【ビジネスのためのサービスデザイン④】カスタマージャーニーマップの活用法

これまでサービスデザインのマインドセット、プロセスについてご紹介してきましたが、今回はサービスデザイナーの武器となるツールについてお話します。

これまでのサービスデザインの記事はコチラ

サービスをより魅力的なものにしていくためのサービスデザインのツールはいくつかありますが、今回はカスタマージャーニーマップというツールをご紹介します。ジャーニーマップとはその名のとおり、ユーザーの体験を「旅」になぞらえてマップ化したものです。

ジャーニーマップは、複数人でサービスの開発を行う際に、チーム全員がサービス内容に対して共通認識を持てるようになることを目的として、サービスの流れを可視化します。つまり、どの点にユーザーへの提供価値が生まれるかということを確認するためのものであり、現在は開発者側のコミュニケーションのツールとして主に使われています。マーケティングでも、顧客との商品やサービスの接点を可視化するためによく用いられますが、サービスデザインにおけるジャーニーマップの目的は少し異なります。

ジャーニーマップを何となく書いてみるものの、実際うまく活用できていないという人も多いのではないでしょうか。

今回は、サービスをより魅力的にするためにジャーニーマップをどうやって活用していけばいいのかについてご紹介します。

ジャーニーマップに必要な5つのステージ

ジャーニーマップの書き方はインターネットや書籍などに数多く掲載されているため書き方に関する詳細は割愛します。今回は私が個人的にサービスデザインにおけるジャーニーマップを描く際に重要だと考える項目をご紹介します。まずは大きく、

・きっかけ

行動

・結果

・報酬・価値

・投資

という5つのステージを書きます。

有名なものとしては、AIDMA(アイドマ)の法則(Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動))等もありますが、私は上記の流れが重要だと考えています(理由は後ほど)。

次にこの5つのフェーズそれぞれのタッチポイントは、テレビを見たときなのか、SNSなのか、検索なのか、店頭なのかを記載します。その後、ユーザーがどんな行動をするか、その行動の背景にどんな感情や価値観があるかを順に書いていきます。

分かりやすいサービス例として、Facebookを例に解説します。

たとえばFacebookのサービスのジャーニーマップを描くとすると、最初は大学の中で、ザッカーバーグ自身が「こんなwebサービスを作ったから使ってよ」と友だちに広めたことがジャーニーの始まりです。

その後、友だちが登録して、プロフィールを入力する、そこからさらに友だち追加をしたり、友だちを検索するという行動をとり、ジャーニーは一旦終わりを迎えます。これが1周目のジャーニーマップになります。

これはTipsになるのですが、実はジャーニーマップは1周目だけで終わりません。2周目を書くことが重要なのです。

最近のサービスの中でも、まず最初に広告を大々的にうち、認知を広め、ダウンロードをさせるという方法も多く見られますが、一度ダウンロードしたものの再度開かれないサービスが数多く存在します。

つまり、1周目のジャーニーマップと2周目のジャーニーマップはまったく違うものであるにも関わらず、1周目を書いて満足してしまし、2周目のジャーニーマップが書かれていない、きちんと設計されていないのです。

たとえばFacebookの例でいうと、登録しただけで終わらないのは、その後「友だちが追加されました」「コメントされました」「いいね!されました」という通知が来ることで、2回目を開くきっかけを作っているからです。

Facebookは何度も開かせるための仕掛け作りが実に上手にデザインされているサービスといえるでしょう。

この2度、3度と開く仕掛け作りがすごく大切なのですが、登録するまでで満足してしまっているサービスが散見されます。

このことについて、「Hooked ハマるしかけ」の中では、「きっかけがあって、きっかけをもとに行動して、そこからなにかしらの報酬を得て、価値を感じて、投資をして、またきっかけがあるというサイクルを踏まなければ、人は継続してサービスを使わない」と書かれています。

Facebookの例では、きっかけは通知でFBを開く、投稿を見る、そこで知らなかった情報や友だちの近況を知り、自分も投稿をする、すると次のきっかけとして新たなコメントがつき、再度開くというサイクルが回っているから、みんなFBを使い続けるし、結果、広告のプラットフォームとして売り上げを伸ばしているのです。

もちろん1周目にまず登録してもらうことも重要です。きっかけは口コミなのか、広告なのかという点も戦略のひとつですが、1周目で広がったとしても、みんな登録して満足して見ないで終わってしまっては意味がありません。

2周目、3周目と継続してもらうきっかけをいかに作るかが重要で、これを1周目とは分けて考えることが必要なのですが、ジャーニーマップを作るうえで2周目について言及されている例は実はあまり存在しません。

