【エスノグラフィーの事例】新宿ゴールデン街のエスノグラフィー①

大学院の修士研究で、アルバイトとしてコミュニティに参加し、一年間ゴールデン街の様子や変化を見つめ、研究を行ってきたSEEDATAの大川さん。

今回は大川さんがなぜゴールデン街に惹かれ、研究を行うことになったのか、お話をうかがいました。

常連が集まるコミュニティへの興味からゴールデン街へ

大川(以下:大)「今回は僕が修論で研究していた『新宿ゴールデン街のエスノグラフィー』についてお話します。

新宿ゴールデン街について簡単に説明すると、歌舞伎町1丁目にある戦後くらいから続いている、1店舗3坪、4.5壺くらいの狭い飲み屋が300店舗くらい集まった大きな横丁で、その一帯が通称としてゴールデン街と呼ばれています」

-ゴールデン街といえば、ディープな飲み屋街という印象がありますね。具体的にどういった研究を行ったのでしょうか?

「研究の概要は、一年間アルバイトとしてゴールデン街のコミュニティに参加して、参与観察を行うというものです。300店舗くらいの店がある中で、店同士がどういう交流を持っているのか、また、常連という存在が店の中でどういうコミュニティを形成しているのかなどを知りたくて、ゴールデン街という都会の中にある小さい町、小さいけど大きなコミュニティを研究しようと思いました」

-一年間は長いですね!ゴールデン街ならではのおもしろい発見がたくさんありそうです。

「一年間の参与観察を通して、コミュニティがどういう生態系を維持しているか、文化や暗黙的なルール、一年間彼らがどういうスケジュールで動いているかなどを知ることができました。

たとえば、新しいお店を出すときには、老舗の店を中心に周りの店に一度挨拶まわりをして、その店のマスターにお酒を一杯おごって飲んで、そうやって飲み歩いてはじめて店を出すという暗黙的ルールがあります。そういう、外から見ただけでは分からない文化やルールも、中に入って参与観察することで知ることができました」

-そもそも何故フィールドとしてゴールデン街を選んだのでしょうか?

「実はゴールデン街は今変化の中にあって、約280軒のうち160軒以上が2000年以降に創業しています。戦後から続く、50年以上の老舗ばかりが並んでいると思っている人が多いかもしれませんが、2010年以降、80軒くらい新たにオープンしていますし、2、3年前にできた店もたくさん存在します。

あとは2014年頃から、外国人観光客が急増しているという背景もあり、ここ3年くらいで町全体が急激に変化していて、そういう変化の中にあるゴールデン街を記述していくことに意味があると思ったというのが、研究の動機のひとつです」

-ゴールデン街という街に興味を持ったきっかけをもう少し詳しく教えてください。お酒を飲む以外ではあまり行くことがない場所だと思うのですが、大川さんはお酒を飲むのが好きだったとか?

「むしろ逆で、大学の頃はお酒を飲むのはそんなに好きではありませんでした。1人で飲みに行くことも絶対ないし、遊びに行っても車に乗るから誰も飲まなくて、いわゆる飲み会くらいでしか飲まなかったので、横丁とかには縁遠かったですね。

一方で、僕は喫茶店によく行くんですけど、スタバとかオシャレな純喫茶とかじゃなく、まじで「しょうもない」喫茶店が好きなんです(笑)。そんなにコーヒーがおいしいわけでもなく、マスターの茹でた謎のゆで卵が置いてあったりするお店ってあるじゃないですか。

単純にそこにコミュニティがあるから行くのか、移動の関係で習慣化されているから行くのか、そういうとこに通っている人の目的って何だろうと気になっていました。

だからコミュニティに興味がある一方で、コミュニティが形成されてなくても、みんながつい行ってしまうとか、習慣化されてしまう場に興味があったという感じですね」

-深く考えたことはありませんでしたが、単に料理がおいしいとか、コスパがいいとかいう理由以外で、つい行ってしまうお店ってありますね。

「それで、常連が集まるコミュニティってどんなだろうと思っていて。大学院に入った目的も、コミュニティ研究だったんです。参与観察ができるフィールドを色々と探していたんですが、僕は大阪出身で学部生の頃は関西にいたので、ゴールデン街のことはあまり知らなくて、ある日偶然友だちに、『飲みに行こう』と連れて行かれたのがきっかけです。

