【IDL&SEEDATA対談①】消費者に新たな価値を提供するための両組織のアプローチとは

近年、イノベーションに対しての機運が高まっているものの、世の中の生活者が何を求めているのか、生活者に対して何を提供すればよいのかがわからないといった声を多く聞きます。

この連載では、株式会社インフォバーン内でデザインチームIDLを立ち上げた井登氏と、SEEDATA代表の宮井の対談から、『生活者が潜在的に求めているもの』を発見する際の考え方と、現在のデザインの手法が直面している問題点を探り、全4回に渡りお届けします。

写真左:

井登 友⼀(以下:井登)。株式会社インフォバーン 取締役執⾏役員 京都⽀社⻑。⽇本プロジェクトマネジメント協会認定 プロジェクトマネジメントスペシャリスト。特定非営利法人認定人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事

写真右:

宮井 弘之(以下:宮井)。株式会社SEEDATA 代表取締役。インテリジェンス・インキュベーション全体統括

ブランドコミュニケーションをメインとした会社の中で立ち上がったデザイン組織IDL

-まず、インフォバーンという会社について教えてください。

井登:インフォバーンという会社⾃体が設⽴して今年でちょうど20 年が経ち、現・共同代表の⼩林と今⽥が⽴ち上げた、前⾝会社も含めると20 数年になります。1994 年に当時⻄海岸でインターネットをテクノロジーだけではなくて、世界で初めてカルチャーとして捉えた「WIRED」という雑誌の⽇本語版を出版したのがインフォバーンの前⾝でした。

少しずつ業態は変化していますが、もちろん根底にはパブリッシャーマインドがあり、「ギズモード・ジャパン」や「ライフハッカー[日本版]」そして直近立ち上げた「ビジネス インサイダー ジャパン」といったオンラインメディアのパブリッシングをしているメディアジーンという会社をグループに持っています。

僕が所属する事業会社のインフォバーンとしては、企業のブランドコミュニケーションをデジタル戦略の立案から企画・実行を通して⽀援していく事業を主軸事業として行っています。

その中でIDL(INFOBAHN DESIGN LAB.)事業部は、実質的には3年ほど前に立ち上げ、弊社の中では新しいサービスとして頑張っているところです。

もともと僕がインフォバーンに⼊社する前も含めて⼀番⻑かったキャリアがデザインリサーチというものでした。「何がわからないか自体がわからない」ようなものを探っていきながら製品やサービス、いろんなエクスペリエンス、コンテンツをデザインしていく仕事をしていた関係もあり、主に企業のデジタルマーケティングやメディアなどの戦略⽴案の際の上流プロセスとして、UX デザイン的なアプローチを導入していました。

そこだけを切り離してコンサルティング・⽴案をしてほしいというニーズがここ2〜3 年で⾼まってきたため、オンラインコミュニケーションに限らずプロダクト・サービスをデザインしていき、UX デザイン的アプローチや、サービスデザイン的アプローチを⽤いて、リサーチからプロトタイプデザイン、検証までをやっています。

-IDL は井登さんが中⼼となって⽴ち上げた組織でしょうか?

井登:もともとインフォバーンの中にはデザインリサーチャーやデザインコンサルティングなどの領域を専⾨でやっている⼈たちがいなかったので、5~6 年くらい前にお客さんのニーズに合わせるために⼀⼈で始めました。その後、もともと素養のあるメンバーを集めていき、私が教育をさせてもらったり、実地で経験を積んでもらったりして、組織づくりを⾏っていき、今は10 名くらいが東京と京都を⾏き来しながらプロジェクトを⾏っています。だんだんその領域を⾏うに値するスキルがついてきた感じですね。

個人力から組織力 フレームワークを用いた、クリエイティビティのマネジメントの重要性

-井登さんがインフォバーンの中でそういった事業をやる価値は何でしょうか?

井登:インフォバーンの主な仕事はブランドコミュニケーションの戦略⽴案や、デジタルコンテンツの制作、Webサイトやアプリなどのデジタルインターフェースの企画などです。従来は、⼒のある編集者や、潮⽬を読めるストラテジストやプランナーが勘と経験と、市場社会の状況を解釈して属⼈的にやっていたんです。つまり、とてもブラックボックス化していたんですね。

天才的なクリエイターが案件の内容にピタッとハマる場合は150〜200%の⼒を発揮して⾮常に⾼いクオリティの結果を⽣み出す事ができる。また、経験を後輩に伝授して組織⼒の底上げを率先的に⾏っているクリエイターも多くいるのですが、個々のクリエイティビティだけで突破して⾏くにはどうしてもクオリティにバラつきやムラが出てしまいます。

さらに、近年クライアントからいただくお題もかなり複雑化、抽象化してきていて、クライアントも何をプロジェクトのゴールとすればよいのか自体が定義できていないケースが増えきました。

こうした状況において、プロジェクトのアウトプットのクオリティと再現性を担保するには、『何を作るか』や『なぜ作るのか』といった上位のレイヤーのお題や問いをクライアントと⼀緒に考え、フレームワークを⽤いて共創していくことが、必要かつ理想的であると考えるようになりました。そのようなことを感じていたときに、デザイン思考の成り⽴ちのことを思い出したんです。

-具体的にデザイン思考をどのように取り⼊れていったのでしょうか?

