意味のイノベーションが起きる前兆とエスノグラフィーの役割④

-これまで3回に渡り、SEEDATAアナリストの佐野さんにロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』について、従来のデザイン思考を取り入れた問題解決型のイノベーションではなく、意味のイノベーションを行うべきだとお話していただきました。

前回はベルガンティが提唱する意味のイノベーション=新しい意味を作り出すための方法論についてご紹介しましたが、最終回の今回は、意味のイノベーションが起きる前兆と、SEEDATAが行っているエスノグラフィーの役割についてお話していただきます。

ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、"意味のイノベーション"とは?①
今回から4回連続で、SEEDATAアナリストの佐野さんにご登場いただき、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』で語られている、従来の問題解決型のイノベーションではない、"意味のイノベーション"についてお話していただきます。 ...
ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、"意味のイノベーション"とは?②
-前回は、SEEDATAアナリストの佐野さんに、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』をご紹介いただき、従来のデザイン思考を取り入れた問題解決型のイノベーションだけではなく、意味のイノベーションも行うべきであるというお話をおうかが...
意味のイノベーションとビジョンを作りだす方法~自分が人々に愛してほしいものはなにか~③
-前回、前々回と、SEEDATAアナリストの佐野さんにロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』について、従来のデザイン思考を取り入れた問題解決型のイノベーションではなく、意味のイノベーションを行うべきだとお話していただきました。 ...

意味のイノベーションが起きる前兆がある

佐野「人々にとって新しい意味が求められている前兆というのがあって、それは似たような製品がたくさん出てきているときです。とくに携帯は今新しい意味が求められていると感じますね。かつてガラケーのときもどこのメーカーも同じような製品を出していて、正直違いってあんまりなかったですよ。そこで意味のイノベーションが起きて、スマホが現れた。今はボタンがなく液晶をタッチするのが普通になり、また似たようなスマホばかりになっているので、そろそろまた新しい意味が求められているんじゃないかと思います」

-携帯の変化は実にわかりやすいですね。20年くらい前の意味は単に「電話をするもの」だったと思いますが、今やショッピング、ネット、SNSなど、スマートフォンは多くの意味を持っていて、これがなければ生活できないほどです。

佐野同質化と言うのですが、すべての競合相手が同じ機能を追求しているときは、人々は飽きてきて、そろそろ新しいものを求めるという現象が起きるんです。また、各業界で新しい技術が現れつつありますが、今までの機能をアップさせる改善にのみ技術が扱われ、他の商品やサービスに技術が横展開していない時なので、まさに今ですよね。

あとは、人々の価値観が先をいっているのに業界が追い付いてないときも新しい意味が生まれる前兆といえます、SEEDATAのトライブでリサーチしているのはまさにこの先進的な価値観なんですよね。今後、人々の価値観はこうなっていくだろうという価値観の先取りをしているんです」

-スマホは何台か買い替えましたが、細かいスペックはさておき、どれも横並び感はありますね。「この機能が欲しかった!」みたいなのはなくて、むしろいらない機能がプリインストールされているのはユーザー目線ではないなあと思います。

佐野「製品の評価基準がぜんぜん更新されていなかったり、ブレブレだったりして「それって意味ある?愛されるものなの?」という状態ですよね。

だからこそ、愛される商品やサービスを見分けるときに問いかけるべき質問があって「火事になったときにあなたは何をひとつもって行きますか?」というもの。最近だとスマホという人も増えていて、じゃあ次の質問は「スマホのメイン画面に残すアプリは?」といったように、その人がとくに大切にしているものを問うていくんです。今であればFacebookのアプリだけは消せないという人が多くて、人とのつながりがそれだけ重要な世の中になってきたという意味の現れなんですよね。

これはユーザーのプロトタイプにも使える質問です。極限のエクストリームな場合を考えることで、その人にとって大切なもの、愛するものがわかってくるんです」

意味のイノベーションにおけるエスノグラフィーの役割

佐野「デザイナーはビジョンを持たなければいけないと言いましたが、ビジョンって1人からいくつも違うものが簡単に生み出せるわけではないので、毎回同じようなビジョンになってしまいがちなんです。だから外部の刺激を入れることが大事で、それがエスノグラフィーの役割でもありますね。

