トライブ・リサーチにおけるN1の考え方と具体例の紹介

SEEDATAでは、トライブに対する調査をN1から実施しています。今回の記事では、なぜたった1人を深掘りすることに効果があるのかという点について以下の3つの観点から解説します。

  1. N0とN1には大きな違いがある
  2. アイデアはN1000ではなく、N1から作る
  3. 実際に行ったN1調査の事例紹介

 

N0とN1には大きな違いがある

 

トライブ・リサーチをする際に「たった1人でいいのか?」「これだけの人数だけで理解できるのか?」と心配する声があります。もちろん1人からすべてが分かるわけではありませんが、1人の調査からでも実に様々なことが分かります。また5人ほどに話を聞けば、トライブが有する価値観のほとんどを理解することができると私たちは考えています。

 

アメリカのマーケティング・リサーチと分析に特化したニールセン・カンパニーの代表Jakob Nielsen氏は「ユーザーテストで5人を越える調査は時間の無駄である」といいます。何故なら5人に聞くだけで15人に聞いた場合の80%以上のデータが取得できることが分かっているからです。このように、探索的リサーチは、多くても5~6人に話を聞けば十分な情報を収集することが出来るのです。

<出典>https://www.nngroup.com/articles/why-you-only-need-to-test-with-5-users/

ニールセンのデータにもあるように、私たちSEEDATAは過去4年間に渡り80回程度のトライブ・リサーチを積み重ねてきた中で、5人程度に話を聞けば、そのトライブに関するほとんどすべてのことを理解することができるという実感を持っています。

また上記の図を見ると、1人に話を聞くことにも十分に意味はあることが分かります。ニールセンのデータによると、0人から得られるデータは当然0%ですが、1人に聞くだけで約30%のデータが得られると示しています。2人目に聞くとそれが50%超えにまで増えます。たった一人だけからの情報だともちろんランダム性に支配される可能性がありますが、2人目に聞くことで1人目との違いと共通点を峻別することができるようになり、より確かな手応えを得ることができます。1人と2人の差にも大きな違いがあると言えます。このように考えると0人と1人の差は大きく、むしろ5人と15人の差はそれほど大きくないことが分かります。そのため、探索的リサーチにおいては、最初に話を聞く5人が非常に重要になります。

もちろんケースバイケースで臨機応変に対応していく必要があります。例えば、調査に参加するメンバーにとってほとんど馴染みのない外国でのリサーチであれば、対象者の人数は多めに設定する方が安心です。ベトナムのことをほとんど知らない状態でベトナムの若者の食品購買行動や自宅での調理行動の分析をする際には、1人から分かることは依然として非常に大きいと考えられますが、慣れ親しんだ環境での調査に比べて多めの人数を設定したほうが理解が深まるでしょう。

一方で、調査対象人数が増えれば増えれるほど手に入る情報が減少するのは、どの市場においても同様であり、むやみに調査人数を増やせばいいというものではないとJakob Nielsen氏は解説しています。

アイデアはN1000ではなく、N1から作る

新しいアイデアや価値を発想するための探索的リサーチで必要なのは、確信です。これは調査を通じて自分自身が「このアイデアであればいける」と確信を得るために行います。

 

確証と確信のリサーチについては詳しくはこちらの記事をご覧ください。

新規事業を成功させる起業家脳の作り方④市場調査を信じない
SEEDATAではこれまでも、新規事業を進めている企業からご相談を受けて参りましたが、近年さらに、新規事業、新価値を創造したいという企業が増え、その際の新規事業部の進め方や制度の設計方法について質問され、コンサルティングする機会が増えてきま...

 

SEEDATAではアイデアの発想段階では、プロジェクトメンバーが確信を得るためにトライブに話を聞きます。通常のトライブリサーチでは対象者は5人程度ですが、たとえ1人だとしても、話を聞くことには大きな発見があります。

そもそもアイデアは、具体的な1人の顧客の生活を詳細に観察して分析することからのみ思いつきます。確証的リサーチの場合は統計的に有意とされる条件が必要ですが、ゼロから新しい商品を考える場合に必要なデータは1000人の動向ではありません。むしろたった1人を深く観察することが重要です。例えば、中国市場において新しい商品開発をするために必要なのは、中国一級都市在住の20~30代の子育て中の女性N1000人の定量調査の結果よりも、四川省在住で3歳の娘を育てる王さん1人の生活する日々の行動と、その背後にある彼女の価値観を理解することのほうが、遥かに役に立つのです。

 