井登:もともと⽇本企業にはワイガヤの⽂化だったり、強制的にアイデアを膨らませて発想する⼿法があって、ハイコンテクストな阿吽の会話の中で改善や施策が⾏われていました。しかし、前述のように課題が複雑化していくと、今まで関わって来なかった⼈たちとチームを組みながら未知の課題に⽴ち向かっていかなければならないので、そのような少数の「わかっているひとたち」によるハイコンテクストなコミュニケーションができなくなる。そうした状況は、実は、欧⽶でのローコンテクストなコミュニケーションをベースにしながらも、様々な⼈が協業していく中でデザイン思考が⽣まれていったという背景に⾮常に似通っているんです。

クリエイターのクリエイティブ能⼒や閃きといった個⼈の⼒を⼤切にしながらも、再現性とクオリティを担保していくには、もっと⼤きな枠でマネジメントを⾏い、プロジェクトの途中で都度⽴ち返れるようにコーナーストーンを置いていく必要があった。そういったフレームワークとして、デザイン思考をクリエイティブの領域に取り⼊れていきました。

企業のブランドコミュニケーション戦略をプランニングするときに、UX デザインのアプローチしていくことが功を奏する場合があったり、その逆があったりなど、状況に応じて必要なスキルが異なってくる。しかし、それぞれのスキルが暗黙知のままだと、臨機応変に使い分けていくことができないんです。こういった課題感があり、インフォバーンの中でデザイン思考を活用した戦略思考のフレーム化を⾏っていこうと思いました。

宮井:インフォバーンの中で暗黙知化していたクリエイティビティや戦略⽴案のスキルや経験をフレームワーク化によって、プロセスをマネージメント出来るようになった。IDL という部隊がこのフレームを⽤いることで、クライアントとIDL の知⾒が相互に「⾒える」化し、両者の⼒が引き出され、⾼い品質のアウトプットをクライアントに提供できるようになった、ということなんですね。

井登:今の主なIDL の事業としては、プロダクトやサービス⽴案を主としてやっているのですが、デザイン思考的なアプローチは決してこの領域でしか有効ではないというわけではなく、インフォバーンのメイン領域である企業のマーケティングコミュニケーションにおける戦略⽴案・コミュニケーションにおいても転⽤していけると思っているので、IDL だけではなく、インフォバーンの制作部⾨と連携しながらスキルを交換しています。社内で共同開発していくような感じですね。

-成り⽴ちとして出版から来ているというところの掛け算が⾯⽩いですね。

井登:編集というキーワードが間を取り持っていて、いろんなものを組み合わせたときに、編集という作業が媒介になっているんです。いわゆるメディア的な編集だけではなく、新しい価値を⾒出していったり、⼀次情報や兆しを発⾒し、掛け合わせていくことで新しい意味を⾒出していくこと、今は隠れているけど今後出てくることを掛け算していく中で⾒出していったりすること。つまり、意図をもって仮説を作っていくことに近い作業だと感じています。

先進的生活者「トライブ」から未来の価値を見出す組織 SEEDATA

-では、SEEDATA はどういう会社なのでしょうか。

宮井:5 年後くらいに広がってきそうな価値観と⾏動を体現している消費者を「トライブ」と名付け、定義していて、定性的にリサーチしています。僕ら独⾃の解釈を加え、意味を⾒出し、そこから事業や商品を作ることをサポートすることから始まりました。

⾯⽩いなと思ったのは、イノベーションの源泉が意味を⾒出すことになったという、時代の⼤きな流れがあって、価値を作るということ=意味を⾒出すことになっているということ。消費者がすでに欲しい価値を知っていて「こういう価値をくれ!」と⾔っていた時代から、ある技術が何を⽣み出すかもわからなくなり、消費者も「どういう価値が欲しい」と⾔えばいいかわからなくて、誰かがインタープリテーション(翻訳)して意味を⾒出してあげることで価値が⽣まれる時代になった。

僕たちは意味を⽣み出すことが好きな界隈なので、編集も広告も、既存のものに対して新しい意味を⾒出して、意味を⾒出すことで価値が⽣まれ、その裏に⽂脈が⽣まれる。それをやらなきゃいけない時代に、僕は広告会社のプランナーとしてスタートしました。

やはり消費者を⾒ることが好きだったので、じゃあ新しい意味を⾒出すための消費者って誰だろうと考えたときに「トライブ」という考え⽅が出てきたんです。新しい意味を⾒出すための対象としての消費者群が未来の価値観を持った「トライブ」です。

彼ら「トライブ」を調査し、「トライブ」の⼈たちの発⾔や⾏動を編集・解釈することで意味の発⾒を⾏う。こうして⾒つけた意味を⼀般⽣活者の⾏動の中に落とし込み、価値を創出することでイノベーションを⾏う、そうした活動を⾏っている会社です。

-編集というところに着⽬すると、実はSEEDATA も近い構造なのかなと感じます。最初は「ビジネスマンのためのBRUTUS」といっていて、世の中の先進的な⼈をみて編集し、⼀つの潮流として捉えているところがありましたよね。

宮井:いわゆる編集的な⽂化を、メディアの戦略⽴案に応⽤しているのかな、と。我々SEEDATAも先進的な生活者をリサーチし、そのデータを「編集」して未来の兆しを発見して商品開発や戦略に落とし込んでいるので、そういう意味で根底は同じところがありますね。

井登:取材や対談でも、単に⼀次情報として綺麗にしているだけだと、厳密には編集ではなくレイアウトに近い。そこに編集者が媒介することで、話していることの中のどういうところに価値や兆しを⾒出すか、それが編集の仕事です。どのような視点、どのような文脈で編集するか?という指針は、メディアごとに異なっていたり、編集者ごとに異なっていると思います。

この編集という⾏為をデザインの⽂脈で考えると、リサーチで得たファインディングスだけを整理しても、多くの場合イノベーションは⽣まれない。そこに⾃分なりの解釈をしたり、どういう⾵な属性として⾒れるかという意味を⾒出したり、あえてラベルをつけていくことで、他の⼈が解釈しやすくする、という部分が編集というワードとして共通していると思います。(続く)

(第2回は6/25頃公開です)

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