【ビジネスのためのサービスデザイン➈】サービスの実現に必要なスタートアップの考え方

サービスデザインの中でもサービスを届けるための「Deliverフェーズ」が一番難しく、手法もほとんど存在しないという話は前回もこの連載でご紹介しました。

Deliverフェーズ、つまり「サービスどうやって届けるのか」という実装の部分はサービスデザインではまだまだ十分に検討の余地がある部分です。最近では、実装の際のリスクを分析した研究もあり、そのリスクを事前に見越しながら、サービスアイデアを収束していくことの重要性も増しています。

SEEDATAではこのDeliverフェーズにおいて、スタートアップの手法を応用しています。今回はサービスデザインのDeliverフェーズで行なっているSEEDATA流のPoC、PoB、そしてPoCAについて解説します。

これまでのサービスデザインに関する記事はコチラ

Deliverフェーズは3つのステップに分ける

そもそもスタートアップは資金も人材も技術もほとんど持ち合わせていないため、大手企業のようにいきなり莫大な人材とお金を投資することはできません。では、どのようにして次々と新サービスや新規事業を作りだすのでしょうか。

スタートアップではまずPoC、PoBを回し小さく作っていくことで、何人の人にリーチして何人の人が購入したかというマジックナンバーという数字/割合を作りだし、その数字/割合をもとに事業計画のロジックを組み立て、資金調達をし大きく成長するという方法をとっています。

一方、大手企業は人材も資金も技術も豊富にありますが、投資の意思決定をするためにはインナーマーケティングを行い、社内を説得する必要があります。そこでSEEDATAでは大手企業で新サービスを開発する場合、スタートアップの考え方や手法を取り入れているのです。通常のスタートアップはVCやエンジェル投資家などから資金調達をすることをPoCやPoBのゴールとしているのに対して、大手企業の新規事業は社内を説得し投資の意思決定をさせることをゴールにしています。そのためには、意思決定を段階化するということをしています。つまり、Deliverの際にはいきなり大きく作るのではなく、スタートアップのように0→1のPoC、PoBの部分、そこからスケールするための1→10のPoCA(プルーフオブキャピタル)とフェーズ、段階を分けている点が特徴です。

このフェーズを説明すると「何故無料のPoCをやらなければいけないのですか?いきなりPoBをした方が手っ取り早いのでは?」と質問されることがよくあります。

その理由として大手企業での新規事業計画においては、基本的に5か年という中長期の計画を立てます。しかしいざ実行しようとすると様々なリスクが想定され、最初の一歩が踏み出せず進めることができないという事態が往々にしておこります。

だからこそ、顧客が価値を感じてくれるかどうかを確かめる無料期間を、PoCとして設けているのです。つまり、PoCとは仮説検証や改善を繰り返す実証実験期間のことです。PoCを行わずPoBを行なっても、初期の作り込まれていないベータ版の商品やサービスにお金を支払う人はほとんどいません。その結果、サービスに価値がないという判断がされて、プロジェクトが終わってしまう恐れすらあります。

そこで、まずはPoCで今ある不安な材料や懸念点=仮説を洗い出してチェックリストを作り、これで本当にいけるのかどうかをひとつひとつ切り出して検証し、サービス価値を高めていくのがPoCを実施する意義になります。

その後「これなら価値を感じてもらえそうだ」と我々と運営側で確信をもった時点で、サービス全体の流れを通してお金を支払ってもらえるかどうか検証する、つまりPoBを行うのです。

このように、0→1の部分の中でもPoC、PoBとフェーズを分けて行うことが新規事業や新規サービスを実現する上では重要です。

スタートアップの考え方を取り入れることで、いきなり莫大な人材や資金を投入して失敗するリスクや、手戻りするコストを最小限に抑えつつ、小さく始めることが可能になります。

