なぜ大企業はリーン・スタートアップを実行できないのか?

【写真左より】宮井弘之、鮄川宏樹氏

2016年9月14日、朝日新聞メディアラボにて「大企業のリーンスタートアップはなぜうまくいかないのか〜オープンイノベーションの課題とは?〜」が開かれた。本イベントは、大手企業内にリーン・スタートアップを実践する専門チーム「リーン・ラボ」のリリース記念として開催。「リーン・ラボ」は、開発のエキスパートであるモンスター・ラボと、大企業のイノベーション支援に特化したSEEDATAが共同で提供するサービスだ。株式会社モンスター・ラボ 代表取締役社長 鮄川 宏樹氏、株式会社SEEDATA 代表取締役社長 宮井弘之が登壇し、イベント参加者が直面している「イノベーションにまつわる課題」について回答していった。

大企業のリーン・スタートアップにおける課題

最初に宮井が紹介したのは、「リーン・スタートアップ」の考え方と、大企業がリーン・スタートアップを実践しようとした時に直面する課題について。

「リーン・スタートアップ」とは、新規サービスやプロダクト開発の際に用いられる考え方。リスクを最小限に収めるために、コストをかけずに最低限の試作品を作り、ユーザーにテストしてもらうことでプロダクトを改善していく手法だ。最低限の試作品のことをMVP(Minimum Viable Product)と呼ぶ。MVPに対してユーザーからの反応が良くない場合は、ピボット(方向転換)をする。その後、サービスやプロダクトの価値を再定義したMVPをつくり、想定ユーザーに向けて再び仮説検証を行う。このサイクルを回していくことで、新規事業の成功確率を高めていく。

大手企業が「リーン・スタートアップ」の手法を用いて新規事業を立ち上げようとした時に直面するのが次の3つの課題だ。1つ目は、大手企業がめまぐるしい外部環境の変化に対応できない「スピード不足」という課題。2つ目には、社員が新規事業と現業部門を兼務で担当していたり、新規事業経験のない管理職が多かったりと、組織における「熟達不足」が挙げられる。3つ目には、意思決定に時間がかかってしまったり、既存事業とのカニバライゼーションに不寛容であったり、「文化GAP」という課題が存在する。

大手企業がイノベーションを起こせない理由を3つに整理した上で、宮井は「企業内で人を育てる」と「外部と組む」の2つの視点から、解決策について検討していく。

宮井が企業内で人を育てる方法として挙げたのが「旅に出す」「研修」「新規事業制度」の3つだ。「旅に出す」とは、ベンチャーと大企業の人材交換をするサービス「ローンディール」などを活用することで、社員に他の企業で経験を積んできてもらうこと。これら3つの施策を実施しようとしても、時間やコストがかかってしまうのが課題だ。短期的に成果を出しつつも内部人材を育てるには、いかに効果的に外部と組むかがポイントになる。

続いて、外部と組む際の提携先として挙げたのが「立ち上げ系」「専門家系」「技術系」の3つだ。1つ目の「立ち上げ系」では、大手企業とスタートアップをマッチングする「creww」や、コーポレートアクセラレーターを推進する「01Booster」の活用が挙げられる。2つ目は、知見のある「専門家」と組むこと。自社の事業範囲外に飛び出す際に効果的な手法だ。3つ目は、Webサービスやプロダクトの場合、プログラミングやエンジニアリングの「技術」を持つ企業と組むことが求められる。

外部と提携しながら企業内で人を育てる仕組みを提供するために、今回モンスター・ラボとSEEDATAが提供するのが「リーン・ラボ」だ。

SEEDATAが新規事業案の着想や決定という企画工程を支援し、モンスター・ラボがプロトタイプの製作、ユーザーテスト、改善の開発工程を実行する。「リーン・ラボ」は、新規事業の創出や実現を妨げていた「アイデア不足」と「エンジニア・チーム不足」を解消し、素早く新規事業を立ち上げることを目指した取り組みだ。

大企業のリーンスタートアップはなぜうまくいかないのか〜オープンイノベーションの課題とは?〜
■タイトル『大企業の... powered by Peatix : More than a ticket.

■「リーン・スタートアップ」の考え方をどう理解してもらうか。

モンスター・ラボとSEEDATAが「リーン・ラボ」を立ち上げた背景を解説した後は、トークセッションに。イベントは、鮄川氏と宮井が参加者からの質問に答えていく形式で進行した。

ーー「リーン・スタートアップ」の考え方を知らない上司に対して、その価値をどのように伝えればいいでしょうか?

鮄川:まず「リーン・スタートアップ」の考え方が理解されないことの弊害は2つあると思っています。1つ目は、小さく始めること自体が理解されないケース。2つ目は、「開発が終わった後は保守するだけ」という考え方で、チームを解散してしまうケース。モンスター・ラボには、ある程度社内で合意形成ができてから案件が持ち込まれるんですが、SEEDATAはどう説得していますか?

宮井:いきなり理論や概念を提示されて、そのまま理解できる方は多くないと思います。まずは成功事例や失敗事例を多く伝えることで、リーン・スタートアップの考え方を理解してもらいますね。その際に、「リーン・スタートアップ」という言葉を使う必要もないのかなと。

鮄川:私たちも「サービスやプロダクトは開発して終わりではない」ことを伝える際は「FacebookやAmazonといったIT企業のエンジニア数がサービスのリリース後に減っているのか」と、クライアントに問いかけますね。なるべく多くの事例を交えながら、サービスやプロダクト運用の重要性を理解してもらいます。

宮井:あと、よく聞くのが「最初に仕様書をきちんと書かないと不安」という課題です。このような課題がある時に、モンスター・ラボではどうやって上司を説得しますか?