実際に行ったN1リサーチの事例

最後に、実際にSEEDATAが1人のトライブ調査からインサイト出しまで行った、中国の「精猪男子」というトライブの探索調査の事例をご紹介します。この事例を通じて、N1の調査だけでアイデアを発想することができるということを体感して頂ければと思います。

 

【精猪男子とは?】

中国では、外見に気を配り、積極的にスキンケアやメイクアップをおこなう1990年後代生まれの男性が「精猪男子」です。他の多くの国と同じ様に、お洒落や美容に気を使うのは男らしくないという考え方が一般的でしたが、昨今では、男性ながらスキンケアやメイクアップを実践する人が増えています。

《天猫2017双11正式リリース》によると、2017年の「95後」の男性による美容関連商品の消費額は2015年と比べ60%増と急増しています。また”男性化粧”の検索量は昨年比157%の増加となっており、高い関心が寄せられており、中国の若い男性と化粧の関係性はますます深まっていくと考えられます。

今回はフリーでメイクやモデルの仕事をしている上海在住の精猪男子のTさん(22歳)にN1インタビューを実施しました。

本記事では、調査での発見を一つだけご紹介します。

特に象徴的だったのが「NARSのファンデーションは、男性のニーズをカバーしてくれる。」「ニキビを隠したり、色も目立たない。メイクをしていることはバレたくない。」という発言です。

 

たとえば、1人のこのような発言から、「いくら美意識が高いといっても、やはり男性は化粧をしていることがバレたくないのではないか。そのため、ファンデーションにしても、自分の地肌の色とのマッチ度合いをシビアに確認したり、日中の化粧崩れを絶対に避けようとしているのではないか」という分析をすることができます。

下手な化粧や化粧崩れが起きることは男性にとっては、もしかすると交友関係に影響を与えるほど大きな失敗となってしまうため、この発言だけからでも男性と女性における「化粧崩れ」という現象の意味がかなり異なっていることが分かります。

このことから「男性の場合、日中に特定の誰かに会うときだけ化粧をして、その後すぐに化粧を完璧に落としたいと考える瞬間があるのではないか」と考えを推し進めることができます。

とすると、例えばですが、3 HORUS COSMETICSというコンセプトを作り、3時間だけ絶対に化粧崩れをしない代わりに、3時間後には簡単に取り除くことが出来るといった、今までとは違った商品価値を持った化粧品のアイデアを発想することができます。

 

また「コンシーラーやファンデ―ションを塗る化粧のしぐさは、これまで女性性に強く紐づけられてきたため、女性的に見えてしまうことに問題があるのではないか?」と考えると「化粧を自分に施している瞬間は、絶対に周りの人に見られたくないのではないか」という別の視点についても分析できます。

すると、男性的な化粧の仕草とは何か?この男性的な化粧の仕草を促すパッケージデザインやプロダクトデザインに挑戦することが、メンズ・コスメ市場におけるチャンスになるのではないかと考えることもできます。

たった1人のトライブの、たった一つの発言を出発点にしても、こうしたアイデアを出すことが可能なのです。もちろん対象者の選定やインタビューの技術、分析力などが必要とされますが、たった1人に遠隔インタビュー形式で2時間話を聞くだけで分かることは非常に多いのです。

アイデア発想の段階では、そのアイデアが正しいかどうかはそれほど重要ではなく、発案者が仮説に大してどこまで確信をもって次のアクションに進めるかを重視します。その後検証をおこない、検証ポイントが違えば改善していく形で商品開発や事業開発を進めていきます。

上記の例で言えば、3時間で落ちる化粧道具や、男性的な化粧の仕草を実現するPKGを作成して、実証実験を行ったり定量調査を行うことで、提供価値、およびそれを実現するためのプロダクト仕様などを検証し、更にそれをアジャイル式に改善をしていく流れになります。

検証型リサーチと確信型リサーチについては、こちらの記事でも解説しています。

【商品開発のプロセス③】情報インプット編①着想型リサーチと検証型リサーチ
前回は一般的な商品プロセスと商品開発プロジェクトの心得をご紹介しましたが、今回からは前回お話した商品開発プロセスを詳細に分けてひとつずつ解説していきます。まず今回から情報インプット編のノウハウを3回に渡ってご紹介します。今回は情報イ...

1人の調査から、その人の価値観や考え方に寄り添いアイデアを考えることに関しては、N1からの探索的リサーチが効果的だということがお分かり頂ければ幸いです。

N1リサーチについてさらにご興味を持たれた方は、お気軽にinfo@seedata.jpまで、件名に「N1リサーチについて」とご記入のうえ、御社名、ご担当者様名を明記の上、ご連絡ください。

林直也
Written by
林直也(Hayashi Naoya)
アナリスト