オープンイノベーション促進税制について①

今回は2020年4月よりスタートする、スタートアップへの1億円以上の出資で、最大25%の減税措置が受けられる、オープンイノベーション促進税制について解説していきます。

スタートアップへの1億円以上の出資で大幅な減税

まずこちらの記事を御覧ください。

スタートアップ出資、1億円以上で減税
政府・与党は大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上を出資したら、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて税負担を軽くする優遇措置を設ける。自社にない革新的な技術やビジネスモデルを持つスター

スタートアップ出資、1億円以上で減税 大企業の投資促す

政府・与党は大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上を出資したら、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて税負担を軽くする優遇措置を設ける。自社にない革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップと協業し、新たな利益の源泉となるイノベーションを起こしやすくする。大企業が自社にため込んだお金を活用するよう促す狙いもある。

(引用元:2019/12/7付日本経済新聞 朝刊)

この記事にありますように、今回のオープンイノベーション促進税制の目的は、大企業の投資を促すことにあります。

これを機に、大企業のベンチャーへの投資が一気に加速する可能性があるため、とくに大企業で新規事業を担当している方々はこのオープンイノベーション促進税制を理解しておく必要があります。

では、具体的な条件などを見ていきましょう。

オープンイノベーション促進税制の条件は?

■投資対象

非上場の設立10年未満の企業

※ただし大企業のグループ会社への出資は対象外

■出資額

1億円以上出資

※海外のスタートアップの場合は5億円以上

■控除額

所得の25%

■出資者対象

国内の資本金1億円超の事業会社とコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)

※投資会社による出資は対象外

 

また、中小企業(資本金1億円以下)が出資をおこなう場合、1千万円以上を対象とします。詳しくは以下の記事をご参照ください。

スタートアップ出資の減税(優遇措置)について

(ただし、資本金が5億円以上の大法人の100%子会社である場合などは除きます。また、租税特別措置法に該当する場合は、上記の1億円以下の要件に加えて、資本または出資を有しない法人のうち、従業員数が1,000人以下の法人あるいは個人事業主、同一の大規模法人(資本金1億円超など)から2分の1以上を出資されている法人、2社以上の大規模法人からあわせて3分の2以上を出資されている法人は除く、なども要件として加わります。)

(引用元:https://bizval.jp/media/news/084

スタートアップ出資の減税(優遇措置)について)

■目的

大企業とスタートアップとの協業の促進とイノベーションから新たな財源を生むことと、大企業内にあるお金を動かすこと

■期間

2020年4月~2022年3月末までの出資

 

これらの要件を満たした、大企業、中小企業(資本金1億円以下)らは、スタートアップ企業の出資に対し所得の25%相当が控除される、というのがオープンイノベーション税制の概要です。

 

■オープンイノベーション促進税制の効果と付帯条件

税制優遇を受けるためにあげられているのが以下の付帯条件です。

・大企業が自社の人材や取引網とスタートアップが持つ技術やノウハウを組み合わせ、新分野に進出するなど事業構造を転換できる見通しがついていること

・出資した大企業が出資から5年以内に株を手放したら、新税制の適用によって受けた税優遇分を国に返す措置も盛り込む

■注意点

次に掲げる場合は、特別勘定を取り崩し、益金算入する必要がある。ただし、特定期間(5年間)保有した株式についてはこの限りでない。

① 特定株式につき経済産業大臣の証明が取り消された場合

② 特定株式の全部又は一部を有しなくなった場合

③ 特定株式につき配当を受けた場合

④ 特定株式の帳簿価額を減額した場合

⑤ 特定株式を組合財産とする投資事業有限責任組合等の出資額割合の変更があった場合

⑥ 特定株式に係る特別新事業開拓事業者が解散した場合

⑦ 対象法人が解散した場合

⑧ 特別勘定の金額を任意に取り崩した場合

 

【SEEDATAコメント】

まず、この「1億円」という額ですが、現実には資本金が一億円あるからといって、大きな企業か、体力がある企業かは分かりかねますが、日本には外形標準という資本金の規模でその企業の体力や大きさを測る習慣があります。そのため、今回も外形的基準を使ったのではないでしょうか。資本金が1億以上になると税制もかなり変わってくるということも理由にあげられます。

個人的には、今回の「1億円以上の出資で大幅減税」という施策は、これまで出てきた税制関係の施策の中でもかなり素晴らしいと思います。

ただし、減税で1億円を出資するハードルが下がってしまう可能性があり、そのときに気をつけなければいけないのがスタートアップバブルです。可能性が低かったり実態がなかったりするスタートアップに出資してしまうと、せっかくの制度がダメになってしまいます。

