【IDL&SEEDATA対談③】「未来の当たり前」を作るためにはプロダクトアウトでありユーザーインな「強い仮説」が

近年、イノベーションに対しての機運が高まっているものの、世の中の生活者が何を求めているのか、生活者に対して何を提供すればよいのかがわからないといった声を多く聞きます。

この連載では、株式会社インフォバーン内でデザインチームIDLを立ち上げた井登氏と、SEEDATA代表の宮井の対談から、『生活者が潜在的に求めているもの』を発見する際の考え方と、現在のデザインの手法が直面している問題点を探り、全4回に渡りお届けします。

これまでの連載はコチラ⇒

①消費者に新たな価値を提供するための両組織のアプローチとは

②持続的イノベーションに必要な「リフレーミング」の役割とは

写真左:

井登 友⼀(以下:井登)。株式会社インフォバーン 取締役執⾏役員 京都⽀社⻑。⽇本プロジェクトマネジメント協会認定 プロジェクトマネジメントスペシャリスト。特定非営利法人認定人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事

写真右:

宮井 弘之(以下:宮井)。株式会社SEEDATA 代表取締役。インテリジェンス・インキュベーション全体統括

主体的にユーザーを解釈し、「強い仮説」を生み出していく

-(前回のお話の続きから)SEEDATA でイタコと呼んでいる作業に近いですね。

⾼度経済成⻑期には必要に迫られて多くのが発明されていたのに対し、今は強い思いからなにかが作られることはなくなっているように思います。「トライブ」が⾓が残っている情報として有効なのは、「トライブ」の哲学や考え⽅、こういうものがいいという思いをインストールできるからなんですよね。

井登:インハウスのデザイナーや開発者がHCD/UCD、デザイン思考を学んでいるのに⾏き詰まるというのと、今のお話で感じるのは、HCD のプロセスにしても、デザイン思考にしても、フレームワークとプロセスにすぎないんですよね。すごくオーセンティックで素晴らしいのですが、リサーチから丹念に始めて順番に進めていけば、⾃動的に発⾒が⽣まれるわけではないんですよ。⼩さいファインディングスは⾒えてくるけれど、深いインサイトや、シンプルだけど強烈な気づきはあえて解釈をしていかないといけない。

トライブのように⼀次情報が尖っていたら、解釈するだけで結構いいヒントが出てくるかもしれないけれど、そうではない場合、整理はできていくものの「気づき」や「インサイト」までは出てこない。今までそういったことをやってきていない製品や組織であれば新たな発⾒ができる可能性もあるけれど、成熟しているようなテーマだったり、何度もHCD・UCD のプロセスをきっちりやってきたチームやデザインパーソン、製品だとむしろ⾏き詰まってしまうんです。

そこでもう1 ステップ新しい視点を持ち込む時、無理やり主体的で、思いつきではないビジョン・ドリブンを持ち込むのはすごく有効的だと思うんですよね。ニーズ・ドリブンな領域をカバーしつつ、昔でいうとカリスマ創業者が「社会のために」といってやってきたことを、売れるかわからないけれど、世の中が変わると思ってやっていた時代があるじゃないですか。

この20〜30 年くらい、「プロダクトアウト(作り⼿優先)」という⾔葉がある意味悪者のように扱われていて、たしかに当時天才だった⽅以外の⼈が⾔っていたビジョンは、弱かったかもしれないし、マーケットも⾼度化し、ニーズも増えている時代だったので、ちゃんと集めて丁寧にやれば喜ばれていたんです。

でも今は、洋服をとってもいわゆるファストファッションで誰も困らないし、ハードウェアも⼗分性能を保っていて困らないけれど、やっぱり⼈間って進化が欲しいじゃないですか。厄介で複雑な世の中になってしまった段階では、もう⼀度プロダクトアウト的な発想ってある意味重要じゃないかと。