PoCで無料の実証実験をおこなった後、サービスの価値をある程度高めた上でPoBに進むのですが、最初にお金を支払ってくれる人=初期採用者は本当に一握りで、100人中数人かもしれません。ここで再びみなさんから質問をいただくのが「この初期採用者の数字は多いのか、少ないのか」ということです。

そもそも人がモノを購入するということに至るのは、さまざまな要因があります。単純にモノがいいからだけではなく、CMに出ている俳優が好きだから、一目置いているあの人がオススメしていたからなど、購入を決定する要因は無数に存在します。

つまり、PoBで購入した人はあくまでサービス自体の価値に共感して買ってくれた初期採用者=アーリーアダプターであり、事前に「100人中10人に買ってもらう」などと定量的なKPIをたてること自体が難しいのです。

そのため、PoBで100人中10人が購入したとしても、その10人が多いかどうかはここでは判断せず、「10%の人が買った」という事実のみを重要視します。これをマジックナンバーといいますが、この数字が分かることではじめて売り上げやコストの目途も立ち、事業計画書(=PL)を書くことができるのです。

これらの事実がないゼロの状態で事業計画書を書いたとしても、すべて机上の空論や仮説になってしまい、まったく説得力はありません。PoC、PoBで得られた事実(検証された顧客価値、ビジネスモデル)に基づいて事業計画書を書くことではじめて説得力を持たせることができます。

PoBの次はPoCAをおこないます。

PoCAでは、どの程度の資金や人材、開発費を投入することで、どの程度のスケーラビリティの可能性があるのかを検証します。例えば、100人中、購入した10人がほかの人にオススメした場合、どれくらいの人が購入するのかが分かれば、口コミ、拡散性、話題性の検証ができるため、ここで初めて、人のつながりやマーケティング、プロモーションの可能性も探っていくことができるのです。

昨今はとくに、どのサービスもサービス自体の機能は高いため、重要なのはブランドやストーリー性といわれています。しかしストーリー性というのは数字では計れないものです。インフルエンサーが勝手にストーリー(ナラティブ)を作って広めてくれたり、サービスの愛用者、アンバサダーが広めてくれたり、サービスの広がり方もさまざまな方向性が出てきているため、どうすれば普及していくかについては、PoCAで検証していきます。

また初期採用者がどの程度いるのかについて不安な場合も、ここで定量調査をはさみ、初期採用者と同じ属性や特徴の人がどの程度いるのかについて調査するという方法もあります。

PoCAまで行うとスケーラビリティの検証も終わり、投資の意思決定を行うことが可能になります。例えば、スケーラビリティの検証とはフォロワーが1万人いるインフルエンサーが1度シェアすると100人がLPに訪れ、その100人のうち10人が購入するというように、すべて確率で表していきます。

「どれくらい広告予算を投入すればどれくらいの人が購入してくれるか」を、事実に基づき説得できるようになるため、数字や定量的に「事業化すべき」という説得をすることが可能になります。

サービスの普及の仕方や広げ方は、まだまだ研究の余地がある分野であり、マーケティングでもホットな分野です。そこでSEEDATAでは、スタートアップのメソッドやブランディングのメソッドなどを掛け算しながら、今回ご紹介したような方法を一例としてDeliverを行なっているのです。

PoCを行う前に設定しておくべき制約条件

最後に、「どのように新規事業、新サービスを作っていくか」ということに関してはかなりトレンドや時代性も影響します。

新サービスを企画し実装する場合には「このサービスは本当に競争優位性があるのか?」「他社ではなく自社がやる意義は何か?」などの指摘をされますが、説得するためのロジックや事実をいかに効率的に集められるかが、新規事業の実装のスピードを決めています。

SEEDATAではすでに保有しているトライブデータやFuture Waveのデータなど、生活者の生声という事実に基づいてサービスを実装していくという方法をとっています。

もうひとつ、ロジックを組むうえで最重要視している点があらかじめ制約条件を設けておき、握っておくという点です。

サービスデザインの中でもDiscover、Define、Developは企画フェーズといわれる部分で、アイデアをたくさん出し、発散していくフェーズですが、Deliverは実装フェーズで、収束していくフェーズになります。