そこで必要になるのが、この記事を読んでいる(資本金1億円以上の企業側の方々の)目利き力です。これまでの弊社のブログ記事を読んだり、自身で事業創造にチャレンジするなどして、しっかりと経験をつんでおきましょう。

売り上げがいくらで、こんな技術があるという書面上の数字だけで判断すると絶対にうまくいかないため、きちんと事業の経験をもって目利きになる準備を今すぐ始めてください。

 

また、注意点として、

・出資した大企業が出資から5年以内に株を手放したら、新税制の適用によって受けた税優遇分を国に返す措置も盛り込む

という項目がありますが、これには「そこまで長期的ではないが短期的なリターン目的ではなく、技術的であったりポテンシャルのあるところに出資してほしい」という意図が込められていると感じます。

 

オープンイノベーション促進税制に対する世の中の反応

続いて、今回のオープンイノベーション促進税制に対して世の中ではどのような意見があるのか見ていきましょう。

私が今回のこの政策が素晴らしい政策だと思ったのは、今回の政策の中に「研究開発からスタートアップ型のイノベーションにシフトしていく」という、国の大きなメッセージが込められているように思えたからです。

そしてそれを実現するための方法として、補助金のような形で等しくお金をばらまくのではなく、減税という形で、実際にスタートアップへの投資をした人だけが優遇されるような政策になっている点が、個人的にはとても良いと思いました。

私個人としては、経済成長のためには政府は何もするべきでないと考えていますが、経済成長のために政府が唯一できることがあるとすれば、それは減税だと考えてもいます。

そして今回、更に興味深いのが、今回の税制改革の元が、新経連の提案によるものだという点です。

新経連からの提案としては「出資額の50%を損金計上可能」とする提案がなされていました。

実際には50%ではなく25%になるわけですが、ここに書かれている新経連による提案が、ほぼそのまま実現されていると言っても過言ではありません。

(引用元:「スタートアップ投資減税」が素晴らしいと思った件

https://news.yahoo.co.jp/byline/shibatanaoki/20191224-00155947/)

今回のスタートアップ投資減税を実現するための財源は、「研究開発減税の財源の一部を減らすことで捻出する」という意味です。

これを見る限り、今回のスタートアップ投資減税は経済産業省が主導したものだと思われますが、私はこの財源移管に、政府としての明確なイノベーション政策の転換を感じました。

これまでの日本は、大企業による研究開発によって技術的な優位性を保ってきたというのが大雑把な全体感だと思いますが、今後は「スタートアップ主導のイノベーション」にギアチェンジをしていこうという、政府の意図なのではないかと思います。

日本のスタートアップ投資環境を見ると、シリコンバレーなどに比べると、大企業はCVCによる投資が割合的に圧倒的に多いのが特徴です。

今回のスタートアップ投資減税によって、この流れはおそらくかなり加速すると言えるでしょう。スタートアップへの資金の流入を増やすという意味においては、日本の強みであるCVCからの投資をさらに加速させるという、強みにフォーカスした政策だとも言えます。

従って、今後起こりうることとしては、日本の大企業CVCからの投資がさらに加速される、と考えるのが自然でしょう。

一方で、短期的には大企業やCVC からの投資が加速しますが、大企業はこれまで自社における研究開発にフォーカスしてきた会社が多いため、必ずしもスタートアップへの投資に熟練しているとは限りません。

従って短期的に見れば、大企業CVC からの投資が失敗に終わるケースも多々出てくるかと思われます。

我々がすべきことは、そういった短期的な失敗を批判するのではなく、もう少し俯瞰的、中長期的に見て、どのように強いエコシステムを作っていけるのか、という点を議論する事だと個人的には思っています。

スタートアップ投資は、一つの巨大なEXITが全体のゲームを大きく変えてしまうほど影響があるので、小さな失敗がたくさんあっても、確率論で大きな大ヒットが出ることで、トータルとしては大きなプラスになっていくというケースが多々あります。

この記事を読んでくださった読者の方、そしてメディアの方は、短期的な失敗を批判するのではなく、是非俯瞰的に中長期的に、建設的な議論を一緒に続けていけるような役割を担って頂ければ、個人的にも嬉しいなと思っています。

(引用元:「スタートアップ投資減税」が素晴らしいと思った件

https://news.yahoo.co.jp/byline/shibatanaoki/20191224-00155947/)

この記事はこちらの動画で解説を聞くこともできます。

「スタートアップ出資で減税」に込められた政府からのメッセージとは?(2019年12月13日)

「スタートアップ出資で減税」に込められた政府からのメッセージとは?(2019年12月13日)|三浦茜 / プロダクトハンター|note
政府は大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上を出資したら、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて税負担を軽くする優遇措置を設けることを発表しました。 革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップとの協業の促進、新たな利益の源泉となるイノベーションを起こしやすくする、また大企業が自社に...