エスノグラフィー、行動観察をする際によく言われるのが「フレッシュな目で観察しましょう」ということです。改めてこれは何故かというと、人間は自分の仮説をもってのぞむと、その仮説を根拠としてしまい、仮説を証明する確証ばかりを探してしまうんですね。仮説とはデザイナーの「こうなったらいい」というビジョン、それをもってしまうとそっちに偏って、デザイナーが考えられるビジョン以上のものが出てこないんです」

-これまでのお話で、従来のデザイン思考では、ユーザーの考えられる以上のものが出ないから、デザイナーがビジョンを持つべきいうお話でしたが、ビジョンがあるとバイアスがかかってしまう?

佐野「何が大切かというと、エスノグラフィーをする際にも批判的な精神が必要で、根拠や確証を求めることではなく、新しい刺激を得ることを目的とすることです。なにか新しい刺激はないか、確証ではなく、自分が思っていたことへの反証はないかを探っていくことが重要です。

また、エスノグラファーは、自分の中の仮説にはないことを探さなければいけないので、世の中に既にあるビジョンを知ってる人でなければいけません。世の中では既にこういうビジョンがあり、最近はこういう新しいビジョンも出てきていると知っている人でなければ、今までにはなかったビジョンの源となる重要な行動を見逃してしまうんです。

SEEDATAのアナリストたちは常に人々の価値観の変化の調査を行っているので、このトライブの行動のどこが新しいか、面白いのか、ビジョンを育む上で刺激、インスピレーションとなるのかを発見できる、これは普通の調査会社ではできないのではないでしょうか。日頃から仮説をもって、なおかつ自分に批判的になる、「こう思っていたけれど違うのではないか」と見つけられるのがよいエスノグラファーだと思います」

-ビジョンを持ちつつも、そのビジョンにすら批判的な気持ちを持つということですね。

佐野「哲学者のカエサルは「人は見たいものしか見ない」と言っています。結局見たいと思ってみてしまうとそれしか見ることができないんですよね。人間はみんなサーチライトを持っていて、それをかざして世の中を観察するのですが、重要な行動はサーチライトの周りの暗闇の部分にあります。そこを照らすことができるのがデザイナーやエスノグラフィーの役割だと思います。

なおかつ、みんなはいつもどこを照らしているかを俯瞰して、みんなはいつもここを照らしているから、あえて他を見てみようとできるのが優秀なエスノグラファーなんです。

ひとつの分野に詳しすぎる専門家は、サーチライトのある部分を濃く見ることは可能です。しかし、その分野に偏り過ぎてしまい、固定観念や偏見ができてしまった結果、サーチライトを動かすこと、いつも照らしているサーチライト以外の部分を見ることが難しくなってしまいます。その分野以外の外部の無知な人が観察するというのが必要になります。外部の力が必要であるというのは、コンサルティングする意味でもあります。

新しいビジョンを描くといっても、社内の人はいつも同じところを見ていて、自分たちのビジョンに無意識のうちにとらわれてしまうので、新しいビジョンを生み出しにくいんです。だから外部の人が手助けしてあげる必要があるんですが、ビジョンは押し付けるものではなく、一緒に作っていくものだから、並走することが大切なんですよね。

SEEDATAが実際に企業とエスノグラフィーを行った事例でも、SEEDATAのアナリストと企業の方とで一緒にビジョンを作っているんです。外部の視点が入ることのメリットは、サーチライトを動かしてあげることができること、それがSEEDATAの役割だと思いますね。

従来のビジョンにとらわれて視野が狭くなっているところをゆるめ、今後も新たな、魅力的な、人々から共感を呼ぶようなビジョンをはぐくむお手伝いをさせていただければなと思っています。」

