジックで挑んでいては失敗してしまうということを理解しなければいけません。

このセオリーは新規事業や新商品開発など、未来が不確実な状態であえれば概ね転用できる意思決定のロジックといえるでしょう。

ところで、私がこのセオリーを紹介すると「これは生まれつきのものの考え方ではないのか」という意見が返ってくることがあります。

しかし、実際に私たちがインタビューした連続起業家たちは、出身、性別、生育環境、学歴、社会人経験、親の仕事など、すべてバラバラで共通点はありません。どんな出身でどんな経験をしてきた人であろうと、このようなものの考え方をしていることが共通点であり、偏った環境要因が影響を与えているとは言えないと考えます。

また、「遺伝の可能性」についても言及されることがあります。私は遺伝研究の専門家ではないため明言はできませんが、少なくともこの研究をしているサラス・サラスバシーはトレーニング可能という風に考えています。

実際にどのようなアプローチでトレーニングしようとしているかというと、組織論や人材育成でいうところの熟達という概念を応用します。

つまり、2回以上起業しているということは、不確実な状況でコトを起こすということに慣れてきている、熟達してるといえます。

まだ未踏領域ではありますが、こういった人材や組織が熟達したり学習したりする際の理論を応用しながら、実際にプログラムに落とし込む研究も進んでいるため、今後、体系化されたプログラムができていくことでしょう。

SEEDATAでもSD/Vなどを中心に、こういった概念を再現可能な形で教育するようにしています。

まずはこのセオリーを認知したうえで、自分の行動との違いを認識する必要があるので、コーチングのようなメソッドに落とし込むことは非常に有効です。具体的には、コーチングのスキルを持っている人が、その人の起業家としての行動を振りかえり、このロジックに当てはまっているかを認知させながら、行動を変容させていくという方法が考えられます。

実際に私も新規事業に参加したり、起業家をメンタリングしたりするときは、この原則を使ってコーチングしています。

もちろん、実際に起業するためにはもう少し具体的に、事業計画をどう作るか、サービスをどのようにデザインするかなど、行動計画と実践が必要ですが、本稿で言及しているのはモノの考え方のほうなので、考え方をコーチングする際にはこのセオリーを活用してください。

いずれにしても先のことは予測できないのは確かなので、アクションの自在性を確保できるよう起業家を支援するということがSEEDATAグループとして重要だと考えています。

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SEEDATAでは、独自に定義した先進的な消費者群(=トライブ)のリサーチを通じて、企業のイノベーション支援を行っています。

新商品・新サービス開発、新規事業のご相談はinfo@seedata.jpまで、件名に『イノベーション支援について』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。

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宮井 弘之
Written by
宮井 弘之(Miyai Hiroyuki)
SEEDATA 代表