【トライブレポート紹介55】ワークスペース、インフラ系新規事業・新サービス開発アイデアのヒント(ハードノマド)

SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。

トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング、支援を行っています。

トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。

SEEDATAではこれまでも「多忙族」「ネオノマド」「マイクロワーカー」など働き方に関する調査をしてきました。

その中でも「ハードノマド」の特徴は「移動」にフォーカスして調査をおこなったという点です。

単なる「ノマド」ではなく「ハード」とついているのは、激務を表しています。彼らに近いトライブとしては多忙族があげられますが、ハードノマドの特徴は、移動中の工夫によってうまくやりくりしているということです。

彼らは作業場・働く場所をひとつに固定せず、オフィスがあってもカフェで働いたり、オフィス、コワーキングスペース、カフェなどの拠点をいくつも持ち、さまざまな場所でさまざまな人と働いています。

まず、今回の調査対象者のセグメントは以下の3つです。

多拠点ワーカー

さまざまな拠点を持ち、長距離の移動をしている人。

たとえば、関西にある技術系の企業につとめる方、都内でさまざまな人と打ち合わせをしながら企画書を書きつつ、関西のチームにディレクションをしています。

都内であればインプットは図書館、コワーキングスペース、自宅、関西には本社、自宅、よく行くコワーキングスペース、カフェなど、東京と関西という大きく2つの拠点の中でもさらに3箇所ずつくらい場所を分けていることが特徴です。

東京、関西という2拠点が離れているため、必然的に移動が多い日々になりますが、その時間も自分の仕事にとってプラスと捉え、インプットやアイデアを考える作業の時間にしています。これはネオノマドと近い価値観といえます。

ただ、ネオノマドと異なるのは、ネオノマドは移動をオンとオフに分け、合理的に働く時間とクリエイティブな時間をという風に使い分け、モードの切り替えではっきりと作業が異なっていました。

一方、ハードノマドの場合はどちらも仕事に結びついています。かつ、いわゆる都会=仕事の場、地方=休息、クリエイティブ、副業というような使い分けではなく、移動中も次の移動先での戦略を立てる時間、スケジュール調整の時間という風に捉えています。

移動時間をデスクワーク以外のことにあてるという観点は共通ですが、そもそもの移動する目的が異なることが特徴です。

スイッチワーカー

スイッチワーカーは必ずしも長距離移動はせず、都内から出ない場合もありますが、おもに副業や起業などで事務、企画、広報、資料作成など、一人で性質の異なるさまざまな仕事をしている人たちです。

通常のオフィスワーカーであれば自分の固定デスク、つまりずっと同じ場所で作業することになりますが、一度に複数の性質の異なる仕事を進行させなければいけない場合、自己マネジメントが難しいという課題があり、スイッチワーカーたちは混乱に陥らないために自ら作業場所と作業内容を結びつけて考えているという特徴がありました。

たとえば、「この作業にはこの場所」と決めて、このカフェではこの仕事、シェアオフィスではこの仕事、アトリエではこの仕事など、使い分けることで、意図的に混乱を避けています。

「この作業にはこの場所」と自分のやりたいことに対して、もっとも理想的な作業環境、作業場所が自覚していることが理想的であり、それをかなり自覚的におこなっているという特徴がありました。

スイッチワーカーの価値観に近い大きな社会背景として「仕事内容に合わせて働く場所や机などを選ぶ生き方=アクティビティベースドワーキング」という言葉も広がり始めています。

異なるのは、アクティビティベーストワーキングはあくまでもオフィス内であるということで、たとえば個人的な作業ができる場所、プライベート性の高い執務室、打ち合わせに適した開放的スペース、外に声が聞こえない会議室など、「これをやりたいからここに行こう」と作業によって場所を変えることが生産性を高めるといわれています。

