【トライブレポート紹介39】食系サービス・新規事業開発のヒント(食リッチ)

はじめに~トライブレポートとは

SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。

トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング、支援を行っています。

トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。

トライブレポートの読み方

これまで「美食」という言葉は、「綺麗・高級・一等地」といったイメージに代表される存在であり、この言葉の響きからは、高級食材を扱っている三ツ星評価を受けた店に富裕層が足を運ぶシーンが思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。

こうした食事を、美食家が飲食界の門番として評価し、いわゆるステレオタイプな美食は守 られてきました。

しかし、たとえばテレビ番組「汚なトラン」では、店回りは汚いが味は美味しい店を紹介するなど、これまで考えられてきた美食とは異なる切り口が、評価されるようになってきています。すなわち、食において 「名より実を取る」考え方が広まっているといえるでしょう。この考え方は、これまで美食と考えられていた高級食も例外ではなく、美食や高級食の再定義が求められています。

食リッチのレポートに書かれていることは2018年現在、すでに世の中に出てきていることが多くあります。

調査の経緯として、当初は富裕層のトライブリサーチを考えていましたが、「単に可処分所得や資産の多い人がトライブなのだろうか?」という疑問が浮かび、それよりも特定の分野に関して富裕モードでお金をかけている人のほうが哲学がありそうだと考えました。何故そこにだけお金を使っているのか、こだわりを持っているという意味でもトライブっぽいのではないかということになり、富裕層調査ではなく「〇〇リッチ」を調査することになりました。

では何故食にスポットを当てたのかというと、カリスマレビュアーの調査で気が付いていたことですが、昔のレビュアーは「これは〇〇産で、〇〇製法で、シェフは〇〇で修行をして……」という分析、評論型でした。一方現在は「ここはこんな雰囲気で、こんな人たちがいて、こんな世界観で……」など、ビジュアルが思い浮かぶような感覚型のレビュアーが増えてきています。

このことから、美食の概念自体も、昔のような評論家型ではなく、違った形で感性豊かに生かしたものになっていくのではないかという仮説がありました。

そう考えたときに、専門的な話を消費者に聞くのは難しいということで、今回は新しい食の可能性にチャレンジしている4名のシェフにインタビューを依頼し、彼らが、作り手としてではなく食べ手として インスピレーションを受ける店舗へ一緒へ出向き、食事をいただきながら、 シェフ同士の対談も交えながらの インタビューを実施しました。

プロのシェフが作り手ではなく、食べ手として足を運ぶ店選びの基準やそこでの料理に対する評価は、単なる食べ手としてだけではなく、「食の作り手のプロ」としての考えが少なからず影響するはずです。作り手と して食を極めた彼らが選ぶ食とは何か、彼らは食からどんな価値を見出しているのか。これまであまり知られていなかったシェフの食べ手としての価値観を知ることで、プレミアム食のこれからを探ります。

今回のデスクリサーチセグメントは以下の4通りです。

今回のデスクリサーチは以下の4点を基準にして、お店をピックアップしています。

1.哲学がある

ヒトサラなどのシェフの考え方や哲学を含めて伝えていくサイトに露出しているなど、自身の哲学を持ち、表現しているシェフ。

2.チャレンジがある

既存のスタイルに囚われず、味・価格・提供形態・店舗内装・情報発信のやり方など、何かしら新しいことに挑戦しているシェフ。

3.リスペクトがある

シェフにインタビューを実施していく中で、「あそこは注目している」 「行ってみたい」と紹介され、同業者から のリスペクトがあるシェフ

4.越境がある

単に「イタリアン」「中華」といったジャ ンルに当てはまらない、複数の領域をまたいだ食体験を提供しているシェフ

先進的なシェフたちが自分が客として行ってみたいお店なので、つまり、リスペクトしているシェフのいるお店ということになります。ジャンルは同一ジャンル同士に限らず、たとえばイタリアンのシェフが中華に行くということも当然あります。

今回対談していただいたお店の中から本記事でご紹介するのは以下の4店です。

■サーモン・アンド・トラウト

シドニーの『TETSUYA’S』で働いた後、『湖月』、『タパスモラキュラーバー』、『246コモン』で腕を揮ってきた森枝幹シェフの レストラン。

店内には自転車がつるされ、一見サイクルショップにも見えますが、置いてある自転車は売り物であり、営業中にはサイクリストが修理に訪れることも。料理は10品¥6,500のコースのみ。酔っ払い海老や鹿カツと、ジャンルに捉われない料理で人びとを魅了する。お酒のセレクトにおいても、日本酒やワイン、ビール、〆の三河みりんというマニアックな品種と捻りあるペアリングが独創的な料理を一層楽しくしてくれる。

食材は青山のファーマーズマーケットや渋谷のチーズスタンド、群馬の農家の野菜、山梨の鹿肉など、繋がりのある人たちから直接仕入れるというアナログな交流の一方で、facebookやinstagramで客と関係を構築していく様はまさにSNS世代の象徴のような存在。

