【エスノグラフィーの事例】Netflixが行ったビンジウォッチとネタバレの調査

今回はエスノグラフィーの手法を取り入れ、サービスの改善に利用したNetflixの事例を紹介します。

Netflixとは

Netflixはアメリカのカリフォルニアに本社を置く、世界最大の動画配信サービスを提供する企業です。ウェブサイトからの注文可能なDVDのレンタルを世界で初めて導入し、その後、当時では画期的だった定額制のレンタルDVDサービスを開始しました。そして2010年にオンラインストリーミングのサービスを開始し、現在では世界で1億人を超えるユーザーを抱えるまでに成長しています。

Netflixの文化人類学者との取り組み

Netflixなどの動画配信サービスの普及したことで、テレビやDVDを中心に利用していた消費者の行動は大きく変化し、Netflix側もこの変化に合わせたコンテンツの提供の必要性を感じていました。彼らはユーザーに関する膨大な量のデータを持っている一方で、こうした動きがなぜ、どのように起こっているかという部分を数値データの分析だけで理解することは困難でした。そこでNetflixは調査対象者の生活への参与観察を行うエスノグラフィーの手法を用いて、ユーザーの行動の調査に乗り出しました。

調査を行う上で、彼らは定性調査の専門家である文化人類学者のグラント・マクラッケンに協力を要請しました。グラント・マクラッケン(Grant McCracken)はカナダ人の文化人類学者で、消費や髪型などをテーマとした研究をしています。また彼は研究活動に加えて、NetflixのほかGoogleやAmazon、IKEAといった企業に対してコンサルティングを行っている人物でもあります。

「ビンジウォッチ」という視聴方法の普及と発見

ドラマの1シーズンを一度に最後まで見通す、または、その内の複数話を連続で見続けるビンジウォッチ(binge watch)という行動があります。これは日本語でいう「イッキ見」に相当するものです。現在では当たり前となってきているビンジウォッチですが、オンラインストリーミングが登場する以前は、ドラマの最新話を見るためにテレビで放送されるものを毎週1話ずつ見る、もしくはDVD化されたものをまとめてレンタルして見るというのが一般的でした。

一方オンラインストリーミングの登場後は、最新ドラマの1シーズン全話が一度に配信されるようになり、ユーザーの好きなタイミングで視聴することが可能になりました。こうしてビンジウォッチが若者の間で流行するようになったのです。

マクラッケンはビンジウォッチが人々から支持されている理由や行動の変化を解明するため、実際にアメリカやカナダの家庭を訪れて調査を行いました。その結果、調査対象者の多くは、ドラマを長時間見続けることに関して、時間的な罪悪感を感じていないということがわかったのです。

現在の感覚では、ビンジウォッチに対してネガティブ印象を持つことは少ないかもしれません。しかし以前は、ドラマを何時間も見続けるということは、パジャマを着たままダラダラとテレビの前で横たわり続けるような怠惰な行動だと多くの人は認識していました。

しかし最新のシーズンが全話まとめて配信されるようになったことで、早く全話を見通したいという意識から、複数話を集中して見るスタイルがむしろ主流となっていました。ユーザーはビンジウォッチを、ドラマに夢中になることで忙しい普段の生活から逃避することのできる有意義な時間として認識するようになったのです。

「ネタバレ」ユーザーの5分類

ビンジウォッチが一般化したことで、今度はドラマの最新のシーズンをいち早くチェックしようと、ユーザーたちは競い合うように見るようになりました。それと同時に起こったのが、ユーザーの「ネタバレ」に対する意識の変化です。