それをオフィス内に限定せず、より自分に合う作業環境を目的に合わせて使い分けている人たちがスイッチワーカーです。

企業に務めている場合、社長のようなポジションの人は、平日はオフィスで働きつつ土日はスイッチワークという働き方をしている人がわりと多くみられました。

また、スイッチワーカーには副業をしている人や、企業に勤めていてもさまざまなプロジェクトを横断している人が多くいました。

彼らは場所を切り替えることで、意識的に自分の脳の使い方を切り替えているのではないかというのがSEEDATAの分析です。

ホッピングワーカー

スイッチワーカーと多拠点ワーカーの中間がホッピングワーカーです。

今回の調査対象者はわりと若めの方が中心で、起業家や、エンジニアなど、種類の異なる多くの仕事をひとりでこなさなければならないという環境にありました。

多拠点ワーカーほど移動距離は広くありませんが、たとえば都内にいくつかの拠点を持つなど、狭い範囲をレンタルサイクルなどを活用して行き来する、細かい移動を頻繁に繰り返しています。移動という体験を気分転換や単なる手段としてではなく、目的意識を持ち能動的に移動していることが特徴です。

たとえば、徒歩での移動は、街中を歩くことでリフレッシュとして捉え、このリフレッシュも仕事のうちと考えていたり、自転車に乗りながら何かを聞いてインプットの時間にあてたりしています。

ハードノマドは基本的に激務の人たちだと説明しましたが、とはいえ物理的にずっと働き続けることは不可能です。それでも、次の仕事が待っているというときに、彼らは移動を効果的に使うことで激務をこなしていました。適度に気持ちの切り替えをおこなう必要があり、それが移動に結びついているのです。

ハードノマドは移動がひとつのフォーカスポイントですが、その中でも、ある地点からある地点に移動しなければいけないときに、「目的に合わせて移動手段を変える」という行動がみられました。

たとえば、カジュアルな打ち合わせのあとにフォーマルな会合がある場合、フォーマルモードに切り替えるためにあえてタクシーという移動手段をとることで自分のモードを切り替えています。逆に、カジュアルな打ち合わせに向かう際は、発散のため景色を見ながら歩き頭を整理したり、プライベートに戻る際は電車でカジュアルな本を読むなど意識的に移動手段の切り分けをおこなっています。

このように、常にさまざまな自分の役割(モード)になる必要があり、移動の間にモードの切り替えを徐々におこなわけなければいけないので、その手段として移動体験を利用しているのです。

一般的な人はオフィスとプライベートという2軸ですが、「プライベートと仕事の区別があまりない」という点もハードノマドを理解するうえで大きなテーマといえます。

ハードノマドは所謂オンとオフ、地方と都内というような二軸ではなく、すべてが仕事につながっているため、その中で少しプライベートよりな仕事、フォーマルな仕事、インプット作業、アウトプット作業という風に、生活と仕事が溶け合っていて、その中でモードに合わせて自分を変化させていく必要がほかの人に比べて高いといえるでしょう。

そこで移動手段や作業場所といった外部環境を意図的に変え、自分のモードの切り替えに役立てています。

また、スケジュールもすべて自分で管理する必要があるため、「〇曜はこの作業」「〇曜は定例打合せ」などスケジュールを先に決め、それに従うように働いているという特徴もありましたが、スケジュールも一種の外部環境のように捉えているといえます。つまり、

〇〇な移動体験をして〇〇なモードになっていく

〇〇な作業環境で働いているから〇〇なモードになっていく

〇〇なスケジュールなので〇〇な働き方をする

という風に、この調査を通じて分かったことは「自己マネジメント」がハードノマドたちにとっての大きなテーマになっているということです。

彼らは周囲の環境に対する敏感さを持っていて、作業場所ひとつとっても、

・少し人目があったりザワついているほうがやりやすい作業

・静かなほうがいい作業

・照明や空調がこうだからこういう作業

など、細かいレイヤーで作業場所を把握し、モードの切り替えに役立てています。

モードの切り替えということを考えるときに、「どうして同じ場所では作業できないか?」という疑問があるかもしれません。これはフリーランスたちが「自宅では仕事がはかどらない」ということと同様で、オフィスであれば電話対応や同僚との雑談、自宅であれば趣味や家事など、少し気を許すとほかのことに気が飛ぶ要因が周りにいくらでもあり、やらなければいけないことや、やりたいことが多すぎるという問題があるためです。

一方カフェなどは、それらを気にせず、自分のやりたい作業のことだけを考えられる空間になっているため、彼らにとっては価値があるのです。

ハードノマドたちはその中でもさらに細かいレイヤーでやりたい作業が細分化されていて、それに応じて場所が紐づいています。

ハードノマドの調査から得られたプロファイルのひとつに「あえて長居しないために、負荷がかかる環境に行く」というものがあります。

最近のコワーキングスペースは24時間いられるところも多く、居心地のよさこそが大切と思われがちですが、落ち着きすぎるとずっとダラダラいてしまい、結果作業効率は落ちてしまいます。