宮井:プロダクトアウトだけどマーケットインだし、マーケットインだけどプロダクトアウト……というようなビジョンを⼊れたプロセスが、井登さんのところとうちで⼀緒にやればできる気がします。プレスリリースの「強い仮説」というのはまさにそういうことですね。

井登:「強い仮説」というのは勝⼿には⽣まれないんですよね。スタートアップであれば創業者⾃⾝が強い社会課題を感じていたり、自身が過去に経験した問題などを「なにがなんでも解決したい」とう強い思いがあったりします。もちろん好きだからやりたいという⼈の場合も、すでに強い仮説があるので形にしてみて、実際に検証すればいい。「世の中的にいけるの?」というのを⾔語化できたりするし、すぐにプロトタイプもできる。

でもそうじゃない場合、個⼈の⼒だけに頼れない場合だったり、組織としてやらなければいけない場合、世の中に落ちているニーズを集めても勝⼿に「強い仮説」が⽣まれることはそんなにないんです。100 のうち1〜3 つくらいで強い発⾒があるかもしれないけど、残りの97 は「たぶんそうなんだろうけども、尖っていない」状態になりますよね。

イノベーティブな組織を作っていくというのを意識したり、チームで作っていくということを考えると、勝⼿に⽣まれない「強い仮説」を⽣むための補助になるようなものをあえて持ってくるのが⼤事です。

「強い仮説」を足がかりに、「未来の当たり前」を引き寄せる

-チームとして「こういう⽣活がいいかもしれない」「わからないけど素敵な気がする」というイメージを共通⾒解で持つということが重要なのかもしれないですね。

井登:よく「未来の当たり前」という⾔葉を使うのですが、今はちょっと変に映ったり、⾯⽩そうだけどあえてやらないかもと思われているものも含めて、その100 個あるうちの1〜3 個が残るものもかもしれないんですよ。

10 年前にまさか⾃分では使わないだろうなと思ったもの、例えばスマホなんかもそうだと思うんですが、5~10 年経ってエクストリーマーが使いはじめてだんだん広がって浸透していくことで習慣になったり、社会的なインフラになっていく。⼀⽅で技術が進んだり値段が下がったり、通信回線が整っていったりなどいろいろな外部要因があって、それらに助けられたものが残る。それらが「未来の当たり前」だと思うんですよね。

現時点を起点に考えると当たり前ではないことが、未来の当たり前になりうるかどうかという⽬利きをするために、早くにプロトタイプを作成したり、リサーチをしたりしていくことも合わせてやっていくと、仮説だったものが現実のものとなりやすくなる。

宮井:SEEDATA ではよく「未来を引き寄せる」というのですが、そういう未来を⾒つけた時点で未来が近づき始めていると。そうするとプロトタイプを作り始める⼈や、似たようなビジネスを始める⼈たちが出てきて、未来がどんどん前倒しになっていくんですよね。

井登:⽇本のネット環境も、孫さんが15 年ほど前にYahoo!BB をやっていなかったらもっと遅れていたかもしれない。そういうところに可能性であったり、未来のニーズを感じられたりすることや、先⾏事例として海外の事例があり、結果的に引き寄せられたものが、残っていくものだろうし、数年、⼗年経った後に「これってイノベーションだったよね」となると思うんです。

引き寄せられるための要素を掴んでいこうと思うと、極端な⽬で⾒たり、⾒⽅を変えたり、他のことと合わせて⾒ていったりしないと判断できないですよね。でも⼤企業で新製品や新規事業などのアイデアの「強い仮説」を作ったときに、多くは上層部から「どれくらい売れるのかの根拠を出せ」と⾔われてしまう。

でも根拠はないんですよね、何故ならまだ世の中にないから。世の中にあるように何かしらしてあげないと、あった時にどうなるかがリサーチすらできないというジレンマがあると思います。そこで最初の第⼀歩でプロトタイプが何かしらある状態にする企業は、失敗しても早くに失敗できる。答えが出ないものは早く答えを出すか、やらないほうがいいと思います。(続く)

(第4回は7/2頃公開です)

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