トライブの価値観が次のイノベーションのもとになる【後編】

前回はSEEDATA代表の宮井氏に、トライブができた経緯と、インサイトだけでは商品の具体的機能や仕様を考えるには限界がある、というお話をうかがいました。そして、トライブリサーチでのインサイトの蓄積があるからこそ、エスノグラフィーでは行動にフォーカスし、ジョブを見つけ出すことができるという点がSEEDATAのエスノグラフィーの強みであることをお伝えしました。

今回は、トライブリサーチとインタビューの具体的な方法との関係についてお話していただきました!




インタビューより大切なのはそのあとの分析

-では、SEEDATAでは実際トライブリサーチをどのように行っているのでしょうか?


宮井「SEEDATAにはアナリストが30人ほど在籍していて、日々、世の中の事象から、今後、人々にこういう価値観の変化が起きるのではないかという調査をしています。メンバー全員が兆しにつながりそうな記事をひたすら集めているんですけど、よくあるのは、「これはなんとなく新しいな」というざっくりとした感覚で記事を探してしまうこと。僕はそれでは曖昧過ぎると考えていて、SEEDATAでは『人々の価値観の変化をにおわせている記事』をピックアップしているんです」


-「価値観の変化をにおわせている」とは具体的にどういうことでしょう?


宮井「人間は優先順位をつける生き物で、目の前にふたつの選択肢があったとき、どちらを優先します。その判断基準が価値観だと僕は思っています。

たとえば、最近すっぴんバーが人気だという話があるとします。よくない分析の場合「男性はすっぴんが好きだ」という単なる現象の記述をしてしまうんです。これって誰の価値観もいってないですよね」


-私も関連記事を読んだのですが、『日本人は魚も女性も天然ものが好きだ』という結論になっていて、かなりズレているように感じました。


宮井「でも実際、そういう記事クリッピングをしているところが多いんですよね。SEEDATAでは、これは自分の顔の上になにかを塗るのは美しくなく、塗らないことのほうが美しいという、顔の美しさに関する価値観の変動が背後にあるのでは?と推察します。

これまで、スッピンは化粧前で、化粧後こそが最後の姿という認識だった、そのビフォーアフターがもはや変わっているかもしれない。そうなると、何か商品を選ぶとき、化粧したときに美しくなるものではなく、すっぴんが美しくなるものを選ぼうと優先順位のつけ方が変わってくる、こういった分析ができれば、価値観の変化がにおっていると考えています。

そういう価値観の変化があらわれそうな記事をたくさん集めているから、トライブを見つけることができるんです。記事の蓄積で『こういう人たちって増えてくるかもしれないね』となると、彼らに名前をつけてトライブとして深く調査していくことになります。

単に流行りの記事を追ってるのではなくて、人々の価値観の変化に絞って兆しを分析しているんです」


-では、実際にトライブはどのように見つけてくるのでしょうか?


宮井「よく聞かれる質問ですが、トライブは安易にアンケート調査などでは見つかりません。そもそも先進的な人たちは自分の今の生活に忙しいから、アンケートパネルに登録していないんですよ。哲学を持っている人は自分から発信していることも多いので、そういう発信をしている人に取材交渉したり、あとは基本的には人の紹介ですね。

理解しておいていただきたいのは、トライブリサーチは普通の調査のように、すぐにできるものではないということ。取材対象者を選定して、取材交渉して進めていくんですが、インタビューの準備だけでだいたい1か月半~長い時は2、3か月くらいは必要です」


-だからこそ、SEEDATAではあらかじめ多くのトライブリサーチをストックしているというわけですね。では、実際に対象者を見つけたらインタビューを行うわけですが、どのようなポイントがあるのでしょうか。


宮井「インタビューでは、デプスインタビューをしたり、トライブ同士の対話を分析(プロトコル分析)することもあるし、訪問調査でインタビューすることもあります。訪問調査をする意味は、コンテクストを見るためですね。そのトライブの人たちに合っている形でインタビュー調査を行います。

ここでみんな勘違いしているのは、トライブが答えをもっていると思っている点です。トライブの発言から、そのまま商品のヒントや価値観がでてくると思っている人がいるのですが、これは大きな間違いです。

アカデミック的にいえば、先を進んでいる人のやっていることや思っていることは、本人たちでさえちゃんと言語化できていなかったり、わかる人同士でしかわかっていない状態になっていることが多くて、その人たちの持っている情報がその人たちだけでくっついているという意味で、『情報の粘着性が高い』状態と言います。