■食と燗 くら川

大将の蔵川雄貴氏は、埼玉を代表する銘酒居酒屋「和浦酒場」で10年間板長を務め、34歳でこの店を開いた。店の内外装や食器、酒、 料理、調理道具にまで蔵川さんのこだわりが込められており、その名の通り、蔵川さん自身のセンスと価値観を体現した店になっている。

お燗番の女性は、「和浦酒場」で腕を磨いた「すぅさん」こと鈴木さん。それぞれの銘柄の味わいを引き出すだけでなく、料理との相性、 客の呑むペースや酔い具合、好みや体調まで考慮して、絶妙に温度を調節する。 料理はすべて日替わりで単品での注文もできるがメインはコース。5千円から千円刻みで用意してもらえる。

■山田チカラ

言わずと知れた日本を代表する料理人である山田チカラ氏が満を持して2007年にオープンしたお店。メニューはなく完全予約制。山田氏が予約受付時に、そのお客様の話を聞き、インスピレーションを働かせて『最高のお任せ料理』を提供する。

南麻布の路地を入ったところにある店内は、とてもシンプルなギャラリーを思わせるカウンター席が並ぶ。奥には炉を切った本格的な茶室もあり、まさに知的好奇心旺盛な子供の純朴さをもった山田氏のヴィジョンが反映されている。

■チッタ アルタ

伝説のレストラン『エル・ブジ』で磨いた技と比類なき感性がほとばしる創作イタリアン。小石川、伝通院近くのチッタ アルタは、小じんまりした佇まいながら独特の存在感を放つイタリアンレストラン。茂呂オーナーシェフは、世界中の食通たちに愛されたスペインの名店『エル・ブジ』やイタリアの名店『ダヴィットーリオ』といった名立たる店で、通算7年間に渡り修行を重ねた。

コース料理の前菜として登場するのはいずれも手の込んだ品々で、見た目の愛らしさや楽しさに、一口ごとに味のバリエーショ ンの感動が広がる。

まず、多くの料理人が注目するサーモン&トラウトの森枝さんが客として行きたいお店が埼玉の浦和にあるくら川でした。インタビュー時はお店を借し切っていただき、さまざまな話をした結論は「味なんて料理の20%くらいしか占めていない」ということです。

以前であれば食事を提供する際には「〇〇の食材で調理法は〇〇で……」という説明をしがちでしたが、森枝さんはあえて何の食材かも伝えず、実際に食べて五感で感じてもらってから説明するという、これまでの分析型とは異なる感覚を重視するスタイルで食事を提供しています。このように驚きや、食べる人をハッとさせる体験こそが、食のプレゼンテーションの在り方なのです。

これは飲食店はもちろん飲食に携わるすべての人にとって重要なキーワードです。

また、近年若者の酒離れも叫ばれていますが、原因は「単に酒がまずくなったから」というシンプルな考え方を持っていたことも特徴です。つまり、文化や価値観的な背景によって、特定の食材から人びとが離れていくと思われがちですが、本当は単純に味が劣化している、そもそも今求められている味ではないということなのです。

頭でっかちに考えず、しっかり自分の感覚で味わえるようなプレゼンテーションが、これからの食には求められる。これはカリスマレビュアーとも通ずるところがあり、消費者もそう変化しているし、作り手のインタビューからも分かりました。

一方、チッタアルタの茂呂さんには「『エル・ブジ』で修行してきた茂呂さんが行きたい同じ『エル・ブジ』出身のシェフのお店はどこですか?」と尋ねたところ、選んだお店が山田チカラ氏のお店でした。この2名は伝説のレストラン、『エル・ブジ』で働いていた数少ない日本人シェフのうちの2名です。

茂呂さんの考えで森枝さんと共通しているのは「トータルのバランスが重要」ということでした。味付けはごちゃごちゃ複雑にせずシンプルにし、順番や見せ方といったプレゼンテーションを変えたほうがいいということは、商品開発や食品開発に非常に参考になる話です。

たとえば、普通の懐石ではご飯は最後と決まっていますが、最初にご飯を出すという演出をしたり、窒素を利用した科学的なアプローチで、醤油をもこもこにして刺身につけるなど、シンプルな味をおもしろさとともに食べるという手法をとっていたりします。

このことからいえる、今後の食の作り方のヒントは「機能疲労」というキーワードです。

つまり、「機能が多すぎると疲れる」ということはこれまで耐久財においてはよく言われていましたが、食事においても同様の現象が起きているのです。

過度に作りこまれたコースは食べ手側を疲れさせ、心も体もお腹いっぱいになりすぎてしまうため、あえて緩急をつけ、味に抜けた部分を作ったり、シンプルにする瞬間を作ることが必要です。消費者も食に機能疲労しつつあるので、そこを取り除くことを先端的な食リッチたちは求めているのです。

