【ビジネスのためのサービスデザイン②】サービスデザイン思考の6つの考え方

前回、サービスデザインというのは様々なものを内包した大きな概念だというお話をしました。サービスデザインの概念の中には思考、ツール、プロセス、それらのマネジメント方法、ステークホルダーとのコミュニケーションをどうするかということなど、すべてが含まれています。今回はその中でもサービスデザイン思考の6つの重要な考え方についてご紹介します。

【ビジネスのためのサービスデザイン①】 製品のサービス化を実践していくためには?



1.人間中心

当たり前のことのように感じますが、実はこの「人間中心」ができていない新規事業や商品、サービスが数多く存在します。まず、人間中心とユーザー中心を混同している方も多いので、この2つの違いについてあらためて説明します。

ユーザー中心は「使い手が使いづらくないか、どうすれば使いやすくなるか」を考え、使い手の気持ちになって商品やサービスを改善するという手法です。

一方、サービスデザインは「ユーザー中心ではなく人間中心であれ」という考えが基本です。この違いを分かりやすく説明すると、


・ユーザー中心=ある商品やサービスの使い手を指す

・人間中心=(広く)人間を指す


人間にはそもそも普遍的な欲求があり、たとえば「早く移動したい」という欲求があるからこそ、馬車、車、新幹線とどんどん乗り物の速度は速くなっていきました。

サービスデザインは、大前提としてこういった人間の欲求や欲望に根差したサービスをきちんと作ろうというものです。

ただ単に使いやすいだけでは商品やサービスは広まっていきません。本当に人間の欲求や欲望に合ったものを提供しているかどうかが、使われるサービス、使われないサービスの命運を分けるといえるでしょう。

人間の欲望に根ざしていてよく使われるサービスの例としてNewsPicksを挙げて解説してみます。NewsPicksでは記事にコメントをする人たちのことをPickerと呼び、Pikerは記事にコメントをしたところで金銭的な報酬がもらえるわけではありませんが、かなり多くの人がPikerになっています。コメントをする人がこんなに多いのは、欲望に紐づいたデザインになっているといえるのではないでしょうか。

NewsPicksのリリース当初は著名人たちを囲い込み、多くの記事にコメントしてもらい、有識者が普段のニュースや記事に対してどんなコメントや批評を持っているのか、これは間違っているとか、これは本質的にはこういうことなんだということを分かりやすく解説してくれることがNewsPicksの価値でした。

すると、一般人もそこに追随するようにコメントをし始めたのです。ネット上では有識者と同じ立場でコメントができ、場合によっては自分のコメントに有識者以上にライクが集まることもあります。このように一般人も有名人と対等に競い合うことができる場をデザインしたということが、このサービスを使い続けたくなる理由といえます。

また、Twitterなど他のSNSとの違いとしてNewsPicksを見ている人は、全員コメントをする際には、実名または肩書がセットであることも重要なポイントです。「誰がいちばん良いコメントをするか」という良い意味での競い合うフィールドができていて、「競い合いたい」という人間の普遍的な欲求がうまく刺激されている例といえるでしょう。(※この事例の分析はあくまでSEEDATA独自のものであり、NewsPicksの見解ではありません





2.共創

次に、サービスデザインのプロセスは常に共創していくという点もポイントです。

前回の記事で良いサービスというものはお客さんだけではなく、従業員に対しても良いサービスを与えているという話がありました。ユーザーと従業員がお互いにシナジーを生むことで良いサービスが出来上がっていくのですが、サービスデザインのプロセス自体にも実際にユーザーがワークショップに参加して一緒にアイデアを考えたり、ほかにもサービスデザイナーだけでなく、クライアントやエンジニアなどさまざまなステークホルダーを巻き込んでいきながら、多視点でサービスを共創していくことが多々あります。

このようなサービスデザインのプロセスのことをダブルダイアモンドと呼んでいます。

この図は、アイデアが発散→収束→発散→収束…という風に繰り返されていくことを表しています。

具体的なプロセスとして

①どんな問題があるかを探す(発見)

②発見から問題を作る(定義)

③問題の解決策を出す(展開)

④展開したものを選び取る(実現)

という4ステップありますが、詳細については次回事例とともにご紹介します。








3.反復

これはアイデアを反復するという意味で、2で紹介したダブルダイアモンドのプロセスの考え方が重要になります。サービスデザインを行っていくうえでは、きれいに問題が発見され、きれいに解決策が見つかって…ということはほぼありません。

アイデアを探しながらほかの問題が見つかってひとつ前のプロセスに戻ったり、実際にプロトタイプをしてからも新しい課題が見つかったりと、プロセスを行ったり来たりする反復的なアプローチを行います。

この繰り返すということがとても重要なのですが、納期が限られているため、大手企業が実践するのは難しい点でもあり、実際にクライアントとワークを進めるときは、初めに繰り返す、反復する可能性があるということを踏まえた進め方、ワークデザインにすることが重要です。

サービスは常にブラッシュアップして改善していくものなので、ある意味、終わりのないプロセスとなっています。








4.インタラクション

サービスデザインを行う際は必ず可視化、ビジュアライズしながら考えていくということが重要になります。

サービスというのは絶対に一人だけでは成り立たないもので、ユーザーが複数人いる場合もあれば、従業員、提供者(プロバイダー)、クライアント企業といった無数のステークホルダーが存在します。

ステークホルダーの関係性や、どのようにお金が入るかというビジネスモデル、どんな価値の移動があるのか、その複雑なインタラクションを可視化していくことが重要になります。

