【ミラノサローネ2019速報】サービスデザインからみたミラノサローネ ~2019年はGoogleの一人勝ち~

今回は少し趣向を変え、2019年4月にイタリア・ミラノで開催されたミラノサローネの様子をサービスデザイナー視点で分析し、ミラノサローネ全体の印象とこれからについてレポートいたします。

ミラノサローネは、世界最大級の家具見本市です。CESやSXSWに比べると、日本での認知度はまだまだ低い方かもしれません。

なぜなら家具の見本市という名前の通り、基本的にはテクノロジーではなく、インテリアがメインなので、話題に上がりにくいということが挙げられます。家具のショールームの大規模版と考えていただければイメージしやすいのではないでしょうか。

訪れる人はおもに世界中の家具のバイヤーたちで、新しいデザインの家具をセレクトし、

売買するイベントとして、毎年開催されています。

ミラノは面積182km2、市内の端から端までは電車で30分程度というコンパクトな街で、シェアサイクルで街中を移動する人が多く存在します。

実はミラノサローネの本会場はミラノの市外にあります。しかし近年注目を集めているのがミラノ市内の街中で開催されているフォーリサローネ(フォーリ=イタリア語で外という意味)です。

フォーリサローネはいくつかのエリアに分かれていて、メインはブレラ美術館のあるブレラ地区、それ以外にもトルトーナ地区、サンバビラ地区などがあります。

フォーリサローネでは、さまざまな企業やブランドが街中の空き店舗や空きスペースを借りてブースやコンセプトストアを出展します。そこで繰り広げられるインスタレーションや展示が、今世界的に注目を集め、ミラノサローネの本会場以上に、このフォーリサローネでの展示を目的に訪れる方も増えています。

有名どころではルイ・ヴィトン、エルメスなどのハイブランドが毎年豪華な展示をしています。海外のブランドだけではなく、日本のブランドも含めた世界中の企業が、インテリアや空間の展示を通して自分たちのブランドメッセージや世界観を伝えようとしているのです。

フォーリサローネの展示で有名になった日本のブランドとしては、外車にも引けを取らないデザイン力とブランド力を持つ国産車のレクサスがあげられます。

例えばレクサスの2019年の展示では、車のヘッドライト技術を転用し、ライトの追尾機能を使った演出があったり、自動運転技術を転用して、鏡が自動走行してそこに光が反射するといったようなインスタレーションの展示がありました。

ただ、これらの(見た目の)デザインの展示は言語化するのが難しいため、テクノロジーと比べると、言葉では非常に説明しづいです。単純に見た目が美しい、綺麗といった感想で終わってしまうことも多く、展示の様子を魅力的にメディアで伝えるのは困難になっています。個人的には、どこの企業やブランドの展示も洗練されていて美しいものばかりですが、あえてこれを批判的に見ると、見た目のデザインは飽和しているようにも感じられました。だからこそ、(見た目の)デザインの展示だけではなく、そこにどんな「意味」が込められているのかが効果的に伝えられている展示ほど、注目を集めていたように思います。

ミラノサローネの面白い点は、良いと思うデザインが人によってかなり異なるという点です。つまり万人受けするテクノロジーの展示とは異なり、見た目のデザインというのは限りなく個人の好みによるものであり、感動するポイントも人それぞれだということです。そのため、毎年ミラノサローネで「全会一致でこれが一番よかった」といわれるものはほとんどなく、個人がそれぞれ独自の評価をしていました。

しかし、今年のGoogleの展示は確実に頭ひとつ抜けていたといえると思います。

なぜならGoogleの展示は、見た目のデザインに加えて、その先にあるさらなる

「意味」まで踏み込んだ展示になっていたからです。「意味」まで効果的に伝えている展示がまだまだ少ないという印象の中で、今回圧倒的だったのがGoogleの展示であり、Googleだけがインテリアデザインではなく、「サービスデザイン」の展示をしていたといえると思います。

フォーリサローネはそれぞれの地区に、企業やブランドある程度固まって展示を行なっていますが、Googleだけは離れた地域で展示をしていました。これは、まさにGoogleの圧倒的な自信の表れが感じられます。通常、集客したければ、メインの地区の人が集まる場所に設置するものですが、Googleはミラノの端にあるバッドロケーションで展示を行いました。