【SEEDATAコメント】

過去に地方創生にもっとも寄与したのは、さまざまな問題があったことはさておき、ふるさと納税だと考えています。必ず払わなければいけないものの中で、その向き先をどこにするかという考え方は、現在の日本では一番有効な施策になりうるというのが私の感想です。

ただし、「研究開発からスタートアップ型のイノベーションにシフトする」というのは考え方は私とは少し異なり、厳密には「意味のある研究開発を応援する」ということだと理解しています。

スタートアップの定義は「急成長を目指す」ということなので、研究開発をすることが目的ではなく、研究開発や技術をきちんと組織の急成長につなげようとしているスタートアップに出資をシフトさせるという考え方であり、決して研究開発そのものを否定しているわけではありません。

ただ、「研究開発のための研究」のようなものを減らすことにはとても有効といえるでしょう。

 

繰り返しになりますが、「スタートアップ主導のイノベーション」と政府は言っていますが、まだまったく環境が整っていないことは事実で、もう1点付け加える必要があるのが、まだまだ日本の大企業には優秀な人材が眠っているということです。

たとえば、スタートアップに出資をするだけでなく、そこに人を送り込むことまでをサポートするなど、資金的な交流、技術的な交流だけでなく、人的な交流をすることがオープンイノベーションにはもっとも重要だということを忘れてはいけません。

オープンイノベーション促進税制などを含む研究開発税制とは?

そもそも今回のオープンイノベーション促進税制は、経済産業省産業技術環境局が推進する「研究開発税制」のひとつです。

研究開発税制の概要と政策目的・意義 

  • 企業が研究開発を行っている場合、法人税額(国税)から、試験研究費の額に税額控除割合 (6~14%)を乗じた金額を控除できる制度。ただし、法人税額に対する控除上限がある。 (総額型と呼ばれる本体部分は、法人税額の25%)
  • 民間企業の研究開発投資を維持・拡大することにより、イノベーション創出に繋がる中長期・革新 的な研究開発等を促し、我が国の成長力・国際競争力を強化することを目的としている。 

①研究開発に関するリスクテイクの下支え

  • 研究開発活動は、イノベーション創出のために重要だが、企業にとっては「今すぐには

稼げない投資」。

  • 企業の研究開発リスクを国が一部負担することで、中長期的な産業競争力を強化。

②国際的なイコールフィッティング

諸外国においても、直接(補助金等)・間接(税制優遇)の支援策を通じて、民

間の研究開発投資を強力に促進。

③分野や主体に関わらない幅広い支援

  • イノベーションがどのような研究開発から生まれるかを予測するのは困難。
  • 分野、業種、規模、時期等に限られない幅広い・継続的な研究開発支援が不可欠。

④研究開発投資のスピルオーバー効果

  • 一般に研究開発は、実施主体のみならず、外部に対しても正の波及効果をもたらす。
  • 正の外部性があるものは過少投資となりやすいため、政策的支援が必要。

(引用元:研究開発税制の概要_経済産業省産業技術環境局

https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/31kennkyukaihatutaxgaiyou10.pdf)

【SEEDATAコメント】

上記の中で私がとくに重要だと考えるのが、③分野や主体に関わらない幅広い支援です。

世の中は確率的な思考にシフトしていて、「多産多死の中で何かが生まれて生き残る」という淘汰の考え方が主流になっています。

国が今おこなっている昔ながらの解析的、分析的手法はもう古く、プラットフォーム的発想とはいえません。

多産多死が生まれる場を作るのがプラットフォームであり、何がいいかは分からないが何かに投資する場を作り、それが活発に行われて競争の結果よいものが生き残るだろうと考えるのが確率的な考え方なのです。

「これからはこの分野が来る」と解析や分類しても、結果は異なる場合が多く、この多産多死を実現するという意味が③にはあるため、非常に支持できます。

オープンイノベーション促進税制を考えた人自身、ミクロな部分まで自分で体験し、経験値やリアリティを持って考え、マクロ的にイノベーションを起こすにはどうすればいいのかを理解しているように感じられました。

競争を生み出し多産多死ができる、大企業にとって守りに入ることは損で攻めたほうが得という世界(ベンチャーにとってもベンチャーをやったほうが得という世界)を作りあげていて、まさにすべての政策のお手本ともいえるのではないでしょうか。

宮井 弘之
Written by
宮井 弘之(Miyai Hiroyuki)
SEEDATA 代表