情報の粘着性が高い状態では、パっと聞いても答えがでているように見えないんですよね」


-アナリストの分析力が重要になってくるということですね。


宮井「はい、いかに時間をかけて分析するかがポイントで、粘着しているものをひっぺがしたり、そこに隠された意味を発見することのほうが、インタビュー自体より何倍も大事になってきます。

誤解されがちなのは、多くの対象者に聞けばヒントがたくさん出てくると思って、10人20人に聞こうとすること。情報の粘着性が低いものに関しては聞けば普通に出てくるし、それは通常のインタビューでやればいいので、わざわざトライブリサーチする必要はないんです。それより、10人にインタビューする時間があれば、5人に絞って、その分、分析に時間をかけたほうがいいんですよ」



宮井「そして、インタビュー後にアナリストとみなさんでマイクロレポートを作るんですが、この作業では事実からある程度飛躍した説明仮説の導出を行います。10人が10人、「そうだね」という結論ではなく、「もしかしたらそうかもしれない」と思うような説明仮説を立てることが、情報の粘着性に対抗して、情報をひっぺがして、隠された意味を見つけるということにつながります。論理的に分析するのではなく、もしかしたらこうかもしれないという説明仮説を見つける、これはアブダクションという方法です。

共通点を見つけるわけではなく、もしかしたらこうかもしれないと思ったら、ひとつの発言でもいいので、『こういう隠された意味があるのでは?』『本当はこう思ったのでは?』という説明仮説の候補を40~50個くらい出します。

これらの説明仮説を組み合わせて、『このトライブはこういう価値観の特徴があるのではないか?』と僕らが意味をあたえることができるんです。」


-インタビューすればすぐに答えが見つかるわけではないんですね。


宮井「トライブの価値観に関する説明仮説を立案し、それをデフォルメして、トライブをプロファイリングしているんです。それが通常のマーケティングリサーチと異なる、トライブリサーチに特徴的なポイントですね」





トライブレポートから出てきた価値観や行動は、一般の生活者にも応用可能


宮井「ここからがさらにおもしろくて、『トライブリサーチででてきた特徴や価値観は、トライブの人にしか適応できないのでは?』『ニッチで一部の人にしか使えない』と勘違いされがちなのですが、それは大きく違います。

何故なら、イノベーションというのは基本的に、同じ分野ではないこと、他の分野で起こってきたものを応用したり、持ってきたりする他家受粉で生まれることが多いからです。実際に、消費者の分析でもそれと同じことが起こっていて、たとえば、食の世界のトライブでは当たり前に起きていることを、実は薬の分野に応用できたり、もしかしたら旅行の分野にも応用できるかもしれない。インサイトは心の問題なので、どの分野でも応用できるんですね。

それをビジネスモデルと掛け算して、同じような価値観を満たしてあげることが、自分たちの分野ならどうできるだろうと代替的に考えます。たとえば、今は食でこの価値観を持っている人たちが喜んでいるけれど、食よりも自分たちがもっとうまくやる方法があるんじゃないかと、そういう風に考えることによってすごく届け方のヒントになってくるんです」



宮井「なので、トライブレポートから出てきた価値観や行動変化仮説は一般の生活者にも十二分に応用できることが多くて、むしろ、自分たちから遠い、疎い分野の方が発見が多いということを十分理解する必要があります。この変化に関する洞察をレポートの形に落としこんだのが、生活者変化行動仮説というものです。

トライブレポートの半分はこの生活者変化行動仮説になっていて、今はこのトライブでしか起きていないけれど、一般の生活者にも応用できそうな行動変化の仮説を書いています。

たとえば、オンラインフリマというトライブを分析したとき、フリマアプリをすごく使いこなしている若者が多かったのですが、その人たちは定価ではなく、いくらで売れるか、リセールバリューを常に考えながらモノを購入するんです。そのため、リセールバリューと定価の差額が小さければ安いと感じ、意外と高級品を買ったりするという発見がありました」


-若者ではないのですが、私自身も当てはまりますね。たとえば化粧品などでも、ちょっと試してみたいと思ったとき、使用頻度が少なければフリマアプリですぐに売ることができるので、商品を買うことへのハードルがすごく下がってきています。


宮井「狭い考え方だと、『それってスマホを使ってる若者の話だよね?』となってしまうんですが、たまたま今スマホでそれができるから、そういう行動がネットでしか起こってないだけで、実は不動産では昔から行われていたことだし、今後ほかの分野でも応用できるかもしれない。

単に今使える技術だとそれしかないだけで、『自分たちの技術ならどこまでできるか?』と考えることができるので、ほかの業界に対してのほうがヒントになりやすいんですよね」