この観点でみると、Yahoo!が運営するコワーキングスペースの「ロッジ」は、22時に閉店してしまうため、終了時間を逆手にとって強制力にしているワーカーも多いかもしれません。

決められた時間までに終わらせなければいけない環境にあえて身をおき、自己マネジメントしているのです。

今後ノマドワーカーが増加していくことは明らかですが、仕事とプライベートを分けないような働き方をする人が増加した未来のオフィス環境において「人が集まって働ける場所だけ」という場所の価値は薄まっていくでしょう。

たとえば、アーリーウォーニングサインとして、ジムがオフィス内にあったり、オフィス内に睡眠スポットがあったり、境目がなくなってきている人のプライベートにオフィスが寄り添いサポートしている事例もあります。

また、興味深い事例として紹介したいのが「バスハウス」というワークスペースです。

ワークスペースとして運営していますが、銭湯とクラフトビールにフィーチャーしていて仕事ができるという価値はあとにきています。

最近、とくにミレニアル世代の間でみられる、仕事とプライベートの明白な差を作らず、趣味のように働くという考えかたをSEEDATAでは「チルワーク」と呼んでいます。

これまでのように仕事が終電で終わらず仕方なく会社に泊まるワークスタイルではなく、仕事中も少しプライベートなことをしたり、プライベート中は仕事にいかせることを探したりするようなうまく融合したハイブリットな働き方が広がっていくのではないでしょうか。

実際、副業も収入のためだけではなく、気分転換や情報収集のためにあえて別の仕事をしているという人も増えています。

気分転換としておこなえる仕事があるように、自宅でもなく会社でもない場所でゆるく働くスタイルを選択する人が増加していくことが予想され、すでにそのニーズに対応した飲食店の事例も登場しています。

ハードノマドのリサーチから得られたのは、「移動はせざるを得ない消極的なものではなく、リフレッシュのための積極的な時間になる」という未来です。

この分析から考えられるインフラ系のビジネスチャンスとしては、同じ移動手段を使っている人は実は目的意識が近い可能性が高いため、たとえば、同じ新幹線に乗っている人同士の話すきっかけ作りなどは、新しいサービスを生み出すヒントになるのではないでしょうか。

最近ではフェスに行く際の車の相乗りサービスなども人気ですが、自分の興味分野と同じ、もしくは異なるが話しかけたいと思えるような雰囲気や仕組み作りができれば、移動時間に新たな価値を生むことができるでしょう。

記事ではこれ以上はご紹介できませんが、ほかにもトライブレポートにはおもしろい機会領域が数多く掲載されているため、お問い合わせの際は、まずは気になるトライブレポート名と「〇〇ビジネスをやっています」ということをお伝えしていただければ、我々がトライブレポートをもとにビジネスアイデアをいくつかご提案し、コンサルティングさせていただきます。

あとは皆さんの会社がすでに持っているリソースと掛け合わせて、新規事業の場合はビジネスモデルを変える、または新商品・新サービスを生み出すなど、それぞれの課題に対応いたします。

たとえば、新商品を作りたいという会社の場合、SEEDATAが提携している会社とこのトライブが世の中に何万人いるかを調査し、その人たちにテストマーケティングしてみて伸ばしていくことも可能です。また、サービス開発の場合もプロトタイプを作ることができますし、ビジネスモデルの場合でも、ビジネスモデルに関する検証された知識を手に入れるPoB(Proof of Business)のプロセスに入ることも可能です。

SEEDATAへのお問合せはこちらから(コンタクトフォームに移動します)。

【この記事の監修者】

梅澤 健二郎。

株式会社SEEDATAアナリスト。慶應義塾大学環境情報学部卒。

大学では文化人類学やコミュニケーション学を専攻。

2019年4月、インターンシップを経てSEEDATAの新卒社員として参画。

コミュニティ開発事業や雑誌の読者調査、商品コンセプト開発などに従事。

コンテンツ消費、働き方、多拠点生活者などの各種リサーチに参加。

興味領域は地域コミュニティや食を介したコミュニケーション。

週末は地元の湘南でスローライフを送っている。

梅澤健二郎
Written by
梅澤健二郎(Umezawa Kenjiro)
アナリスト