それでも集客できると予め見越していたということです。

実際、1週間あるミラノサローネの期間中、展示を見るのに毎日3、4時間待ちという大盛況ぶりでした。

今回のGoogleの展示コンセプトは「a space for being(=ありたい姿であれる空間)」。

中に入るとまず5分程度の説明を受けた後、腕にウェアラブルラブルデバイスを装着し、自動的にバイラルデータが取られます。

その先にはGoogleがプロデュースした3つの部屋があり、各部屋に5分ずつ収容されて自由に過ごします。それぞれの部屋の中は、机と椅子、本が置いてあったり、心地よい音楽が流れていたり、独特の香りがしたり、特殊な素材の壁があったりとさまざまです。

3つの部屋を出ると、1対1の仕切りのある部屋でGoogleのカウンセラーと対面し、「あなたがいちばん快適に感じた部屋をバイラルデータから分析します」と言われ、結果を告げられます。

私の場合、3つ目の部屋がもっとも快適に感じた部屋だったということが分かりました。

紙には快適に感じた理由が書いてあり、「コンフォータブル(快適)」の定義も、単純に精神的なリラックスだけではなく、色合いや、刺激などさまざまな軸があり、それらを加味したうえで「この空間がいちばんあなたにとってもっとも快適だった」と教えてくれるのです。

「色合い、素材、香り、音……」とすべてをパーソナライズしてくれるのです。

つまり、人間にはなんとなく好きなデザインや色合いがあり、好みは様々ですが、それらをすべてバイラルデータから分析することで説明できるということです。「デザインは無意識のうちに体に影響を与えている」という裏メッセージをGoogleは伝えようとしていました。

正直、3つの部屋はどれも快適に感じたのですが、Googleは「無意識下で1番快適に感じている部屋をバイラルデータから導き出す」という新しい体験を提供してくれました。

これが何を表しているかというと、AmazonやAppleといった他のテクノロジー企業がミラノサローネに出展しない中で、Googleのみテクノロジー企業としてミラノサローネに出展しているということが関係しています。そもそもテクノロジーの本質とは、人が「速く走りたい」と思ったから車ができたように、人間の機能や能力を拡張するものです。

一方、今回のGoogleの展示は人間のセンスや好みを拡張しているといえるでしょう。「何となくこのデザインがいい、こっちが好き」という曖昧な好みを、自分のバイラルデータから説明できるようになれば、今まで何となく選んだり、選ぶのに迷ったりしていたものが、Googleのテクノロジーを活用することで、データに基づいて選ぶことが可能になります。

これは前述したミラノサローネでの「デザインの好みは人それぞれ」という話にも繋がっています。言葉では説明しづらい、説明できないセンスや感覚をテクノロジーを通して説明できるようにする、ということを3つの部屋で過ごすという体験を通してGoogleは伝えていたのです。

このように体験を通して新たな価値を提供することこそがサービスデザインの本質であり、明らかにGoogleの展示は、インテリアやプロダクトデザインの展示とは異なる展示だったといえるでしょう。

さらに、Googleの展示を体験したインテリアバイヤーは、この仕組みを使えば家具の売り方、選び方が変わると気が付くことになります。

とくに家具の好みは個人によって異なるため、これまではユーザー主導で家具の選択が行われていました。しかしこのテクノロジーを活用すれば、バイラルデータに基づいて「自分の身体においては、このデザインが最も快適だ」と判断できるようになるため、家具の選び方が変わっていきます。

Googleという企業の強みはビッグデータ分析ですが、それを見事にインテリアと融合させ、なおかつ魅力的な顧客体験としてまとめあげているという点でサービスデザイン的な展示になっていました。

たとえ4時間待ちでも人々が求めているのは、このような新しい体験なのです。デザインは一部のデザイナーだけのものではない、見た目だけのデザインの次をGoogleが提示した、まさに未来を感じられる展示だったといえるでしょう。

今回のGoogleの展示は、今後ミラノサローネでデザインの見せ方が変わっていくきっかけとなる、節目の展示のように感じました。Googleのような展示が増えていくことで、一部のインテリアデザイナーやプロダクトデザイナーだけでなく、さまざまな人から注目を集めるデザインの祭典になっていくのではないでしょうか。

佐野拓海
Written by
佐野拓海(Sano Takumi)
アナリスト