-では、ある行動をする人たちが増えているとわかったら、そこからどのように全体に広がっていくかをはかっているのでしょうか。


宮井「たとえばオンラインフリマのような人が今後増えそうと思ったら、若者だけでなく生活者全体がこうなるのではないか、または、ほかの分野でも起きていないかを調べます。

それがほかの分野でも起きていることがわかれば、これは限られた分野だけの話ではないとなり、その行動をさらに記事で探してくるんです。これをアーリーウォーニングサイン(EWS)、初期兆候というんですが、EWSがあるかどうかを確かめ、それが見つかったものを生活者行動仮説として発表しているんです。



宮井「未来を作る人が見なければいけないことって、人口が何億人になるとか、定量データで分かることではないんです。かといってなんの証拠もない妄想では意味がない。だからトライブで、アーリーウォーニングサインを見つけて、妄想とすでに分かっていることの間を見つける必要があります。僕はそこにビジネスパーソンの見たい「未来」があると思っています。

それを見つけるのがトライブリサーチで、まずは価値観を見つけて、その価値観から僕らが行動を予測する。ほんとに商品にするためにはジョブを見つけなければならないのでエスノグラフィーをするんですが、レポートの段階では、各アナリストが技術的な知見も含めて活用し、行動変化までを洞察して、そういった行動がもし社会の中で増えたとして、社会そのものがどう変わっていくのかという社会変化シナリオというのを作っています。トライブから出た考えが、生活者に広がったときに、社会や生活者がこう変わるというものですね。

このように、まずはトライブを見つけて、トライブの価値観をプロファイル分析して、それを一般の生活者に応用して、それが広がった社会までを提言しているのがSEEDATAのトライブレポートなんです。

1トライブにつき100ページくらいのものが、現在50トライブ分ほどあり、おおむね老若男女の行動を、インサイトベースではすでにとらえているというのがSEEDATAの最大の強みといえます」




SEEDATAではビジネスのプロトタイプまで作ることができる


宮井「トライブリサーチに対して、クライアントから『この人たちは何万人いるの?本当に増えるのか調べてほしい』と言われることがあります。これは、結論から言うと、できないとも、できるとも言えるんです。

クライアントも、担当者レベルではトライブレポートの定性的なものに確信を持てても、組織で仕事をしている以上、周囲の人を説得するために論理と数字を用いて説得をしなければならないんですよね。

やり方としては2つあって、まずはAWSをたくさんあつめること。その後、それを定量的に考えるときにはアンケート調査を使うんですが、これは今の生活者にトライブプロファイルで出てきた価値観の項目をアンケートして、『今こう感じている』『最近こう考えるようになった』など段階的に聞いていって、収集したアンケートデータを記述的な多変量解析にかけます。すると、今このトライブっぽい人はこれくらい、これから5年以内くらいになりそうな人はこれくらいと人数で表現することができるんです。

論理と数字で説得したいのであればそういう方法を使ってください。こういったアンケート調査はSEEDATAでも行えますが、別途調査会社さんにお願いしてやってもらってもいいと思います。」


-トライブの定性データと定量データを組み合わせるやり方ですね。


宮井「もうひとつはもっと現代的なやり方で、実際に価値観と生活者行動変化仮説が分かって、仮に自分でジョブをデザインできるとしたら、具体的なサービスのプロトタイプを、自分が想定している潜在顧客にあててみるんです。受容性が高ければ実際その未来がきそうだということの証拠になる、しかもビジネスチャンスが近づいているということの証拠にもなるのでSEEDATAとしてはお勧めです。

自社でビジネスのプロトタイプなんてできないという場合もあるので、その時のためにSEEDATAでは起業家を集めているんです。SD/Vにもちこめば、皆さんが取りに行きたい未来を実現できるようなサービスのプロトタイプを走らせるので、うまくいきそうだと思ったら事業譲渡やM&Aの形で買い戻していただいています。SEEDATAはIT分野だけでなく、リアルビジネスもすべてできるという点も大きな特徴ですね」



ありがとうございました!

今回のインタビューで、SEEDATAではトライブの蓄積があるからこそ、エスノグラフィーでジョブを見つけることができるということ、そして、トライブリサーチから未来を見つけ、エスノグラフィーで未来をデザインするヒントを得て、実際にSD/Vで未来を具現化するという大きな流れをご理解いただけたのではないでしょうか。

SEEDATAでは今後も、エスノグラフィーについての記事を公開していきます!


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【この記事の監修者】

宮井弘之。SEEDATA代表。


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