収束の仕方には2通りあり、まずアイデアを出した後で「これはいける、これはいけない」と制約条件を踏まえてアイデアを選択していく方法と、最初から制約条件を持っておき、そこからアイデアを生み出す方法です。

前者の場合、アイデアの可能性は無限にあるので、抜け漏れが出てきてしまい、「最終的にできるサービスアイデアがなくなる」ということが往々にしてあります。

つまり、まったく制約のない状態でアイデア発想をしてしまうと、最終的にアイデアを絞り込んでいく際の手間や、このアイデアは実現できないという抜け漏れのリスクが必ず出てきてしまうのです。

だからこそDeliverは収束を見据えておこなうべきで、仮説でもよいので、売り上げ、コスト、ターゲット、シュチェーションなどの制約条件をあらかじめ出したうえで、実行するアイデアを考えていくべき必要があります。また、大手企業の新規サービスの場合は「この商品を売りたい」「この技術を使いたい」など既存のリソースを全て洗い出すなど、PoCやPoBは方向性を見据えたうえで、ゴールや制約条件から逆算して、やるべきサービスを絞り込んでいきましょう。制約条件には上申や社内説得の際に指摘されるであろう項目も全て含めておきます。つまり、競争優位性があるかなども制約条件になるということです。

また、このときに重要なことは、サービスアイデアにベストなものなく、常にベターということです。これが絶対解というものはなく、AよりはB、BよりはC、CよりはD……という風に、常にアイデアを比較をしながらよりよい最適解を見つけていく必要があります。

SEEDATAではあらかじめ新規サービスを企画する際の制約条件をすべて洗い出してありますが、すべてを公開することはできないため、今回は制約条件の中でも重要なものを3つご紹介します。

①時代性、話題性

たとえば流行るドラマなどは、必ず消費者の中に潜在的にあらわれている意識やその時代ならではの気分や興味関心を含んでいるからこそヒットしています。

つまりとても価値のあるサービスがあってもいつの時代でもヒットするというわけではなく、時代や時の流れにあわせてヒットするものも変わってくるため、時代を先読みすることが重要です。それも新規事業や新サービスを作る場合はスケールまでに3年程度かかる場合もあるため、今現在ではなく、少し先の未来を読む必要があります。そこでSEEDATAの保有するトライブデータベースやfuturewaveを用いた未来洞察が有効になるのです。

今後数年の間に何が話題になりそうか、その時代に合っているかを先読みして、裏付けとともに「このアイデアならば将来もいける」と説得していくことが必要になります。

②持続可能性(リピート)

PoBが成功しても、その人がその先も購入してくれるのか、サービスを利用し続けてくれるのかは必ず質問される項目です。ここでは継続してもらうための仕組み(Hooked Loop)のメソッドも入れながら、どうサービスにハマってもらうか、より情熱を持って使い続けててもらうか、そのための仕組みとロジックを作っていきます。

③緊急性や必要性

「PoBは実証実験環境だからたまたま購入したのではないか」と指摘されることがあります。そこで、この状況下だから購入しなければいけないという緊急性や、このタイミングで必要だから購入しなければいけないというような部分など、何がその購入の要因になっているのかを分析し、ロジックを立てていきます。このロジックを立て、購入の状況やタイミングをほかの場所に転用することができれば、スケールの可能性があるため、将来性も担保しながらサービスを作っていくことができるということになります。

このように、制約条件をあらかじめ洗い出したうえで、それをすべて満たしたサービスであるというロジックと、生活者の生声という事実に基づきながら、サービス実装を進めるというのがSEEDATA流のDeliverの方法となります。

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当連載をまとめたホワイトペーパーができました!サービスデザインの考え方を分かりやすく解説しています(全35ページ・4.98KB)

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佐野拓海
Written by
佐野拓海(Sano Takumi)
アナリスト