【トライブレポート紹介65】オンライン/仮想空間における、商品販売/体験設計のヒント(バーチャルショッパー)

SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング支援を行っています。トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。
https://seedata.co.jp/blog/tribe/75/

バーチャルショッパーは、VR空間においてスキンと呼ばれるアバター用着せ替えサービスを購入していたり、VRヘットセットを通じてVR空間でコミュニケーションをとっているなど、先進的な消費行動、コミュニケーション行動をとっている人たちです。
VRやARといった先進的技術は、現在はまだキャズムを超える少し前で、アーリーアダプターが市場にいる段階です。そもそもVR用のヘッドセットなどの機器の価格は、まだ一般層が気軽に購入できる価格ではありませんが、今後さらにコンテンツが増え、ニーズも増えていくことで、VRの機材も価格が下がると予想されます。VRがキャズムを超え、今より一般的となった時、どんな事業やサービスに応用できるのかという視点で今回調査をおこないました。本記事では、VRだからこそ得られる体験、その体験が消費財や耐久財の販売プロモーションにどのように応用されていくのか調査した内容の一部をご紹介します。

バーチャルショッパーの示す未来

VR(virtual reality)とは、コンピューターによって作られた仮想空間を現実にいるように体感できる技術と括られており、VRヘッドセットをつけて視覚情報を限定するため、視聴するコンテンツの没入感が非常に高いことが特徴です。現在は視覚的な技術がメインですが、遠隔でも触覚や嗅覚のフィードバックを得ることができる技術も研究が進んでいます。

VR以外にも、現実世界にコンピューターで作られた仮想のものを重ねて投影表示する、AR(Augmented Reality)、所謂「拡張現実」と呼ばれる技術も調べています。
今後、MR(Mix Reality)といわれる技術によって、VRやAR技術と現実世界が統合されていくと言われてます。現実から生み出された仮想現実を、再度現実世界に持ってくるという考えのもと、ホログラムやARグラスなど、現実世界にいながら仮想世界の情報が体験できる技術が研究されています。
仮想現実と現実の境目がなくなっていく未来を見据え、リアルなゲーム体験はもちろん、購買、旅行などの購買行動にどのような影響を与えるのかをリサーチしました。

今回のレポートでインタビューをおこなったセグメントは以下のとおりです。

バビニスト
VTuberとして美少女キャラのアバターをに男性が着用、美少女になりきり(バ美肉)、仮想空間で現実の自分とは異なる存在として、別人格を持って生活している人たちです。

アバタイザー
VRやオンラインサービス上で、自身の分身となるキャラ操作を行う人たちです。
現在VRを用いたゲームでは『フォートナイト』『荒野行動』『あつまれどうぶつの森』などが人気を博し、仮想空間上では今後もさまざな自身の分身と言えるキャラクターが登場すると考えられます。このような仮想空間における、自分と容姿は異なるが、自分と同一視しながらキャラクターを操作する際の体験や行動を調べました。

ライブライダー
VRやオンライン上での映像視聴を行うライブライダーですが、まずは視聴という簡単な行動からはじめ、VRに興味を持てば徐々に、キャラクターの操作、ボディトラッキングと、画面の中に没入していく行動の変容が追えるのではないかと見立て、調査しています。

前提として、VRの機能を活用すると4つに分類して機能価値が生まれます。

①現実空間を代替する空間の機能
人と人が対面でコミュニケーションをする際の空間演出など、空間自体を仮想的に作り出すことが可能になります。

②身体シミュレーションの機能
センサーを装着してボディトラッキングすることで、身体を使った作業のシミュレーションが可能に。例えば触覚フィードバック技術の進歩は医療領域において、執刀の感覚を遠隔でも得られるため、正確な遠隔手術ができるようになると期待されています。

➂物理的シミュレーションの機能
現実に起こる現象を仮想空間で再現できます。さらに、現実空間の変数をいじれることが特徴で、重力や速度をいじれば、投げたボールをスローに見せるといったことも簡単にできます。
また、ボタンを押すだけで仮想空間に表示されるものを切り替えることが可能です。たとえば、卓球のサーブを打ち返せない人がいるとして、相手のサーブの軌道や速度を瞬時に処理できずに打血返せなかったという結果になりますが、仮想空間では、ボールの軌道や回転はそのままに、自分でも打ち返せる速度に変更可能になります。

④異世界への没入機能
さらに、①~➂を組み合わせることで、④異世界へと没入していくことができます。
ポイントは、身体の動きが正確に仮想空間に反映、現実空間にフィードバックされ、現実だとできない瞬間的な映像の切り替えなどが組み合わせられることです。その結果、空間内で求められる振る舞いの学習や、反復練習による身体能力の獲得などができます。

VR空間におけるの苦手分野の反復学習

今回特にご紹介したいのが、身体能力の向上や身体を活用する技術取得についてです。
インタビューを行ったバ美肉してVTuberとして活動している男性は「VRは脳をどれだけ密度高く、短時間で上書きできるかだと思っています」と発言していますが、彼は仮想空間で数分でけん玉ができるようになったといいます。
現実空間でけん玉ができる訳ではなかった人なのですが、VR空間では重力や加速度の調整ができるため、自分がけん玉をふっている感覚がVR に反映され、けんを刺す感覚をリアルに感じられ、リアルでもけん玉ができるようになったそうです。
また、VRでは、トライ&エラーがおこないやすいという特徴があります。
何故なら、自分が打てる落下速度、あるいは自分の動かし方の癖などの外部の変数をVRに入力することで、結果として映像に出力されてフィードバックデータが返ってきます。これにより、仮想空間では現実空間よりも自分がラーニングしやすい形で練習することが可能となります。現実では決してできないことを仮想空間で練習、体験することができ、タイムパフォーマンスは現実空間よりはるかに高いのです。