そのときに、こういう横丁のコミュニティってすごくおもしろそうだなと思って。2回くらいその友達とゴールデン街に遊びに行って、なんとなく僕が入りたくて入った店で店長と仲良くなって、翌々日にはそこで働くことになっていました(笑)。土曜に飲みに行ったら月曜にはカウンターに入っていたんです」

-研究のためにバイトを始めたんですか!?

「バイト始めた当初から研究をしていたわけではありません。研究をすることにしたのはもう少しあとですが、バイトをしている中で、他の店の人が仕事終わりに飲みに来たりだとか、酉の市は店のスタッフととくに仲のいい常連と一緒に時間決めて集まって行ったりするということがわかりました。

酉の市に行く日は、その時間だけ店を閉めて、常連さんと一緒に熊手を買いに行き、そこで焼き鳥とかビールを買って帰って、店を貸し切って飲むんですけど、そういう常連とのコミュニティっておもしろい文化だなと思って。それで、働きながらここで研究をさせてもらうことにしました」

-なるほど。たしかにそういった街の細かなルールは単にお客としてたまに行くだけではわからないですね。そしてここからいよいよ研究が始まっていくわけですね。

「バイト先の店長と相談して、あらためてゴールデン街の研究を始めることになったんですが、参与観察にはレベルがある、と言われています。

・完全な観察者

・参与者としての観察者

・観察者としての参与者

・完全な参与者

この4つに分類される、という話があるんですが、もちろん、はっきりとは分かれておらず、グラデーションになっています。エスノグラフィーと一概にいっても、観察者側の立ち位置によってアウトプットも違って、どれが正しいというものではありません。

たとえば、完全な観察者は、その現場にいないものとして振る舞うようにして、自分がいることによって場を変えないように努力します。

それに対して、完全な参与者は「研究していることすら知られていない」といった、完全にコミュニティに溶け込んでいる状態を指します。

僕は当初、よくオーナーに『観察しているつもりかもしれないけど、すぐ街に染まっちゃうよ』と言われていて、同じ意味で「すぐに地獄に落ちるよ」とも言われていました。そういうワードを別の言葉に置き換えると、

・街に染まる

・地獄に落ちる

・住人になる

というような表現がよく使われていました。

つまり、僕の研究の特徴は”一年間参与観察を続ける中で、最初は街の完全なる部外者だった僕が、徐々に街のコミュニティに溶け込んでいって、最終的に街に完全に染まりきっていく過程という自分の体験を切り口に、ゴールデン街の文化やコミュニティを理解していこうという試み”なんです。」

-かなり大胆というか、時間も労力もかかりますね。

「これを先ほどの参与観察の4つのレベルで表すと、もともとは「参与者としての観察者」の存在だったんです。コミュニティには参与しているけれど、メインとしては観察者で、状況を記録することをバイトという体をとってやっていて、みんなも僕のことを知っているけれど、「新しく入ったバイトの人」や、「研究のためにこの街にきている子」という認識でした。

ところが、徐々に集団の中に深く入り込んでいく過程で、最終的にはみんな僕が研究をしていることさえ忘れて、「ただの店のスタッフ」であり、「みんなの友だち」であり、『そういえばこの街の研究をしてたよね』と、あらためて言わないと思い出せないようなレベルになっていました。

エスノグラフィーの中でも完全な参与者というのは結構エクストリームな分類で、僕自身の立場の揺れ動きを見ることを通して、街への溶け込み方を見れる研究でもあります」(続)

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SEEDATAでは、独自のリサーチデザイン・分析フレームを用い、行動観察・インタビューを組み合わせたエスノグラフィーを行っております。私たちはエスノグラフィーを通して生活者の潜在的な「ジョブ」を発見し、それらを基にして商品開発や事業開発にお...

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大川将
Written by
大川将(Okawa)
チーフアナリスト