意味のイノベーションとビジョンを作りだす方法~自分が人々に愛してほしいものはなにか~③

前回、前々回と、SEEDATAアナリストの佐野さんにロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』について、従来のデザイン思考を取り入れた問題解決型のイノベーションではなく、意味のイノベーションを行うべきだとお話していただきました。

ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、"意味のイノベーション"とは?①
今回から4回連続で、SEEDATAアナリストの佐野さんにご登場いただき、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』で語られている、従来の問題解決型のイノベーションではない、"意味のイノベーション"についてお話していただきます。 ...
ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、"意味のイノベーション"とは?②
-前回は、SEEDATAアナリストの佐野さんに、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』をご紹介いただき、従来のデザイン思考を取り入れた問題解決型のイノベーションだけではなく、意味のイノベーションも行うべきであるというお話をおうかが...

ユーザー起点ではなく、デザイナー自身が本当に必要なものを内から発していくことで、新しい意味を生み、愛される商品になる、そのためにはデザイナーは、現状に満足せず、常に批判精神を持って生活することでビジョンがはぐくまれていくという内容でしたが、今回は意味のイノベーションを見つけるための具体的な方法についてお聞きしていきたいと思います。

意味のイノべーションの方法論

佐野「意味のイノベーションを行う際、ビジョンが独りよがりになってしまうリスクがあります。自分は魅力的なビジョンだと思っていても、他の人はそこまで魅力的ではないという。それを防ぐために、ベルガンティは意味のイノベーションの方法論を提案してくれています。まず、自らが考える新しい意味、人々に愛してほしいビジョンを他人に話します。そのときに話す相手が親友(スパーリングパートナー)です。親友というのはもちろんメタファーですが、信頼できるパートナーですね。スティーブジョブスにもスティーブ・ウォズニアックというパートナーがいたんですが、二人は心を開いていたからこそ、お互いを批判し合えたんですね。このときの批判というのは、アイデアを潰すものではなくて、建設的な批判です」

-建設的な批判というのは簡単そうで難しいですよね。相手との関係性も影響してきそうです。

佐野「日本人がやりがちなのは、アイデアを潰しにかかるという批判ですが、もっとこうすればいいんじゃないかという、愛のある批判をします。これは二人でやることに意味があって、人数が増えすぎてしまうとアイデアが潰されさてしまいがちです。

そしてこのペアが幾つも集まったものを、ラディカルサークルと呼び、ワークショップ形式でお互いのペアの意見を言い合い、衝突させて、ときに融合させるという点が重要です。

たとえばコップの新しい意味を考えるとして、敵(コップ)があり、敵を倒すためには「こんな意味がいいんじゃないか」と、それぞれのペアで考えるんです。それをもう一段階、「これは人々が愛する意味だろう」というものに変えるために、ペア同士の意見をぶつける、融合させることが大切なんですよね」

-新しい意味ということはまだ誰もその価値がわからないということですよね。その魅力をどのようにしてペアやラディカルサークルの相手にわかってもらうのでしょうか。

佐野「ここで出てくる意味って正直魅力がわかりにくいんですよね。なぜかというと、新しい意味なので、もはやそれはコップではないかもしれないんです。コップの大きさが大きくて、たくさん飲めるものとかならわかりやすいんですが、それは改善であって「水を飲むもの」というコップの意味自体は変わっていないんです。でも意味のイノベーションでは、コップの意味自体を変えます。その結果、それはもはや従来のコップではないため、相手に伝わりにくくなってしまいます。そのときに用いるものがメタファー(比喩)です。

たとえば、メタファーでよく言われるものがスウォッチ。スウォッチの特徴としてはものすごく色んな柄がありますよね。時計のこれまでの意味って、高価で、長く使い続けるものだったんです。でもスウォッチはすべて逆ですよね。「時計というものは頑張ってお金を貯めて買うものなんだ」という固定観念が人々にはあるので、最初にスウォッチのプロトタイプを見せても「売れないよ」とみんなに言われてしまうはずです。

でも、「じゃあ、毎日同じネクタイをつけますか?」と聞くと、色んな色や柄を楽しんだり、毎日の気分で替えたりしますよね。そこで「気分で変えられる、ネクタイのような時計を作りたいんだ」というとわかりやすいんですよね。みんな納得すると思います。それがメタファーの力です。価値がそれと等しくなるものをメタファーに使うことも重要ですね」

-単に「□□な△△」といきなり新しい意味を聞いても困惑しますが、「〇〇のように□□な△△」と考えると伝わりやすいですね。

佐野「ここで注意すべきはネクタイとの違いを考えることで、ネクタイをさらに上回る、メタファーでコンセプトを伝えつつ、メタファーとの違いにとくに注目していくとより新しい意味の製品になる可能性があります。

これもユーザーに聞いていても絶対に出てこないんです。デザイナー自身が「こういうものが必要だ」というビジョンを内から外に出してできたものですね。こういうものをたくさん作っていこうと。

このようにラディカルサークルでお互いメタファーで伝え合ってよりよいものにしていくというフェーズのあとに、解釈者という人たちが出てきます。インタープリター(解釈者、有識者)と呼ばれていて、このビジョンを最後に疑う有識者ですね。

ここで重要なのはインタープリターは各種業界の専門家たちで、「これって何が新しいのか」という点を客観的に見てもらうことです。デザイナーは他分野のことって知らない人が多いんですよね。そうすると「これってこの業界ではこういう意味だよね」と、スウォッチの例の場合だとネクタイ業界の専門家などに見てもらって、ネクタイだとこれまでどんな意味の変化があったのかなどを探っていきます。

もちろん、ネクタイに限らず、ありとあらゆる幅広い分野の人たちにビジョンを評価してもらうという作業がやっとここで入ってきます。

専門家からの評価が入ったら、ビジョンをテストして、そこからやっと改善が始まるんです。これって本当に愛してもらえるんだろうか、どうすればさらに意味のあるものになるだろうかと。ユーザーに聞いて改善案を求めるというデザイン思考のやり方は、この段階で必要なんですよね。デザイン思考は製品を形にしたあとに必要で、今までになかった全く新しいもの、意味深いものを生み出すときに使おうとしているのは間違っているとベルガンティは主張しています」

-デザイン思考を否定しているのではなく、使用するシーンの問題ということですね。

佐野「愛という言葉が何度も出てきましたが、サイエンスは再現性も必要なので、彼自身が2012年~2015年に実践プロジェクトに応用してこの方法論を導きだしたんです。愛は再現できないとはいいつつも、世の中に愛が溢れる量と質を増やしていきたいので、今回の方法論を作ったとベルガンティは述べています」

(第4回に続きます)

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佐野拓海
Written by
佐野拓海(Sano Takumi)
アナリスト