ほかにも、バレーのサーブを打つのが苦手な人であれば、現実空間では球拾いが必要ですが、その必要もありません。入射角、反応速度などを入力することで、プロが打ち出すサーブのカット練習も永遠と練習が可能になるのです。
あらゆるスポーツの分野で、自分の苦手分野を取り出して反復練習ができるのがVRの利用価値のひとつといえるでしょう。
現在の技術では、既に現実空間の身体感覚とほぼ変わらないレベルでVRに反映させることが可能です。

>VR空間におけるコーディネイト学習

VRの特徴は短い時間で環境の変数を変えられることであると解説しましたが、コーディネイト学習でもこの特徴を発揮します。
VRやアバターの着せ替えは、現実よりも圧倒的に効率的に組み合わせ学習が可能です。その結果、これまで現実世界では試したことがなかった(または合わないと思い込んでいた)組み合わせが実は合うことを発見する機会をくれます。
現実でファッションセンスを身につけたければ、まず実店舗に行き、接客を受け試着し、手持ちの服との組み合わせを考え、お金を払い、自宅で保管し、一着ずつ試す必要があります。一方、アバターやVR空間を活用することで、着せ替えをボタンひとつでこの一連のプロセスが済ませられるため、組み合わせ学習のスピードは飛躍的に上がります。
しかも全体俯瞰ができるため、「この服装にはこのキャップが合う」「このドレスにはこの靴は合わない」なども学ぶことが可能です。

最近コロナの影響で、『あつまれどうぶつの森』内でのアバター服のコーディネイトサービスも登場していますが、仮想空間でアバターに着せた服の組み合わせから、新たなコーディネイトに気が付くことができます。
もちろんアバターはリアルな人間のスタイルとは異なりますが、膨大な組み合わせを試すことで、これまで何かしらの制約があり現実空間では着られないと思っていた組み合わせが、現実空間でも「着られるかもしれない」に変容していきます。
たとえば、ある10代の高校生は、3Dアバターソーシャルアプリ『ZEPETO(ゼペット)』
で、アバターに蛍光イエローの服を着せたのをきっかけに「自分にも似合うかもしれない」と気が付き、これまで着なかった色の服を購入したといいます。
このように、現実空間でのバイアスを排除できるという意味で、コーディネイト学習分野に大きなチャンスがあるといえるでしょう。

ここから考えられる今後の機会領域として、家具のコーディネイトがあげられます。現在はVR空間で家具を配置して自分の部屋に物理的に配置できるかどうかを確かめることしかできませんが、この技術を応用すれば、そもそも買いたい家具と自宅の家具が部屋全体で見たときに統一されていておしゃれに見えるかどうかを瞬時に試すことが可能です。とくに個別具体的に見ることと全体俯瞰的なコーディネイト学習のパフォーマンスの高さはVRが圧倒的といえるでしょう。
これまで専門的に学ばれてきたコーディネイトというジャンルを、彼らは無意識に学習しているのです。

自分の能力の限界値を引き上げるために仮想空間で練習をおこなうようになる

これらの背景を受け、考えられる未来の生活者行動のひとつが「自分の能力の限界値を引き上げるため仮想空間で練習するようになる」というものです。
基本的に団体競技は1人では練習できることに限りがあり、メンバー同士の技術レベルにも差があるため、圧倒的にレベルの高いメンバーとはそもそも練習にならず、身につくはずの技術・スキルも身につかない場合があります。
VR技術があれば個々のレベルにあわせたトレーニングを効率的に行うことができるためこの課題を解決することができるのです。
また、一定以上の成長のあとは一度成長が一度止まりますが、前述のように苦手な部分のみ反復練習することで、最短期間で個人の能力の限界を引き上げることが容易になるため、教育系のサービスには大きなチャンスがあります。

また、コーディネイト分野では、装飾品やファッションは、そのもの単体ではなく、自分が持つ服やほかのものとの組み合わせでどう見えるかが重要な要素です。
これまでは奇抜であればあるほど利用者の購入ハードルは高くなっていましたが、これをアバターを通じてコーディネイト学習をすることで購入するようになるというのが今回の調査から分かった大きな気づきです。
購買の際に重要なのは、実際のサイズがどれだけ合うかということですが、そこでいずれ発生すると予測できるのが、アバターによるサイジングです。アバターの等身の比率と自分の等身比率を同じにしておけば、煩わしいサイズ選択がなくなり、あとはアバターで着せてみて、いいと思ったものをすぐさま購入するという行動は一般化していくのではないでしょうか。

このほかにもVRにはさまざまな活用用途があります。たとえば、物理的に空間を切り替えられることで世界感に没入しやすいことをいかした新しいエンタメやライブの仕組みなどについて本編では洞察しています。
VRのような先進技術は一見自社領域と無関係に思われがちですが、ユーザーがVR空間で現実世界とは異なる体験をすることで、商品に対する購買意識や購買行動も変わってきます。レポート本編ではさらに幅広い分野での用途展開についても分析しているため、先進的な購買行動に取り組みたいメーカーの方は、VRやオンラインでの販売方法のコンセプト開発にぜひ活用してください。
トライブレポート本編の内容につきましては、info@seedata.jpまでお問い合わせください。

宮下英大
Written by
宮下英大(Miyashita)
チーフアナリスト