「研究」と「事業」の狭間で、研究者はどのように仕事に取り組むべきか? — NEC 宮野博義

【写真左より】宮野博義氏、宮井弘之氏

SEEDATAでは、未来の兆しを捉え、その調査データをもとにして、クライアント企業の新規事業創出を支援している。ソリューションとして、”5年後を生きる”生活者の調査をまとめた「トライブレポート」や、未来の兆しとなる記事を収集し、独自に解釈をつけた「Futurewave」などを提供している。

新規事業を創出しようと考えた時に、支援するべきは企業の新規事業部門だけではない。事業の”ネタ”となる新しい技術を生み出す、企業の研究所もその対象だ。SEEDATAでは、「どのような技術を開発するべきか」といった上流工程から企業の新規事業創出をサポートする。

今回は、技術の事業化や部署の技術テーマの策定を支援している、NEC データサイエンス研究所 環境理解テクノロジーグループ 研究部長 宮野 博義氏にお話を伺った。

記事の前編では、宮野氏のライフストーリーと、現在リーダーをつとめる環境理解テクノロジーグループの今と未来について取り上げた。

後編では、宮野氏とSEEDATA CEO 宮井弘之の対談内容を掲載する。「研究者は技術だけではなく、そこの事業化にも向き合っていくべきなか」 両者の対話からは、企業における研究と事業の新しい関係性が見えてくるかもしれない。

研究を事業化する難しさと、そのやりがい

宮井:今日は「研究と事業」というテーマでお話を伺っていければと思います。まず、大企業におけるイノベーションで難しいと感じる部分はありますか?

宮野:やはり既存事業の存在ですね。新規事業の立ち上げも、新領域の研究においても同じだと思うのですが、どのような体制で取り組むのか、周りをどう巻き込んでいくかの調整が難しいです。顧客ニーズがあっても、会社がついてこないとその事業や研究は実現しにくいので。

宮井:一方で、大企業の優位性はどこにあるのでしょう?

宮野:顧客へのチャネルを既に持っていることが強みです。その強みを活かして、顧客の方が会社を説得してくれるような仕掛けをつくらないといけないと感じています。

宮井:ありがとうございます。宮野さんは研究者として様々な新技術の開発に取り組むと同時に、事業部の方とその研究の事業化についても進めていると思います。「研究の事業化」で、気をつけている点はありますか?

宮野:顧客の方の声を、そのまま技術に反映させないようにしています。顧客の抱える課題に対して、物体認識技術が最も優れたソリューションではない時があるからです。また、物体認識技術は多種多様なモノの認識を期待されるので、1つ1つのモノに対する認識を個別に最適化するのでは大きな事業に結び付けられないので、できるだけ汎用性の高い技術にしようとしています。

宮井:宮野さんがこれまで「研究の事業化が難しい」と感じたエピソードを教えてもらってもいいでしょうか?

宮野:工場でモノの工程管理をしている人から、「少量多品種のモノをつくっているので、どこに何があるのかを認識したい」という依頼をいただいたことがありました。顧客の方が物体認識技術に精通していて、すぐに導入が決まったのですが、実はカメラを入れるだけで現場の作業者が確認することができ、現場の問題は解決するものだったんです。

宮井:物体認識技術が必要なフェーズではなかったんですね。適切なタイミングで、適切に顧客が求めているものを提供するのは難しいですよね。ちなみに、今顧客の方からのニーズが高いソリューションはありますか?

宮野:顧客ニーズはあるのに技術が追いついていないのは、「万引きの監視」というソリューションのための技術です。モノがなくなったかどうかを認識することはできても、不審者の認識はできないんです。単純なモノの認識と、万引きという状況の認識ではかなり大きな溝があるんです。

宮井:具体的に何が難しいのでしょうか?

宮野:「不審な状態」をどう検知するかが難しいんです。棚からモノを取るだけでは、買うのか、万引きなのかはわかりません。「キョロキョロしているので、この人は万引きしそう」と検知できれば良いのですが(笑)。

「過度に期待されること」と研究者はどう向き合う?

