意味のイノベーション(デザインドリブンイノベーション)における”意味”の定義

サービスのアイデアを考える際にSEEDATAが注目している考え方が、別の記事でもご紹介したロベルト・ベルガンティの提唱する「意味のイノベーション」です。

これはサービスに新しい機能を付与するのではなく、サービスに新しい意味を付与してイノベーションを起こそうという考え方です。

しかし、ここでいう”意味”とは何なのかはベルガンティの論文にも明記はされておらず、”意味”という言葉の定義は曖昧になっています。

そこで今回は、SEEDATAなりの”意味”の定義をご紹介したいと思います。

辞書で”意味”と調べると”価値”と載っていますが、SEEDATAの考える意味のイノベーションにおいては、”意味”と”価値”を明確に区別しているため、今回はこの2つの比較を通して”意味”とは何かを解明していきます。

“意味”と”価値”の関係

まず、われわれは、”意味”と”価値”をこのように定義しました。

意味

製品がその製品を使用した生活者に提供する嬉しさや便益(ベネフィット)

価値

生活者がその製品を使用することで享受する嬉しさや便益(ベネフィット)

“意味”は製品の視点、”価値”は生活者の視点からみた嬉しさや便益を指すものであり、どちらの視点で語っているかが重要ということになります。

また意味と価値は「製品に意味がある場合は、生活者は価値を感じる」という、因果の関係になっているのです。つまり逆に言うと、「製品に意味がない場合は、生活者は価値を感じない」ということになります。

以上のことを踏まえると、

製品に”意味”があるが、生活者への”価値”がない

製品に”意味”があり、生活者への”価値”がある

製品に”意味”がなく、生活者への”価値”がない

製品に”意味”がないが、生活者への”価値”がある

という4パターンが存在することが分かります。

ではそれぞれをもう少し詳しく、紐解いていきましょう。

①”意味”はあるが”価値”がない

事業者(企画者、デザイナー、エンジニア等)が”意味”をこめた製品には、その”意味”に”価値”があるもの、”価値”がないものが存在します。製品に”意味”を込めても、生活者が価値を感じなければ、ニーズがない状態です。

これは本当にニーズがない場合もあれば、”意味”の伝え方が下手な場合もあります。

また”意味”はあるが機能に落ちていないという場合もあるため、改善すればその”意味”が”価値”になることもあるパターンです。

②”意味”があり”価値”がある

“意味”があって”価値”がある、つまり生活者が価値を感じてくれているパターンであるため、生活者は製品を購入して、使用してくれます。基本的に生活者が購入したり使用したりしている製品は、何かしらの”意味”があるものになっています。

③”意味”がなく”価値”がない

これは当然購入も使用もされない商品となります。意味をリフレーミングして生活者の価値に繋がるようなものに変える、新たな意味を付与するといった対策が必要です。

④”意味”がないが”価値”がある

実は超重要なのはこの④で、”意味”を込めていないのに”価値”がある場合というものが存在します。

先ほど”意味”のない”価値”は存在しないという説明をしましたが、もともとビジネスサイドが意図していなかった”意味”が存在する場合があるということです。

つまり、生活者が”意味”を独自に見出している場合があり、この意味を発見している人のことをトライブとSEEDATAでは呼んでいます。

これまでもSEEDATAのブログ内では、「トライブは独自の意味を勝手に見出している存在」と表現してきました。

つまり、トライブのみが意味を見出している状態は、「企画者が”意図”していなかった”意味”があり、”価値”がある状態」ということができるでしょう。

実際にトライブ調査はもともと意図していなかった意味を我々が解釈して、その意味をもとに、製品のコンセプトや機能、マーケティングに応用していくという流れになります。

(時にSEEDATAのアナリストのことを、インタープリター(意味の解釈者)と呼ぶこともあります)