サーモン&トラウトの森枝さんも「全部が印象に残る料理は逆に疲れる」と話しているように、これは耐久財だけではなく、今後の食全体を食を考えていく際に重要なのではないでしょうか。

最近は作りこまれすぎた料理が増え、食べていて疲れてしまう料理が多いため、疲れない味付けや食べ方、「疲れない」といったコンセプトで料理や食品をデザインしていくことは大きなチャンスといえるでしょう。

また、食リッチのレポートのvol.2では、以下の4名のシェフのお店を紹介しています。

■ア・ニュルトゥルヴェ・ヴー

広尾にあるフレンチレストランア・ニュ トゥルヴェ・ヴー。店名は仏語で「ありのままの」を意味し、上質でありながら、自分本来のありのままの姿を取り戻すかのように、自然体で過ごせるレストラン。シェフの下野昌平氏は、全国の生産者から届けられた旬の食材を仕様し、食材のありのままの美味しさを引き出すことを得意とする。

また、料理に合わせ、複雑な香りを持つ熟成したブルゴーニュやシャンパーニュのストックが充実。シンプルかつ上品なテイストでデザインされたインテリアやサービスのレベルも秀逸。予約してから食事に行くまでワクワクしながら待てる、フレンチの名店の一つ。

■重よし

22歳で日本料理の道に入り27歳のとき、修業先の名古屋の店の名前をもらい、東京・原宿に「東京・重よし」を開店させた佐藤憲三氏。

お客様との巡り合いを大切にし、一 人ひとりの想いに応え、喜んでいただけるよう、思いを込めて料理を提供することを心がけており、失われつつある地方の郷土料理や、自然の恵みにもヒントを得て、献立のなかに柔軟に取り入れている。

■AMBIGRAM(アンビグラム)

シェフの伊沢浩久さんは芦屋の 「ベリーニ」で4年間修業を積み、銀座の「エノテーカ・ ピンキオーリ」を経てイタリアへ。中部~北部を中心に、 3つ星、1つ星、トラットリアなど様々なタイプの料理を習得。帰国後「イル・カランドリーノ東京」を経て、 「AMBIGRAM」オープンとともにシェフに就任。

■タランテッラ・ダ・ルイジ

白銀高輪駅からほど近い場所にあるタランテッラ・ダ・ルイジ。ガエターノ・エスポズィ氏とアントニオ・スタリタ氏など、 巨匠と呼ばれる職人の元で7年の修行を経た、寺床シェフ による、南イタリア料理店。絶品のナポリピッツァやナポ リの郷土料理を楽しむことができる。料理だけでなく、薪窯や内装、小物類など、店内の雰囲気まで ナポリらしさが追求されており、日本にいながらにしてナ ポリを堪能することができる。

ア・ニュルトゥルヴェ・ヴーの下野昌平氏は佐藤憲三氏の重よしへ、AMBIGRAMの伊沢氏は同じイタリアンのタランテッラ・ダ・ルイジを訪れました。

インタビューの中では美食の概念のようなものがいくつか登場しましたが、ここでは食メーカーではなく技術系メーカーのヒントをご紹介します。

これまでの美食では「〇〇な切り方」など、クラシックな技術での遊びを取り入れつつ料理を作ってきましたが、それもやりつくされ、今は化学による遊びの要素が増えてきました。その遊び用の技術が今求められていて、例としてそのひとつが液体窒素です。

化学系の会社は今後の食の見た目や遊びの部分でさまざな可能性のある新商品を上梓できるのでは無いでしょうか?

食材をやわらかく煮るなどのクラシックな料理法だけではなく、プレゼンテーションの部分でテクノロジーを持っている会社は、これからの飲食店向けのツールやサービスで大いなる存在感を発揮するでしょう。

記事ではこれ以上はご紹介できませんが、ほかにもトライブレポートにはおもしろい機会領域が数多く掲載されているため、お問い合わせの際は、まずは気になるトライブレポート名と「〇〇ビジネスをやっています」ということをお伝えしていただければ、我々がトライブレポートをもとにビジネスアイデアをいくつかご提案し、コンサルティングさせていただきます。

あとは皆さんの会社がすでに持っているリソースと掛け合わせて、新規事業の場合はビジネスモデルを変える、または新商品・新サービスを生み出すなど、それぞれの課題に対応いたします。

たとえば、新商品を作りたいという会社の場合、SEEDATAが提携している会社とこのトライブが世の中に何万人いるかを調査し、その人たちにテストマーケティングしてみて伸ばしていくことも可能です。また、サービス開発の場合もプロトタイプを作ることができますし、ビジネスモデルの場合でも、ビジネスモデルに関する検証された知識を手に入れるPoB(Proof of Business)のプロセスに入ることも可能です。

SEEDATAへのお問合せはこちらから(コンタクトフォームに移動します)。

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宮井 弘之
Written by
宮井 弘之(Miyai Hiroyuki)
SEEDATA 代表