その際使われるマップが、ジャーニーマップ、ステークホルダーマップ、ブループリントで、これらのツールの詳細についても、次回以降、詳細に解説いたします。








5.リアル

サービスデザインではリアルということを大事にしています。価値は必ずモノ、もしくはデジタル上のモノとして機能するはずです。

例をあげて説明すると、トイレのトイレットペーパーを三角に折るのもサービスデザインの一例といえます。ホテルのトイレットペーパーが三角形に折られているだけで、このトイレは利用者をおもてなししているということを表していて、またこのホテルを使いたくなる、といったように立派な価値を生んでいるからです。

このように、形として必ず目に見えるモノを通して価値が届けられるというのがサービスデザインの特徴です。

ここで勘違いしてはいけないのは、三角に折ることで引っ張りやすくするというのはあくまでモノの「機能」であり、おもてなしを感じるというのはサービスの機能で、このおもてなしという「意味」を付与することができるのがサービスデザインなのです。


また、この「リアル」という言葉には、現実にサービスのプロトタイプを作り、ユーザーにぶつけて本当に価値があるのかを逐一検証し、改善していくという意味も含まれています。

よくありがちな新規事業や新商品、新サービス開発の失敗例は、プロトタイプを作らず、クリエイターとエンジニアの妄想だけで作り上げてリリースし、ユーザーが求めているものと大きくズレていた、かけ離れていたと後から分かるということです。

そうならないためにも、コンセプトができた段階から、まずユーザーにぶつけて、妄想ではなく、現実空間で本当に価値があるか、事実を確かめながらサービスを磨いていくことが非常に重要です。


2.の共創でも触れましたが、最近ではデザインプロセスの中にユーザーを取り入れていくことが主流です。SEEDATAでも実際トライブにインタビューする際には、トライブから聞き出すだけではなく、一緒に議論や対話をしていく中で、トライブと一緒にアイデアを考えているように感じる瞬間があります。トライブは尖った人たちなので尖った示唆や、インスピレーションを与えてくれるからです。








6.ホリスティック

サービスはサービス全体として最適で、ビジネスのステークホルダー全員にとってWinwinであること、全員がハッピーになるようにしなければならないということを意味しています。

また、持続的なサービスを作っていく必要があるという意味も、この全体最適という言葉には含まれています。

とくに日本は「お客様は神様」という考え方があり、破格な値段でさまざまなモノが売られていたり、格安居酒屋などでは従業員の人件費を削って良いものを提供しようとしていたりしますが、その結果接客の質が低下してしまえば元も子もありません。従業員の働きやすさも重視しつつ、顧客への提供価値も高めていく、両方のバランスをとっていくことをサービスデザインでは重要視しています。

このときに使うツールが、先ほども少しご紹介したブループリントというツールです。

ブループリントは従業員とユーザーのインタラクションを可視化するためのツールです。フロントとバックがあり、フロントステージというのがユーザーにどのような体験をさせるのか、バックステージが従業員にとってどのような体験をさせるのかということを表しています。

これらを作ることで、ユーザーにとっても従業員にとっても価値のあるサービスが見えてきます。ここでも、あくまでユーザーセンターではなく、人間中心の考えが重要になってくるのです。

これは、SEEDATAが提唱しているキーパス・シナリオにもつながる話です。

すべてのステークホルダーがWinwinでないサービスは絶対に綻びが出てきます。

逆に、ステークホルダーへの提供価値の連鎖、相乗効果が生まれているサービスはどんどんスケールアップしていくもので、うまくいっているサービスはそこが上手にデザインされているといえるでしょう。


このサービスデザインの手法は新規事業や新商品、新サービスを開発する場合だけでなく、組織を作る場合にも活用できます。

どこの企業も、企画、システム、人事など部署はある程度決まっているものですが、その関係性(インタラクション)をあらためて問い直してみると、この部署とこの部署は細分化したほうがいい、または一緒にしたほうがいいなど、全体最適化を考えることが可能になります。

組織にとっては人間自体がある意味商品であり、働きやすくなればよりよいサービスが提供できるので、組織改革にもサービスデザインの手法は有効なのです。


以上の6つが、サービスデザイン思考になります。ありとあらゆるものを再設計、再創造していくサービスデザインにおいては、この6つのどれか1つでも欠けてしまうと成り立ちません。このマインドセットを持っておくことが、サービスデザインを行う上では重要になります。

次回はこのマインドセットを持っていることを前提とし、どういったプロセスでサービスデザイン行っていくのか、またそのプロセスにおいてどのようなツールが使えるのかを話します。


サービスデザインはそもそも、先進的なアプリを作っているようなベンチャー企業が取り入れていたものですが、最近は家電メーカー、消費財メーカーなど、モノを作っている人たちがモノだけでは立ちいかなくなり、サービスを作っていくことで顧客とタッチポイントを増やそうとしています。サービスの例として最近よく話題に出される例がサブスクリプションモデルで、SEEDATAでもこれまで商品だけを売っていた企業から「サービスデザインをやってみたい」という依頼を多くいただくようになりました。

製品を売るだけでは売り上げが頭打ちしている、新規事業、新市場を創造したいという企業のご担当者さまはinfo@seedata.jpまで、件名に『サービスデザインについて』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。


【この記事の監修者】

佐野拓海。SEEDATAアナリスト。

株式会社SEEDATA(博報堂DYグループ)設立とともにプランナー兼アナリストとして参画。

主に生活者リサーチ、商品開発、新規事業開発、サービスデザインなどの業務に従事。



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