-SEEDATAエスノグラフィーを活用することで意味のイノベーションを行うことができると。

佐野「さらに重要な要素は、新しいもの、今までにないビジョンをかかげるのは、いつも若者だということです。事実、SEEDATAのアナリストは社長以外平成生まれです。

年齢が上がるにつれて、ある特定の分野に精通した専門家になることはできますが、どうしてもサーチライトを動かせなくなり、クリエイティブに新しいものを考えることはできなくなってくるんです。

これは実際に脳科学的なエビデンスがあり、相対性理論とか量子力学などの画期的な新しいものの見方って、すべてその人たちが若い時に生み出したもので、その分野での知識を持ち過ぎていない人が生み出しているんです。知識を持ち過ぎていないSEEDATAのアナリストだからこそ、エスノグラフィーで新しいビジョンを発見することができるんですよね。

そして、ビジョンはその人にとってどうしてもこれを変えたい、実現したいという原体験が強ければ強いほど生まれやすいものです。そういった意味で、エスノグラフィーはアナリスト自身も擬似体験ができるので、「こういう経験をしたから、このビジョンが必要」というように、説得力を持って他者にビジョンを伝えることができるという意味でもエスノグラフィーは重要なんです」

ネガティブな事例に着目する問題解決より、ポジティブな逸脱者を見つけること

佐野「最後に、問題解決というと、「なぜよくないのか」「なぜできていないのか」とネガティブな側面に着目して探っていくことが多いかと思います。でも、悪いところばかりに目を向けて意味はあるのだろうか?と思ってしまいます。

トライブというのは多くの場合だいたいポジティブで、自分なりに工夫をしたり、新しいことを積極的に行動に移していたりする人たちです。そういう人たちは、行動科学の分野ではポジティブな逸脱者と言われていて、そういう人たちから希望の光を見つけことが大事だと思うんです。この人たちはなぜできているのだろう、この人たちはなぜこんないきいきしているんだろうというポジティブな面をきりとって考えていくことで、貧困からくる栄養失調が解決したというベトナムの事例(※)もあるんですね。

(※)ベトナムで貧困から母子ともに栄養失調という状態の中、一世帯だけ栄養状態のよい家庭があった。調査の結果、栄養状態のよい家庭では、支給された同じ量の食事を、3回に分けてとっていることがわかった。子供は一度にたくさん消化できず、回数を分けて食べた結果、栄養が行き届いていたという事例。

佐野「これってすごく簡単なことですよね。このように、何故できないのか?ではなく、なぜできているのか?例外的な希望の光をみつけていくことが、エスノグラフィーでも大切なのではないでしょうか。希望の光はトライブだからこそ持っているものなので、それを見つけ、世の中に広げていく方法を考えていくのがSEEDATA だと思っています。

まさにポジティブな逸脱者=トライブであり、その例外探しをするのがSEEDATAのエスノグラフィーの役割です。

みんなが愛してくれるような新たな意味を見つけるためにも、SEEDATAでエスノグラフィーを一緒にしたいという方がいれば、ぜひご連絡いただければと思っています。」

-ありがとうございました!

全4回にわたってロベルト・ベルガンティの『突破するデザイン』を用いて、意味のイノベーションについてお届けしてきましたが、愛される商品には新しい意味が必要であるということ、それを見つけるためにSEEDATAのエスノグラフィーが有効であることがわかっていただけたのではないでしょうか。

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SEEDATAでは、独自のエスノグラフィー調査を行っています。ビジネスにエスノグラフィーを取り入れたいという方はinfo@seedata.jpまで、件名に『エスノグラフィーについて』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。

SEEDATAエスノグラフィーのご紹介
SEEDATAでは、独自のリサーチデザイン・分析フレームを用い、行動観察・インタビューを組み合わせたエスノグラフィーを行っております。私たちはエスノグラフィーを通して生活者の潜在的な「ジョブ」を発見し、それらを基にして商品開発や事業開発にお...

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ここ数年、商品開発や事業創出など、さまざまな場面で「エスノグラフィー」という言葉を頻繁に耳にする機会が増えてきました。一言にエスノグラフィーといっても、単純な「観察調査」という意味で用いる場合から、コミュニティのリサーチとしてエスノグラフィ...
佐野拓海
Written by
佐野拓海(Sano Takumi)
アナリスト