トライブリサーチにおけるサンプルサイズの考え方

トライブリサーチの考え方は世界的にも類をみませんが、最近、広く社外向けにセミナーをおこなうことや、海外の方にSEEDATAの説明をする機会が増えたため、一般的なマーケティングリサーチや、社会調査の経験者から、「1人や2人だけを見てしまって大丈夫なのか?」という疑問が寄せられるようになりました。

こういった不安や疑問を抱く方に対し、あらためてSEEDATAのトライブリサーチの考え方を理解していただくために、今回はトライブリサーチにおけるサンプルサイズの考え方を解説します。

 

よく「トライブとは、(その行動や価値観を持つ人が)何人くらいいればトライブになり得ますか?」というご質問をいただきます。この質問に対して「ゼロはダメだが1人いればよい」というのがSEEDATAの回答です。

まずN0とN1の違いに関しては、SEEDATAのN1リサーチについての記事をご覧ください。

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通常SEEDATAのトライブリサーチでは、5~8人、多くて12人くらいをリサーチします。

ここで、

「N1は根拠として薄弱だからダメだ」

「N1で大丈夫なのか?」

と脊髄反射的に疑問に感じてしまう人がいます。

そのような方は、SEEDATAの定義するトライブリサーチのフレームワークや概念をお読みいただき、そのうえであらためて、サンプルサイズにどのように向き合うべきかを考えましょう。

 

まずN=1やN=5などに不安を覚えてしまう人にありがちなのが、

サンプル数とサンプルサイズの違いを確認せずに怖がる

ということです。サンプル数とサンプルサイズを峻別していない方がいます。

 

1回のアンケートで100人が答えた場合、

サンプル数1

サンプルサイズ100

です。

 

トライブリサーチをおこなう際も、「サンプル数1、サンプルサイズ5」の調査なのか「サンプル数10、サンプルサイズ5」の調査なのかで全く変わってきます。

SEEDATAは基本的にリーンスタートアップに代表される、仮説をたてて検証する姿勢を持っていますが、トライブリサーチで「N=1でもトライブといえる」と言っているのは、N1だけで調査を終わりにするという意味ではありません。定性調査を繰り返してサンプル数を増やすこともありますし、1000人のサンプルサイズからなる量的調査を行うことがあります。このことを理解しないまま、「サンプルサイズ1、サンプル数1」の調査と思い込んでいることが問題なのです。

 

このことをもう少し分かりやすく説明します。思い出していただきたいのが、調査には

・探索的調査

・実証的調査

の2種類があるということです。

 

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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N1に脊髄反射的に不安を覚えてしまう人は、社会調査の仮説検証型の実証の際のデータ取得に関して、「頻度統計的見地から有意性がない」と言いたいのではないでしょうか。

つまり、「リサーチ」という言葉を聞いたとき、そこにはすでに仮説があり、それを頻度統計的な感覚から実証するという前提をもってしまっているのです。

 

トライブリサーチは探索的調査ですが、社会科学調査でも、探索的調査の段階で頻度統計学の観点から、サンプルサイズを気にしている研究者は少数派なのではないでしょうか?探索調査の段階ではヒアリングや対話がかなりの頻度で用いられますし、その後ある程度サンプルサイズを増やした調査でもビジネス系の論文であれば「manegirial wisdom」という項目で割と少人数からの聞き取りで得た項目を検証仮説項目に入れてますよね?

N1に不安を抱く方は、ドライブリサーチが探索的調査に位置づけられている点を誤解している可能性があります。

 

ビジネスで調査というと、常になにかしらの仮説があり、その仮説を頻度統計の枠組みで実証しようとするものですが、みなさんが学校で習う統計学の授業では、たとえば「平均年齢20歳の集団と平均年齢10歳の集団では身長が有意に異なる」といった命題が与えられます。しかし、SEEDATAが行うトライブリサーチは、そもそも命題のないところからスタートしているため、探索的的調査が必要なのです。

 

つまり、実証すべき仮説の前に、どのような主張をするのか(=命題)が必要になりますが、これまでのビジネスでは命題の手に入れ方自体がブラックボックスでした。

N1に疑問を感じたみなさんは、これまでの命題は上司やクライアント、ビジネス雑誌から降ってきて、それを1000人アンケートなどで実証してきたのではないでしょうか。

SEEDATAはそもそも命題を整理し、仮説にしていくことに関して探索的な調査手法を用いているため、この段階においてサンプルサイズはそれほど重要ではないのです。

しつこいようですが、さらに違う角度から説明しましょう。トライブリサーチをもう少し実務的にビジネスマンのフレームワークに落とすと、確信のリサーチと確証のリサーチの、確信のリサーチです。

 

起業家の確信のフレームワークについてはこちらの記事をご覧ください。

新規事業を成功させる起業家脳の作り方④市場調査を信じない
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このように、これまでブラックボックスでやり過ごしてきた部分をSEEDATAが手法化しているため、驚かれたり疑問に感じたりしてしまうのです。

トライブリサーチでは、まず、探索的リサーチの中からアブダクションを用いて説明仮説(実証に進めてもいいと思う目の前の現象説明のための仮説)を導き、確証をとる際には、統計学的手法を用いて実証をしていきます。これがSEEDATAが社会科学に向き合う際の態度です。

 

以上のことを理解していれば、「N1リサーチ」と聞いても驚くことはありませんが、「N1は根拠とならない」という方は、逆に、何を根拠に命題を設定していたのでしょうか。根拠に根拠を求め続けていくと無限後退問題に突き当たりませんか?心配です。

CiNii 論文 - 無限後退問題とエフェクチュエーション
無限後退問題とエフェクチュエーション 栗木 契 国民経済雑誌 211(4), 33-46, 2015-04

SEEDATAのトライブリサーチでは、学校の勉強やルーチンワークと異なり、命題は降ってきません。このことをあらためて理解していただければ幸いです。

宮井 弘之
Written by
宮井 弘之(Miyai Hiroyuki)
SEEDATA 代表