人は投資をすることでどんどんサービスにめり込んでいく生き物であり、経営学や経済学には「サンクコスト」という概念があります。

たとえば映画館に行くと最初にお金を支払うので、どんなにつまらない映画でも途中で出る人はあまりいません。「せっかく投資したから最後まで見続けた方がいい」「もったいないから見ておこう」という心理が働くからです。

似たようなことはさまざまなサービスに隠れていて、たとえば動画視聴サービスなどでも初月無料サービスなどがありますが、初月のみで辞めてしまうユーザー以上に継続してくれるユーザーが存在します。シリーズものなどを見始めた場合、「このまま見続けてみよう」という心理が働くのも、実は一番最初に「見る」という時間を投資させているためです。

最初にユーザーに時間やお金を投資させて、「続けなければもったいない」という気持ちにさせられるかどうかがポイントになります。

このように、本来ジャーニーマップは1周目、2周目、さらにもう少しサービスが拡大していったときなどで異なり、ユーザーによっても変わってくるでしょう。

1サービスにつき1ユーザーのジャーニーを1回書いて終わりにするのではなく、さまざまなパターンのジャーニーを書いてみることをオススメします。

ジャーニーマップの感情曲線がマイナスのときではなくプラスのときに注目する

冒頭でも触れたとおり、ジャーニーマップは書いただけで満足してしまうことが多いのですが、あくまでサービスをよりよく改善するためのツールとして活用すべきです。

では、ここからは、どのように活用し、サービスを改善していくのかを解説します。

まず、大前提として、継続してリピーターを増やすためのきっかけはあるのか、本当に行動を実行してもらえるのか、行動した結果ユーザーが求めている価値を提供できているのかという点をチェックします。

そこから、よりサービスにハマってもらうために、たとえば投稿させたり、お金を支払わせたり、より時間をかけたりという投資をさせるための仕掛けを作れないかというように、フェーズごとに価値を仕組みが作れないかを考えます。

きっかけには、内的なものと外的なものの2種類が存在します。

外的なきっかけというのはテレビCMや広告、口コミなど、外からのものです。一方、内的なきっかけは、自分の内から湧き上がる感情や想い、本能のことです。

たとえばFacebookは通知がなくても開くときがあります。何となく、友だちのことが気になるとき、暇なとき、自分の中で湧き上がる感情があるはずです。電車の車内など、ふと孤独を感じて誰かとつながりたいと思い、ついついFacebookを開いてしまったことがある人は多いのではないでしょうか。

つまり、1周目のジャーニーマップではユーザーはFacebookの価値を知らないので広告や口コミが大事ですが、2周目は内的なもの、ユーザーがふと感じる感情と結びついているかどうかがポイントとなり、内的なものに結び付いたサービスほどユーザーにリピートされやすいといえるでしょう。

もちろん、ユーザーのどんな感情に寄り添うサービスかということも重要な要素です。

たとえば本能的な感情に近いものだと、空腹時や「本当にこのお店はおいしいのだろうか」という不安感があるときは、ついホットペッパーや食べログでお店を探したり、口コミを見たりすることがあるでしょう。このようなシーン、フェーズごとに細かくジャーニーマップを作っていく必要があります。

そして、ジャーニーマップでもうひとつ重要なのが感情曲線です。通常、曲線が落ちているときはサービスが使いづらかったり、あまり魅力を感じないというタイミングなので、このマイナスをプラスにするための方法を考えたり、サービスのハードルや障壁を分析するために感情曲線を書いているかと思います。

しかし感情曲線も「今ここで感情が高ぶる」という図をなんとなく書いて終わってしまうことが多いのではないでしょうか。

しかし、実はこの感情曲線で注目すべきはマイナスを改善することではなくプラスを改善することなのです。

ピークエンドの法則という「人はサービス体験のピーク(絶頂)とエンド(最後)しか記憶に残らない」という法則をご存知でしょうか。

ディズニーランドを例に解説すると、ディズニーランド内で30分ごとに満足度調査をすると平均度は10点満点中5点をきります。何故なら、ディズニーランドにいる時間はほとんどが待ち時間で、当然その時の点数は2点や3点になってしまいます。

ところが、待ち時間を経て、乗りたかったアトラクションに乗った瞬間に一気に10点になるのです。これがディズニーランドにおけるピークです。そして、帰り間際、最後に出口にあるお土産屋で感情曲線がまたぐっと上がります。

つまり、平均点は5点と決して高くはありませんが、あれだけのリピーターを生み、年間パスポートも売れ、満足度も高いのは、ユーザーにとっての一番楽しい時間、ピークに全力を注いでいるからなのです。