Netflixとマクラッケンは、ネタバレの文化の変化についても詳しく調査を行い、以下のようなことが判明しました。

・対象者の75%はネタバレは起こって当然のことだと考えている。

・対象者の94%はネタバレされてもドラマの続きを見ることをやめようとは思わない。

 うち13%は、ネタバレされることによってむしろ続きが楽しみになる。

かつてはテレビで放送されるドラマを視聴者は1話単位で週ごとに視聴していたため、リアルタイムで見た友人との会話を通して、ストーリーの結末やターニングポイントを実際に見る前に知ってしまうことで、その1話を見る楽しみが失われていました。そのため、当時ネタバレは非常に深刻なものだったのです。

しかし現在ではシーズン単位でオンライン配信されるようになり、1話ごとのストーリーの要点を知ることはあまり重要だと考えられなくなり、むしろ、どのようにそこにたどり着くかという経緯を見ることが楽しみになっているのです。つまり、ユーザーは真相というゴールではなく、それに至るまでの過程により重点を置くようになったということです。

以前であれば、他人より先の話を知っていることは、ネタバレをする力を持っている者とネタバレされるリスクを負っている者という上下関係が成立していましたが、現在ではもはやネタバレをされることは当然だという認識が一般的になっているとマクラッケンは主張します。

また、こうした調査の結果から、マクラッケンはネタバレをする人の性質を5つタイプに分類しました。

・Shameless Spoiler

ネタバレをしていると自覚ているが、ネタバレをすることは当たり前のことであって罪悪感はない。

・Power Spoiler

ドラマを早く見ることを周囲とゲーム感覚で競い合っている。ネタバレすることで相手に勝利を知らしめている。

・Coded Spoiler

内容をよく知っている周囲の人だけがネタバレの意味を理解することができるように、暗号的にネタバレをすることで優越感に浸る。

・Impulsive Spoiler

ドラマの魅力を伝えようとしてうっかりネタバレしてしまう。

・Clueless Spoiler

自分が見たものは他人も見ているという前提で会話をしてしまい、無意識にネタバレをしてしまう。

こうしてNetflixはエスノグラフィックな調査から自社のコンテンツを視聴しているユーザーをプロファイリングすることで、提供するコンテンツへの反応をユーザーの性質に合わせて正確に推測しているのです。

生活の中に入り込む、エスノグラフィーの有効性

Netflixはテレビが進化するにつれて視聴者のテレビの見方も変化していることに注目し、ビンジウォッチやネタバレをあらかじめ意識したコンテンツの作成や宣伝など、ユーザー視点のサービスデザインを可能にしてきました。

今では当たり前となっているオンラインストリーミングの文化ですが、新たなサービスの登場とともに行動を変化させるユーザーと、そのニーズを汲み取ってユーザーに寄り添ったコンテンツを提供するNetflixの双方によってこの文化は築き上げられていると捉えることができます。

消費者が生活する空間で、商品やサービスがどのような文脈で利用され、どのようなニーズが生まれているかという生の情報は、実際に彼らの空間に入り込むことで初めてわかるものだといえるでしょう。こうした定性データを収集するエスノグラフィーは、近年マーケティングや商品開発によく応用されるようになっています。またその他にも、サービスの改善や戦略の立案においても有効な手段として活用することが可能です。

参考

Netflix Declares Binge Watching is the New Normal

– https://media.netflix.com/en/press-releases/netflix-declares-binge-watching-is-the-new-normal-migration-1

How Thick Data changed Netflix

– https://blog.antropologia2-0.com/en/how-thick-data-changed-netflix/

The Case of the Ornamental Anthropologist

How Netflix puts a human face on Big Data.

– http://www.slate.com/articles/technology/future_tense/2015/05/netflix_tries_to_put_a_human_face_on_big_data_with_its_own_anthropologist.html

Netflix Research Reveals Our Depraved Love of Spoilers; Americans’ Inability to Shut Their Pie Holes

– https://www.themarysue.com/netflix-spoiler-research/

Spoiler Alert! It’s OK to Spoil

– https://media.netflix.com/en/press-releases/spoiler-alert-its-ok-to-spoil-migration-1

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大川将
Written by
大川将(Okawa)
チーフアナリスト