では、実際にSEEDATAのトライブ・オンラインフリマを例に考えてみましょう。

メルカリは簡単に売れるというユーザーエクスペリエンスを大事にしていて、もともとは「誰でも手軽に出品できる」という意味が込められていました。

ここにトライブは新たな意味を見出し、たとえば、これまで1万円で購入していたものを「これは5000円でメルカリで売れるから」という風に、モノを購入するときに売ることも想定して購入するようになりました。つまり、トライブはメルカリに対して、「高級な新製品を購入することを支援している」という新しい意味を独自に見出したのです。これにより、これまで高くて購入できなかった製品(例えばカメラや高い洋服など)でも、メルカリの登場によって売ることを想定して(気分的には買値と売値の差額分の金額で)買うことができるようになりました。

このように、必ずしも「企画者意図した”意味”のあるものだけが”価値”がある」というわけではないということがお分かりいただけたと思います。

では、我々作り手や伝え手はどこを目指していくのが正解なのでしょうか。

意味のイノベーション的には、ユーザーの声を聞くだけではなく、作り手の想いや、伝え手の主張やビジョンなど、製品に”意味”を込めていくということが重要だと述べられています。

しかし”意味”の重要性は理解しても、どんな”意味”を込めればいいのかは分からないという方がほとんどかと思います。

そこで、SEEDATAのトライブのような、独自に意味を見出している人からの”意味”のインプット、インスピレーションを得ることが重要になってくるのです。

たとえば腕時計にこだわるトライブがいて、そこに新たな意味を見出していることが発見、インプットできた場合は、それを車にも応用して同じような意味を込めていくなど、他分野の意味を知り、転用するという方法が必要になります。逆にどのジャンルにもない、まったく新しい意味というものは生活者も抵抗感があるため、ほとんど存在しません。まずは他ジャンルでの新しい意味をインプットすることから始めるのが意味のイノベーションでは大切になります。

トライブのような人たちは世の中に多く存在するため、自分の分野とは異なる分野では新しい意味がどんどん芽生え始めています。必ずどこかの分野で意味の萌芽はあるはずなので、意味の種を他分野から探し、自社事業に転用していくことが、イノベーティブな新規事業や新商品のアイデアを考える近道になるでしょう。例えば、先ほどのメルカリに見出された新しい意味も「自社で買い取ることを前提として商品を売ることで安く見せる」というアパレルブランドの新コンセプトとして活用されています。

最後に、昨今の”意味”のイノベーション事例をご紹介いたします。もともとブランドバッグに求められていた意味は「ニセモノではなく本物であること」でしたが、それが最近ビールの分野でも用いられています。第3のビールはビールより安く、ビールのような味わいがありましたが、もっとビールと同じような本物感という意味が求められていることに目をつけ、本麒麟という第3のビールの歴史が変わるほどのうまさを訴求した商品が登場し、大ヒットしました。本麒麟には本物を届けたいという意味が込められており、これは作り手が込めた意味を消費者がそのまま受け取った好例です。

一方、企画者の意図していなかった”意味”から”価値”が生まれた事例もあります。

暗闇フィットネスで注目を集めたFEELCYCLEは、もともとは、暗闇の中で音楽と光の演出があり、テンションをあげて運動できるという、エンタメ要素の意味が込められており、ターゲットは主に男性でした。

ところがここに「暗闇の中なので周囲を気にしなくていい」という想定していなかった意味が生まれたのです。これまでのフィットネスでは、汗をかいて服に汗のシミができているところや、トレーニングを頑張っている顔、メイクが落ちた顔、露出の多い服など、女性にとっては見られたくないシーンが多くありましたが、女性たちが新しい意味を見出し、結果的に女性にヒットしたのです。

このような別のジャンルに生まれた意味と自社の事業を掛け算して考えることで、例えば暗闇フィットネスの場合だと「自社のサービスにももっと他人に顔を見せないようなプライバシー空間が必要なのではないか」という検討ができたり、この新しい意味から「しきりを作る」という機能開発にもつなげることが可能になります。

これまでは機能を作り、後から意味が見出されることが多かったのですが、今後は意味を起点として、意味開発をしたのちに、意味に基づいた機能開発を行なっていくことが重要になっていくでしょう。

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佐野拓海
Written by
佐野拓海(Sano Takumi)
アナリスト