もしかすると、ディズニーは待ち時間をなくしてしまうと、ピークのありがたみが減ってしまい、アトラクションに乗るときがピークでなくなる可能性もあります。

長い待ち時間があるからこそ、気持ちが高まった状態でピークを迎えられるということもあるので、マイナスを必ずしもプラスにしなければいけないというわけではないのです。

人はサービス全体の平均的な評価ではなく、最良と最後を足して2で割ったものを体験全体の評価と考えています。人生をジャーニーマップに書いた場合、結婚式や出産がピークになっているという人は多いはずです。やはり、記憶に残りやすい経験というのはピークになり、内的なトリガーが起きやすいといえるでしょう。

結論として、記憶に残る、思い出に残るサービス体験を作るためには、平均的にいいと思われるサービスより、ひとつ秀でているピークを作ったほうがよいのです。

このことから分かるサービス改善における感情曲線の活用法は、通常、感情曲線では1点、2点のところをいかによくするか、いかに平均点までもっていくかに注力しがちですが、本当にやるべきことは7点、8点と評価されたところを10点にできないかを考えることです。

10点=最良の体験ができることで、また使いたいと思ってもらえるのです。人はサービスの全ては記憶できない、結局覚えているのはピークとエンドなので、そこに注力し、いかにピークとエンドの体験をよくするかが、サービスにおいては重要なのです。

たとえば、「俺のフレンチ」もサービスデザインのすばらしい例といえます。

通常飲食店の原価率は30%といわれていますが、ここでは原価率90%ともいわれている目玉メニューが有名で、そのメニューを頼んだ瞬間にピークが訪れ、最良の体験ができるのです。

もちろん感情曲線のマイナスは使いづらい部分なのでプラスに改善するにこしたことはありませんが、マイナスだけをならして平均的にしても継続的には使ってもらえません。

ひとつでもいいので「これがよかった!」という大きな価値を生む山を作らなければ、ユーザーの記憶に残る体験を作ることはできないのです。

最速で注文当日に荷物が届くAmazonのプライム会員サービスなどは、何周目かによってピークが変わります。最初は「もう届いた!」という感動があり、だんだんと早く届くのは当たり前になり、平均点も下がっていきますが、会員限定のセールなどで掘り出し物が手に入ることで、またピークが訪れます。

このように何回も使っていくことでピークは移り変わっていくものです。Amazonがこれほど支持され愛されているということは、このピーク作りに力を入れているからともいえるでしょう。

ついついサービスのマイナス部分や問題点にばかり目がいきがちで、マイナスをいかにプラスにして、なめらかなUI、UXにするかというためにジャーニーマップを使いがちですが、重要なのはプラスの部分をよりよくするということです。

これだけサービスが溢れている世の中なので、頭ひとつ秀でていくためには、ピーク、感動をどこで作るかが重要になってきます。

ピークの作り方はさまざまですが、さまざまなサービスのピークを研究、分析し『The Power of Moment』の中では、人びとのさまざまな記憶に残っている瞬間は何なのかを分析して4つにまとめています。

ピークの作り方には、

・洞察

・繋がり

・誇り

・高揚

という4つの要素があります。

上の図をFacebookを例に解説すると、洞察は誰かの記事で「こんなの知らなかった!」という感動を得られる場面「もっと読みたい!」とまた次の記事を探す行動につながります。

繋がりは、新しい友だちが追加されたときなどです。誇りは、自分の記事や写真がたくさんいいねをされたりシェアされたときなどです。高揚は、英語でいうとエレベーション、つまり上がっていくということです。

先ほど、だんだん当たり前になって2回目は同じピークにはなるとは限らないと話しましたが、一回落ち込んだものをまた上げていく、事前の期待を超えていかなければいけないという意味です。

本書によると、「あなたの学校生活で記憶に残っている瞬間は?」と聞かれると、誰一人として教室とは答えず「学芸会」「運動会」というイベントをあげ、授業はディズニーでいうところの待ち時間になってしまっているのです。

授業をピークにするために、アメリカの先進的な学校では、授業をすべて参加型にして、たとえば法律についての授業なら、生徒が裁判官や弁護士のような恰好をし、教室は裁判所のように配置をして授業を行います。こうすることで授業がピークの体験になり、結果記憶に残り、テストの点も上がったという例があります。

このように、この4つを頭の片隅におき、遊び心やサプライズを入れながらピークを作っていくことが重要です。

ただ、日本のサービスにはこういった遊び心やサプライズがほとんどありません。海外ではネットでの保険の加入ですら、くだらないGIFアニメのジョークが入っています。これらの小さな積み重ねがサービスを好きになるポイントにもなりえるのです。

サービスを開発する際には、つい使いやすさばかりを考えてしまいますが、プラスアルファの遊び心やサプライズがあるサービスほど愛されるサービスになっていくはずです。

次回はサービスプループリントについて解説します。

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佐野拓海
Written by
佐野拓海(Sano Takumi)
アナリスト