ビジネスにおけるエスノグラフィーの扱い

エスノグラフィーがビジネスに応用された事例は海外では数多く存在し、P&Gやレゴブロックなどにもエスノグラフィーが取り入れられていることは有名です。

日本でもエスノグラフィーをマーケティングで使おうという流れは、盛んに言われていますが、なかなか根付いていないのは、日本特有の環境的要因が大きく影響していると考えられます。

今回は、なぜ日本ではエスノグラフィーが定着しづらいのか、その課題について解説します。

日本は海外に比べてフィールドに入りづらい

エスノグラフィーを行う上で、日本と海外の大きな違いのひとつが、フィールドの入りやすさです。フィールドとは調査対象者を観察する場所を指しますが、ビジネスにおいてもっとも入りたい場所のひとつが「家庭」なのです。

家庭の入りやすは海外と日本ではかなり差があり、たとえば「あなたの家庭を2、3時間観察させてください」といわれて、イエスという方は日本ではどれくらいいるでしょうか。

さらに、エスノグラフィーを本家本流で行う場合、エスノグラファーは調査対象者と一緒に住むことになります。

海外の場合、家も日本に比べ広く、エスノグラファーに専用の部屋を与え、家に住ませることも可能です。ホームステイのように家族の一員として過ごすことで、学術的なエスノグラフィーのように民族のメンバーになっていくことができるのです。

一方、日本の場合、住宅の面積も狭く、そもそも一般家庭で部屋があまっているような家は少ないので、エスノグラファーが一緒に暮らすことへのハードルはかなり高いといえます。

そのため、日本におけるビジネスエスノグラフィーは、「とりあえず観察に行く」というような形になりやすく、エスノグラフィーを行っても前後の文脈を追えないため、分析的視点を持ち、最終的に何をゴールとするかが曖昧になってしまうという問題が生じるのです。

また、日本では「いつもどおりの生活を見せてください」といっても、いつもより化粧が濃くなったり、食卓であれば小鉢がいつもより多かったりと、どうしても「人を招く」という考え方になってしまいがちです。

そのことがとくに明らかにされた調査として、2012年に発売された「家族の勝手でしょ!―写真274枚で見る食卓の喜劇」が有名で、一般家庭の食卓に並ぶ料理を追いかけるという調査を行っています。

初めのうちの食卓はとても豪華なのですが、それは続かず、どこかのタイミングで彩りが悪くなったり、品数が少なくなったりして、それ以降すごく妥協が生じて、非常にリアルな食卓が描かれています。

この調査から、日本では調査対象者が、自分を無駄によく見せようとしてしまうということがわかります。また、調査期間が短かったり、エスノグラファーと会う頻度が少なかったりすることで、素の行動ができないという複合的な問題もあります。

アメリカではエスノグラフィーを行う必然性があった

アメリカは多民族国家で、自分とは文化が違うコミュニティを調査する必然性がありました。違う民族に対してサービスやプロダクトをつくるために、まず彼らを理解しなければならず、エスノグラフィーの必要性が出てきたのです。

日本も多民族国家ですが、日本民族や琉球民族といった民族の違いと、日本国民が混同されています。

対して日本は、そもそも90年代まではみんな似たようなライフスタイルを歩んでいたので、ひとつの絵を切り取った調査をして、深いインサイトを突くことをしなくても、量的に抑えればマスをとれていたのです。

現在、日本でもエスノグラフィーの重要性が再認識され始めており、理由としては、時代の流れとともに価値観の多様化が広がり、社会にかつてほどの大規模な同一の価値観を持った集団は存在しなくなっているという背景があります。

さまざまな年代、性別、趣味や嗜好に向けたメディアが無数に存在し、みんなが違うものを見ている時代だからこそ、「新しい価値観によって定義される集団」(=SEEDATAの定義するトライブ)を知る重要性があるのです。

しかし、前述したように、まず前提として他人(エスノグラファー)を家に入れにくい日本社会という背景があり、いざビジネスのフィールドに立つと、以下のような問題あります。

・人件費と調査期間の問題(調査期間には背景的要因も関わってくる)

・エスノグラフィーによるわかりやすい成果が現在日本には少なく、お金を出す企業が少ない

・人件費が捻出できず、エスノグラファーも割にあわない

・発注する側も期待通りの成果が得られるかわからない

このような理由から、日本では定量調査などこれまでのアプローチから抜け出せず、エスノグラフィーの活用が進みにくいと考えられます。

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