宮井:先ほど失敗したエピソードをお話いただきましたが、顧客の方とコミュニケーションを取りながら研究や事業を進める中で、難しいと感じるポイントはありますか?

宮野:課題に対して、技術を強化してソリューションを提供するまでは、どうしてもタイムラグがあるんです。でも、「技術はすぐに何でも解決してくれる」と考える方もいて、その方とコミュニケーションを取るのは難しいですね。逆に言えば、技術の強化を待ってくれて、長期的な関係を構築できる顧客の方とは仕事を深めやすいです。

宮井:昨今のAI(人工知能)ブームで、物体認識技術に過度に期待してしまう方もいそうですよね。

宮野:そうですね。「AIは何でもできる」と思ってしまう方も一定数いらっしゃいます。そう考えている方には、まずは「今の技術では何が可能なのか」を共有し、認識してもらう。技術の今を理解した上で、どのようなソリューションが提供できそうかを考えていきます。

AI研究はどう深化していくのか

宮井:AI(人工知能)についてももう少し深く伺っていければと思います。AIブームの現状を教えていただいてもいいですか?

宮野:「深層学習」がバズワードになり、機械学習の民主化が進んできていますよね。様々なツールが提供され、一般の方でも使えるようになりました。一般の方が「深層学習」への理解を深める一方で、「自動運転ができるならば、AIは何でもできる」と考える方もいます。

自動運転技術は、大量のセンサー等を活用して作り込むことで、特定のエリアで実現しようとする技術です。屋外のあらゆる環境で使うのは難しいです。 実際の技術と、皆さんの期待と、現場の技術では乖離があります。

宮井:ありがとうございます。AIブームの今後について、どうお考えでしょうか?

宮野:深層学習は学習のためのデータがものすごく必要なので、認識範囲を増やしていこうとするといずれデータが足りなくなり、AIブームは終わっていくと思っています。世の中には取得が難しいデータが色々とあるんです。モノの異常や、犯罪を犯しそうな不審者、災害現場などがその最たる例です。

宮井:次の技術的なブレイクスルーはどこにあるのでしょう?

宮野:データがない状態でも学習ができるAIが生まれることでしょうか。理論的に少ないデータでも対応できる学習手法を研究開発したり、似た別のデータを活用することで少ないデータを補ったり、といったことです。例えば、日本語を認識できるエンジンをアルファベットの認識に転用するといったことができれば、新たに必要となるデータは少なくて済むので、深層学習の可能性は広がっていきます。

今は、多くの会社が、いかに膨大なデータを集めて識別に活かすかという発想で動いているので、それとは別にデータがない状態での学習という新しいチャレンジは、今後も続けていきたいですね。

「Labo Meeting」「TechCamp」を通じて、ビジネスモデル発想や、技術ロードマップの作成を支援

宮井:宮野さんが率いる環境理解テクノロジーグループの皆さんには、SEEDATAが提供する「Labo Meeting」と「TechCamp」にご参加いただきました。2016年2月に行った「Labo Meeting」では、研究の事業化やビジネスモデルについてワークショップ形式で考えましたよね。

宮野:研究者が事業やビジネスモデルのことを、どれくらい考えればいいのか、その時間を研究に使うべきという議論もありますが、SEEDATAとの取り組みを通じて、顧客視点を学べたのかと思っています。研究ばかりしている研究者が視野を広げるきっかけとして、「Labo Meeting」は活用させてもらいました。

宮井:ありがとうございます。2016年9月に行った「TechCamp」では環境理解グループの技術ビジョンの策定や、ロードマップの作成をご一緒させていただきました。

宮野:「TechCamp」ではワークショップに参加することで、研究所の各メンバーが「自分のやりたい研究」を盛り込んだ技術ロードマップを作成することができました。

また、最も学びになったのは、研究部と事業部の橋渡しを行うための「機能価値」の言語化です。自身の研究を「機能価値」として表現できるようになれば、事業部や上層部とのコミュニケーションが円滑になるので、今後NECでも活用していこうと思っています。

宮井:ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。

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