鮄川:検証するべき部分を明確にしますね。仕様書をガチガチにつくらず、プロダクトやサービスの最低限検証したい部分だけを決めていくと。いわゆる、MVPの考え方に近いです。

MVPをどうつくるか?

宮井:MVPをつくる際に重要だと思うのが、最低限検証できる機能の粒度の決め方です。複数の課題を解決できるアイデアは、どこまでMVPとして実装すればいいのか。例えば、複合機はMVPなのかという問題。分解すればコピー機とファックスにわけられるけれど、複合機である価値を確かめたいのなら、複合機の状態がMVPなのか。

鮄川:小さければ良いわけでもないんですよね。僕は、従来のサービスと明確に違うものを検証できているのか、つまりは革新性が判断基準になると思っています。

■新規事業提案制度をどう設計するか?

ーー半導体がメイン事業のBtoB領域の企業で働いています。社内で新規事業提案制度をつくり、公募をかけてみても、ユーザー視点から発想するBtoC系のサービスばかり出てきてしまいます。どうすれば本業に活きるBtoB領域のアイデアが出てくるのでしょうか?

宮井:新規事業案を募集する際に、BtoB事業のアイデアも受け付けていると伝えると良いかと。SEEDATAが関係している新規事業創造プログラムでも、最初は応募がBtoCばかりだったんです。

鮄川:なぜ途中からBtoB事業のアイデアが出てくるようになったんですか?

宮井:「本業とのシナジーがある事業を応援する」というメッセージを打ち出したからです。その会社はBtoB領域の企業なので、BtoB事業のアイデアが出てくるようになったと。

鮄川:今の話を聞いていて、新規事業提案制度にシナジー賞をつくると効果的ではないかと思いました。企業の中の人って、自社のリソースに気づいていないことが多いです。新規事業は、基本的に既存のリソース同士の掛け合わせなので。会社の中にあるリソースを活かす方法がわかれば、新規事業も増えていくと思います。

経営トップの本気を引き出すには?

ーー社内で新規事業提案制度を始めたのですが、明確な方針もなく社員からとりあえずアイデアを集めているだけの状態になっています。社長を中心とした経営トップを巻き込みながら、新規事業を立ち上げるにはどうすればいいのでしょうか?

宮井:先日、大企業の30代の若手がイノベーションを起こすことを目的とした「One Japan」という業界団体が発足したんです。Panasonicの濱松さんを中心に、各大手企業の方が参加しているんですが、中核メンバーには共通点があるんですね。

鮄川:イノベーション人材に共通点があるというのが面白いですね。

宮井:彼らは平社員なのに、社長室の前で出待ちしたり、社長に何回も「今度イベントをやるから来てくれ」と直接メールを送ったりして、社長に直談判するんですよ(笑)。濱松さんが立ち上げたパナソニックの有志団体「One Panasonic」には、実際に社長も参加したと聞きました。経営トップの本気を引き出すには、これくらい覚悟を見せると良いのかもしれません。

ーー覚悟を見せることが大切なんですね。では、社長が本気はどうか判断する基準はありますか?

鮄川:社長の時間の使い方ですね。本気で新規事業に取り組もうと思っている方は、事業の審査やピッチをする際に会場に来てくれるはずです。そこはひとつ指標になるかと。

宮井:あとは、新規事業プログラムから必ず一つ以上に出資させることですね。外部のスタートアップと組む場合の事例なのですが、僕が01Boosterさんと取り組んでいる「コーポレートアクセラレーター」という取り組みがあります。大手企業がアクセラレーターと組み、公募したスタートアップと協業を行うもので、このプログラムは出資を前提に組まれています。出資の際に、資産として貸借対照表に計上されるような費用科目で処理すると、説明責任がより大きくなるので真剣度も高まります。

サービスのプロトタイプと事業のプロトタイプ

ーーIoTサービスの新規事業を立ち上げて3ヶ月が経ちます。最後の1ヶ月はユーザーからフィードバックを受けつつプロダクトを改善したのですが、マーケットフィットまで至りませんでした。この3ヶ月間で他にするべきだったことはありますか?

宮井:まず最初に、プロトタイプには「サービスのプロトタイプ」と「事業のプロトタイプ」の2つがあると思っています。前者はユーザーテストとほぼ同義で、後者は実際にサービスをリリースしてユーザーにお金をもらうフェーズを体験することを指します。サービスやプロダクトの初期段階でもお金払ってくれる人がいるならば、それが事業のポテンシャルを示す材料になるんですね。なので僕がそのサービスの担当者だったら「事業のプロトタイプ」を実践していたと思います。

鮄川:アンケートやユーザーインタビューを行っても、本当にお金を払ってくれるかわからないので、プロトタイプの段階で実際に対価を払ってもらうことが重要なんですね。

大手企業内にリーン・スタートアップを実践する専門チーム「リーン・ラボ」の詳細については下記より確認してみてください。

大手企業内にリーン・スタートアップを実践する専門チーム「リーン・ラボ」を結成

博報堂DYグループ SEEDATA(シーデータ)がモンスター・ラボと共同開発medium.com

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